製作にスゴイ秘密が!? 裏側を知ってから見るとより面白い‶オンリーワン″な映画3選
ずいぶん長く残暑が続いていましたが、だんだんと肌寒い日も増え、秋めいてきました。
秋と言えば、芸術の秋!!
総合芸術と言われる映画をじっくりと楽しんでみてはいかがでしょうか?
ということで今回は、面白いだけでなく、こだわりの強い映画を3つ紹介します。
テーマは<オンリーワン>!!
他にないこだわりがあるだけでなく、「1」という数字がキーワードになる作品を選びました。
‶1人″で何役こなすんだ?
ナッティ・プロフェッサー クランプ教授の場合
1996年の映画で、主演はエディ・マーフィです。
生物学科教授のクランプ(演:エディー・マーフィー)は極度の肥満で、それが最大のコンプレックスでした。太っているせいでヘマをすることもしばしば。そこでクランプは開発中の痩せ薬を飲みます。薬によってスリムになったクランプはバディ・ラヴを名乗って自信満々の生活をしだしますが、バディとしての人格はやがて大暴走してしまいます。
スラップスティックコメディでもあり、ラブストーリーとしても楽しい本作ですが、注目したい<オンリーワン>が、エディー・マーフィーの1人7役です。
本作でエディー・マーフィーは、主人公の「クランプ教授」と痩せた姿の「バディ」だけでなく、クランプ家の面々やインストラクターのランス・パーキンスを一人で演じ分けています。
2007年には『マッド・ファット・ワイフ』で1人3役を演じた結果として、最低映画を決めるラジー賞で最低主演男優賞、最低助演男優賞、最低助演女優賞を同時に受賞してしまうという不名誉を受けたエディー・マーフィー。
一人で複数役こなすのは簡単なことではないようですが、本作『ナッティ・プロフェッサー』では1人7役が効いて、イイ感じなコミカルさを演出しています。
なお、本作は特殊メイクなどが評価され、アカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞しています。ご覧の際には、エディー・マーフィーの七変化にも注目しましょう。
‶1つ″のシーンにこだわりすぎ!
ダイヤルMを廻せ!
1954年の映画とかなり古い作品ですが、いろいろと斬新な映画です。
監督はサスペンスの巨匠・アルフレッド・ヒッチコック。
ヒッチコックの作品と言えば、大ヒット作の『サイコ』や、町中を鳥が埋め尽くす映像にゾッとする『鳥』が有名ですが、本作もそれらに劣らない名作です。
内容は元テニス選手のトニー・ウェンディスが、資産家の妻・マーゴを殺害して遺産を手に入れようと画策するストーリーです。殺人計画が成功するのか。マーゴの運命はどうなるのか。家にやってきた警察がどう動くのか。派手なシーンこそないですが、緊張感のある展開はスリル満点でハラハラしながら楽しめる作品です。
本作ですごいのは、ほとんどの場面が<1つの部屋>の中だけで構成されているところです。
殺人計画をするシーン、計画を実行に移すシーン、警察の捜査シーン、いずれも同じ家の中で展開されます。外に出るシーンも少しありますが、ストーリーの中心は常に家の中で進んでいきます。
ですが、同じ映像が続く退屈さや、狭苦しさは感じません。
動きのない会話劇にならず、活き活きとした映像になっているのは、カットの切り方や小道具の使い方が絶妙だからでしょう。
もう一つ、<オンリーワン>のこだわりが、タイトルの由来にもなっている電話をかけるシーンです。
現在の配信やDVDは2D映像なのですが、公開時の本作は3D映画として作られていました。
当時の3D映画は、左右で赤と青など色の違うフィルムを張ったメガネをかけて観るアナグリフ方式という方法で作られていました。
現在の偏光フィルターを使う3D映画と違って、色彩の再現などにどうしても問題がありますが、当時は実験的な試みとしてかなり流行したそうです。2000年代初めまではこの方式の3D映画が作られていたので、20代以上の人は、あの赤と青のメガネをかけたことがあるかもしれません。
問題の電話シーンを3Dで鑑賞すると、電話のダイヤルに指が迫ってくるように見える演出になっていたそうです。
殺人計画のため、早く電話をかけなければならない。そんな緊迫した状況で、指が浮かび上がってくれば、印象的な演出になるでしょう。
ところが、このシーンがとても困難でした。
3D映像を撮るためには、左右の目を再現するように、同じシーンを少し位置を変えた二台のカメラで同時に撮影する必要があります。
しかし、当時のカメラは大型で、二台並べると左右のカメラの距離が大きく離れてしまいました。これでは電話をかける指先という小さな対象を3D撮影するのは不可能でした。カメラ同士の距離が離れすぎるため、左右で全く違う映像を撮影する(片方には指が映らない)ことになり、組み合わせても3D映像にならないのです。
そこで、ヒッチコックたちは、巨大な電話と巨大な指の模型を作り、それを利用して3D映像を作り上げたのだそうです。
電話をかける後姿だけを撮影しておけば手間はかかりません。ですが、<ワンシーン>のために知恵を絞り、労力を惜しまない姿勢があったからこそ、良い映画を作ることができたのでしょうね。
これが全編‶1カット″?
ヴィクトリア
2015年公開の、ドイツで制作されたクライム・スリラー映画です。
ベルリンに引っ越してきたばかりの若いスペイン人女性・ヴィクトリアが、深夜に4人の若い男たちと出会うところから始まります。
夢破れて知らない町にやってきた若い女性と、気さくな男たちとの交流。最初は青春映画のように始まる本作ですが、中盤から物語が大きく動き出します。若い男たちの車に乗せられて向かった先の駐車場で、ヴィクトリアはある大きな犯罪に巻き込まれるのです。終盤には銃撃戦など派手なシーンもあり、息もつかせぬ劇的な展開が続きます。
本作で<オンリーワン>なのが撮影方法です。
実は本作は、約140分ある全編がワンカットで撮影されています。
普通の映画やドラマは、シーンごと、セリフごとに映像を区切り、細かな映像をつなぎ合わせる形で作られています。その一つ一つの映像がカットと呼ばれます。
しかし、本作には映像の切れ目がなく、全編が1つのカット(長回し映像)でつくられているのです。
邦画では、低予算映画ながら異例の大ヒットを記録した『カメラを止めるな!』(2017)の中で30分ほどのワンカット映像が使われていて話題になりました。
本作はその3倍以上の約140分、本編全てがワンカットだと言うから衝撃的です。
ストーリーには、「もはや、リアリティがない」と言いたくなるほど劇的過ぎる部分がありますが、これは深夜から夜明けまでのわずかな時間で、主人公・ヴィクトリアの人生がまるきり変わってしまう様子を描くためにあえてそういうプロットにしているのでしょう。
ワンカットのため「場面転換」や「時間の飛躍」がなくリアルタイムに繰り広げられる物語はとても見ごたえがあります。視聴後には長い連続ドラマを見終わったときのような満足感を得られるはずです。
深夜から夜明けに向かい徐々に明るくなっていく映像も、犯罪映画ながら、どこか幻想的で魅了されるでしょう。
なお、一発撮りで途中のミスが許されない本作には、細かな台本がなく、メインキャラクターたちのセリフの多くは俳優たちのアドリブで作られているのだそうです。
今回紹介したのはどれも、オンリーワンなこだわりのある映画でした。
中にはとても古い作品もありますが、いずれも見ごたえがあり、夜長に楽しむにはもってこいの作品たちです。
映画は総合芸術。芸術の秋に目覚めた際には、チェックしてみてはいかがでしょうか?