欧州/EUはコロナウイルスにどう対処している?国境は開放したまま?:イタリアで感染者増大
イタリアでの感染者の増大を受けて、欧州連合(EU)はどういう対策を取っているのか。
隣国は「イタリアとの国境を閉じろ!」という要求はしないのだろうか。しているのなら、国境管理が無い移動を欧州統合の大きな柱としているEUは、どう反応しているのだろうか。
また極右が嘘の発言
極右の人たちは「国境を閉じないのはEUのせい」と攻撃する傾向がある。
フランスの極右と呼ばれる「国民連合」党のマリーヌ・ルペン党首は、相変わらずの調子だ。
「この問題で、EUが一言も言わないのが驚きだ。EUなんて何の役にも立たない。唯一言ったのは、国境管理の実施を非難することだけだ」
「EUの指導者たちは、国境がないというのが強いイデオロギーなのだ。ほとんど宗教である」と発言したという。
しかし、これは完全に間違いである。インチキ発言のたぐいである。
結論を言うと、イタリアの隣国も含めて、EU加盟国のどの国の政府も首脳も、「国境を閉じるべき」という要請をEUにしていない。
通知するだけで良い
実は、人と物の自由な移動を保証して管理する「シェンゲン協定」は、例外的な条件下では、国境管理を認めている。
しかも、EUに承認してもらう必要すらない。通知するだけで良いのだ。通知するだけで、各加盟国は、国境管理を取り戻すことができる。
具体的には「公共の秩序や、内部の安全に関わる深刻な脅威が発生した場合は、関係国は、例外的に国境管理を再導入することができる。最大30日間(規則で定められた条件下で延長可能)、あるいは重大な脅威が予見できる期間である。この手段は、最後の方法として取られるべきだ」―ーとある。(正確には、EUと欧州評議会に通知する義務がある)。
実際に、2015年11月のテロの際にフランスが、移民危機の際にはドイツ、オーストリア、デンマーク、スウェーデン(とノルウェー)が、この措置を発動して、国境管理を復活させたことがある。
「シェンゲンの危機」と呼ばれたが、その後、EU機関と関連国首脳や大臣の努力によって克服された。
党首ともあろう者が、全く無知で全くのデタラメをべらべらとしゃべるのは、本当に困ったものだ。
党首の発言というのは、それだけでニュース性がある。うっかりすると、メディア側が全くのインチキ、全くの嘘を、一般に広めてしまうことになるのだ。こういう時代には、メディア側の知識やチェック体制が、とても重要になる。
イタリアを囲んで合意済み
今回はどうだろうか。移民とウイルスは違う。
EUとイタリア、フランス、スイス、オーストリア、スロヴェニア、クロアチア、ドイツの閣僚が会合を開いた。すぐ後の2月24日、イタリアのスペランザ保健相は、イタリアの近隣国は「国境を開放したままにしておく予定である。なぜなら、閉じることは間違いであり、不釣り合いだからだ」と述べた。
さらにEUの健康担当委員(大臣に相当)キリヤキデス氏は「この状況に真剣に取り組む必要がありますが、パニックに陥ってはならないし、もっと重要なのは、誤った情報に踊らされないことです」と語った。ル・モンドが伝えた。
国境管理をしたければ、通知するだけでできるのに、どの国の政府も国境管理を厳格化して国境を閉じないのは、そういう措置をするのは非現実的だとわかっているからだろう。
日本だって同様である。島国の日本のほうがコントロールしやすいはずで、すべての飛行機と船舶を止めて鎖国状態にすれば、少なからず効果はあるように思える。
でもそんな措置をしようとはしない。日本も欧州も理由は同じである(今後どうなるかは不明)。
それにしても、ヨーロッパは大したものだ。EUという舞台があって、近隣国で民主的に話し合えるシステムが整っているのだ。東アジアはバラバラである。こんなときこそ、中国、韓国、北朝鮮、日本、香港、台湾、その他近隣国は、集まって率直に話し合って情報交換をし、協力して対策を立てるべきなのに。
集まって話す機構もないし、「自分の国だけで精一杯」と、集まろうとする意志もない。もっとも集まって話したところで、あれらの政治体制では疑心暗鬼に陥ってしまうに違いない。民主度とは、こういう時にも問題になる。
それでも、何か共通の対策くらいは立てられるはずだ。国境など関係ないウイルスを相手に、いつものごとく各国バラバラに動いている。ため息が出るばかりである。
国際的対応が速い
こんな東アジアだから、国際的な対応など望むべくもない。
この点に関してEUが取った対策は、「しかるべき機関に、大金をさっと投じる」である。
具体的には、以下のものがある。
◎1月28日 コロナウイルス危機について伝える。欧州市民が中国から帰還するために「市民保護メカニズム」を発動することを発表(日本人の帰還1機目は1月29日武漢発)。
◎1月31日 研究とイノベーションを促進するためのプログラム「Horizon 2020」において、ウイルス研究の支援プログラムに1000万ユーロ(約13億円)の助成を行うことを決定。
◎2月10日 国際協力と強調を強化することを呼びかける。
◎2月12日 「雇用、社会政策、健康、消費者」評議会(EPSCO)の臨時会議を発表。
◎2月24日 2億3200万ユーロ(約300億円)の特別基金を使うと発表。内訳は、世界保健機関(WHO)に1億1400万ユーロ、医療研究に1億ユーロ、アフリカでの疫学的調査に1500万ユーロ、そして中国からの帰還に300万ユーロ。
さらに、欧州疾病予防管理センター(EU機関。本部はスウェーデン)でリスク評価を更新し、イタリアの状況を調べ、今後のシナリオと行動を考える。
――このように、EU27加盟国で共同の措置をとるだけではなく、WHOへの緊急支援も忘れない。
そういえば、日本からの国際支援は、中国への支援はニュースになったが、他が聞こえてこない。
調べてみると、モンゴルへの支援があった。実施中の技術協力プロジェクトの枠組みで、個人防護具(総額300万円相当)を現地で調達し、モンゴル保健省に引き渡したとのこと。JICA(国際協力機構)の働きという。
こういう事態が起きると、さっと国際レベルで動くのは、EUの強みだと思う。アメリカほどの大国で、多国籍出身者が集まる国ならともかく、たった1カ国では、できることも見えることも、どうしても限られてしまう。27カ国が協調しているために、あらゆる国際舞台でEUの存在感が増すのには、もっともだと感じる。
1カ国は心細い
今後、誰がコロナウイルスに効く医薬品を開発するのだろうか。
おそらく、アメリカか欧州(EU内)で開発されるのではないか。どちらも技術力、資金力、国内と国際の両方の政治力・行動力・組織力・影響力、すべてが群を抜いているからだ。
欧州は、もしEUという機構がなかったら、ここまで大きな力は持てなかっただろう。
日本は技術力だけはあるが、その他が乏しすぎる。中国は、発生源としての特別な情報があれば、可能かもしれない。
医薬品といえば、世界でアメリカ(と日本)の団体と並んで巨大な力をもっているのは、「欧州医薬品庁」である。ヨーロッパの医薬品の行政を担当する、EU機関である。
これはイギリスにあった。しかしブレグジットで、オランダに引っ越してしまった。周りにあった関連団体もごっそりと移転。
ジョンソン首相は、独自の規制をつくると息巻いているが、医薬品もそうなのだろうか。どこまでたった1カ国でできることやら・・・。やれるものなら、お手並みを拝見したいものだ。