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「虚言癖」のある新入社員が職場を大混乱に! なぜ誰も気づかなかったのか?

横山信弘経営コラムニスト
嘘がばれても態度を変えない……(写真:イメージマート)

新入社員の入社は、職場に新しい風を吹き込む機会だ。しかし時として予期せぬ問題を引き起こすこともある。

ある日、一人の新入社員が入社してきた。彼女は明るくエネルギッシュで、コミュニケーション能力も高く、周囲の評判も良かった。だがその裏で彼女の言動が少しずつ職場に波紋を広げはじめたのである。そして数か月後、職場は大混乱に陥った。原因はその新入社員の「虚言癖」だった。なぜ誰も気づかなかったのか?

今回は、虚言癖のある人3つの特徴と、そのような人が職場にもたらす影響について解説した。採用や教育に携わる人事担当者はもちろんのこと、経営者やマネジャーも、ぜひ最後まで読んでもらいたい。

■そもそも虚言癖とは何?

虚言癖とは、しばしば無意識に嘘をつくクセのことだ。

自己中心的な目的や周囲の注目を引くために、現実とは異なることを頻繁に言ったりする傾向がある。また虚言癖のある人は、嘘をつくことへの抵抗感が薄い。嘘が明らかになってもあまり罪悪感を抱かず、問題に向き合わないことも多い。

一般的な嘘は、特定の状況を乗り切るためや、他人の気分を害さないために使われることがある。いっぽう虚言癖は常習的で、必ずしも明確な目的がないままのこともある。

また虚言癖は、心理的な問題や精神疾患が原因の場合もある。専門家によると、虚言癖は自尊心の低さや承認欲求の強さ、過去のトラウマなどが原因で発症することがあるという。そのため単純に「嘘つき」とレッテルを貼っていいか悩ましい部分もある。

■虚言癖のある人3つの特徴

虚言癖のある人には、いくつかの共通した特徴がある。主な3つの特徴を取り上げたい。

(1)自己顕示欲が強い

(2)嘘の内容が一貫しない

(3)嘘がばれても態度を変えない

それでは、一つ一つ解説していこう。

(1)自己顕示欲が強い

虚言癖のある人は、しばしば自分を大きく見せようとする。

実際よりも素晴らしい経歴や能力を持っているかのように振る舞い、周囲の注目を集めようとする。たとえば「著名人と親しい」「あの有名経営者とプロジェクトに関わったことがある」などと言ってマウントをとろうとするのだ。

少しばかり「盛る」ぐらいならともかく、ゼロから話を創り上げる(でっちあげる)ことも多い。

(2)嘘の内容が一貫しない

虚言癖のある人は、状況に応じて嘘の内容を変えることが多い。そのため時間が経つにつれて矛盾が生じやすくなる。

たとえば、ある人には仕事を休んで「海外旅行へ行っていた」と言うのだが、他の人には「入院していた」と言うようなことがある。しかも旅行の内容、入院の体験談などを詳しく語るため、多くの人は嘘だとは見抜けないのだ。

(3)嘘がばれても態度を変えない

短い付き合いなら、嘘は簡単に見破られないだろう。しかし付き合いが長くなるとだんだんと違和感を覚え始めるものだ。「この前と言っていることが違う」「辻褄が合わない」と思えることが増えるからだ。

しかしたとえ嘘がばれても、それほど悪びれることがない。普通の人なら、恥ずかしさや罪悪感を覚えるものだが、虚言癖のある人は、平然と「新たな嘘」で取り繕おうとしたり、話題をそらしたりする。

■なぜその嘘に気付かないのか? その理由とは?

先述した通り、虚言癖のある人の嘘を見抜くことは難しい。その理由は、いくつかある。

第一に、「真実バイアス」だ。このバイアスは、相手の言葉を基本的に信じようとする人間の心理的傾向が影響している。

とくに初対面の人や新しい環境では、この傾向が強く働く。新入社員の場合、周囲の人々は好意的に接しようとするため、多少の違和感があっても見過ごしてしまいがちだ。

第二に、「巧みな話術」である。

虚言癖のある人は、多くのケースで巧みな話術を持っている。彼ら彼女らの空想力、発想力は並外れていて、具体的なディテールにまで嘘を散りばめることができる。

「親が金持ちだ」という大きな嘘のみならず、「親の休日の過ごし方」「親の交友関係」などといった細かい嘘も瞬時に思いつく。そのため、嘘を見破るのが難しくなるのだ。

第三に、「演技力」だ。

普通の人は、嘘をつくと表情に出る。態度に出る。だから「いつもと違う」ことで、相手に勘づかれるものだ。しかし虚言癖のある人は演技力が高いため、「嘘がばれるのではないか?」という不安や衝動をコントロールできる。

よほど「動かぬ証拠」を見つけない限り気付くのは難しい。

■虚言癖のある新入社員が職場を大混乱に!

ある IT 企業で起きた事例を紹介しよう。

新入社員の Aさんは、入社当初から周囲の評判が良かった。コミュニケーション能力が高く、仕事も要領よくこなしていた。しかし入社から3か月が経ったころ、少しずつ問題が表面化しはじめた。

まずは、業務遂行力だ。Aさんは実際にはできない業務でも「できます」と言って引き受けていた。企画書作りや、お客様に対するプレゼンなら、多少「言うほどできないな」と上司が受け止めても、それほど問題ではなかった。

しかしプログラミングの依頼まで引き受けたときは、大問題となった。実際には基本的なコードも書けなかったのである。そのためチームの進捗に大きな遅れが生じた。

お客様やパートナー企業との関係を捏造したことも、大きな問題になった。

「学生時代に、この会社の部長から声がかかったことがある」「親が常務と親しい関係にある」などと周囲に吹聴したのだ。これを真に受けた上司が取引先やパートナー企業とコミュニケーションをとったため、それらの関係性に悪影響を及ぼした。

他にも自分の成果を過大に報告したり、他のメンバーの成果をあたかも自分の手柄として報告したりした。

致命的だったのは、入社半年後に行われた社内発表会での出来事だ。社長はじめ、経営陣の前で、Aさんは入社後の6ヵ月でどれぐらい会社に貢献できたかを流暢に発表。社長に「素晴らしい」と言わしめたが、その内容にかなりの虚偽が含まれていて上司は混乱した。

上司はシステム開発の仕事は任せられないと判断。経営企画部へ異動させたいと申し出た。ところが企画部が強い態度で拒否。しばらく受け入れ先が見つからなかったが、結局、1年も経たずにAさんは退職。混乱した職場の生産性は著しく落ちることになった。

「たった一人の新入社員に、まさかここまで振り回されるとは思わなかった」

■虚言癖のある社員には、どう対応すべき?

虚言癖のある社員に対処するには、以下のような方法が考えられる。

まずは採用段階から注意深く観察することだ。面接時に経歴や能力について具体的に質問し、矛盾がないか確認する。言動に一貫性があるか注意を払おう。よほど芸達者でない限り、見破ることはできるはずだ。

もしも疑問や懸念を覚えるようなことがあれば、明確な業務指示とその成果をしっかり確認するようにすべきだ。曖昧な指示は避け、具体的な目標と期限を設定する。そして定期的に面談し、客観的なフィードバックをし続けよう。

「多少の嘘なら通用する」

と思われたら、どんどんエスカレートしてしまうだろう。もしも心理的要因が影響していると受け止めたら専門家に相談しよう。いずれにしても早期発見、早期対応が重要だ。

虚言癖がある人は滅多にいない。しかし一人でもいれば職場環境に大きな影響を与える。業務の生産性は落ち、メンバー間の信頼関係にヒビが入ることも多い。

上司は日ごろの対話の中で、啓蒙活動も意識していこう。社会人としての常識とは何か、誠実さとはどういうことかも説いていくことが大事だ。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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