【もっとも人間関係に悩んだウルトラマンって誰?】異色作「ウルトラマンネクサス」の衝撃と魅力とは?
みなさま、こんにちは!
文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。
いよいよ新年度に入りました。皆さまいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回のテーマは「絆(NEXUS)」です。
入学式や入社式、転職といった様々なイベントを通じて、新たな世界へと旅立つ人達も多いこの季節。
新たな人間関係の構築に期待を寄せている人もいれば、不安を感じている人もいるかもしれません。
学校や職場での人間関係とは実に複雑なもの。上手くコミュニケーションがとれずに悩んだり、良好な人間関係を築こうと思っても、衝動的に攻めてくるような情緒不安定な人もいます。
しかし、人間関係とは悪いことばかりではありません。新しい世界の中で「友達」や「恩師」ができ、彼らと同じ時間を共に過ごしていくからこそ、人と人との間にかけがえのないものが生まれます。
ーそれが「絆(NEXUS)」です。
そこで今回は、2004年の放送開始から今年で誕生20周年を迎える「絆」の名前を冠したウルトラマン。『ウルトラマンネクサス』の物語をご紹介します。
※本記事は「私、アニメや特撮にくわしくないわ」という方にもご覧頂けますよう、可能な限り概要的にお話をしておりますので、ゆっくり肩の力を抜いて、気軽にお楽しみ頂けますと幸いです。
【ウルトラマンが弱体化?】人を捕食する怪獣を秘密裏に排除する防衛チーム・・・イレギュラーだらけだったウルトラマンネクサスの物語とは?
さて、ここからは『ウルトラマンネクサス(2004)』の物語についてお話をして参りたいと思いますが、その前に少しだけウルトラマンシリーズについてご紹介をさせてください。
ウルトラマンシリーズは、株式会社円谷プロダクション制作の特撮ヒーロー番組『ウルトラマン(1966)』(及び特撮怪獣番組『ウルトラQ(1966)』)を起点とするシリーズです。
1966年に『ウルトラマン』が放送され、M78星雲「光の国」からやって来た身長40mの銀色の宇宙人が巨大な怪獣と戦い、最後は必殺光線(スペシウム光線)で怪獣を退治するという物語はたちまち子ども達の心を掴み、最高視聴率42.8%、平均視聴率36.8%を記録する大人気番組となりました。
大衆的な人気を博した『ウルトラマン(1966)』の放映終了後も、その次回作である『ウルトラセブン(1967)』、『ウルトラマンタロウ(1973)』、『ウルトラマンティガ(1996)』、『ウルトラマンコスモス(2004)』、『ウルトラマンブレーザー(2023)』と世代を跨ぎながらシリーズが続いていきました。
今年7月6日には、最新作『ウルトラマンアーク(2024)』(外部リンク)の放送が予定されています。
そんな約60年にも渡る長い歴史を持つウルトラマンシリーズの中から、今回ご紹介するのは、2004年に放送された『ウルトラマンネクサス』。
『ウルトラマンネクサス』は2004年10月2日から2005年6月25日にかけて、毎週土曜日朝7時30分から30分番組として全37話が放送されました。
「1年を通じて50話くらい放送してた他のウルトラマンと比べて短くない?」
・・・と言われますと、正直その通りだと思います。実はこの『ネクサス』、作品が持つ独特さ故に、放送短縮を余儀なくされたウルトラマンだったのです。
つまり、他のウルトラマンシリーズと比較しても極めてクセの強い作風である故に、放送当時は子ども達をはじめ大衆的な支持を得るのが難しく、放送が3クール(全37話)と短縮されてしまったのです。しかしながら大きな路線変更もなく最後まで駆け抜けた『ウルトラマンネクサス』。その物語を概要的に紐解いてみましょう。
(ウルトラマンネクサス)2004年10月2日~2005年6月25日 全37話
西暦2009年、警察の山岳救助隊員であった孤門一輝は地球解放機構TLTに所属する特殊部隊、「ナイトレイダー」の隊員としてスカウトされる。孤門は当部隊において、地球には宇宙から人を食い殺す異星獣「スペースビースト」が飛来しており、ナイトレイダーの仕事はそれを一般に知られることなく秘密裏に抹殺することを聞かされた。人を捕食するスペースビースト、それと対峙するウルトラマンの存在、両者を目撃した人々に対する記憶消去処置・・・と驚愕の事実を聞かされながらも、孤門はナイトレイダーの職務を全うしていく。しかし孤門は上司である西条副隊長との人間関係に悩み、さらに自分の恋人も殺害される等、絶望も経験する。そんな孤門に手を差し伸べたのはウルトラマンネクサスだった。ネクサスとの関係を通じて何度も立ち直った孤門はひとりの人間として成長していく。しかし、実はスペースビーストを裏で操り、邪悪の魔神(本作のラスボス・ダークザギ)として暗躍していたのは、なんとナイトレイダーの石堀隊員だった。西条副隊長の心の闇を利用し完全復活を遂げたダークザギは新宿で破壊の限りを尽くす。闇に飲み込まれかけた西条副隊長に手を差し伸べた孤門に、ウルトラマンネクサスの光が受け継がれ、孤門はネクサスに変身する。圧倒的な力を持つダークザギの前に苦戦を強いられるネクサスだったが、それを見守る人々のネクサスへの声援が彼に力を与え、ネクサスは神秘の巨人、ウルトラマンノアへと姿を変えた。ノアがダークザギを倒し平和を取り戻して1年後。スペースビーストの存在は一般に公表され、孤門はナイトレイダーの隊員として戦う日々を続けていくのだったー。
読んでいただくとおわかりの通り、本作の世界観はシリアスかつ複雑です。連続ドラマ形式で、「ウルトラマンに変身しない主人公」である孤門の視点から、全37話を通じて彼の苦悩と成長のドラマが描かれます。さらに本作最後の敵が、実は主人公と同じチームの隊員でしたという意外性も、異彩さを放っています。
主人公である孤門一輝ですが、受難続きの悩める青年。彼は上司に何度も叱られ、恋人を殺され、怪獣から女の子を救出できず被害者に責められ、心が折れて職場から逃げだしたり等、大変不憫な思いをしてきたにも関わらず、極めつけは同じ職場の人物が実は悪者(ラスボス)で孤門を騙していましたという、次々に彼を苦しめる展開が立て続けに起こっていました。約60年のウルトラマンシリーズの歴史においても、これだけ人間関係に苦しめられた主人公も非常に珍しいと思います。
そこで浮かぶのが「主人公が変身しないなら、誰がウルトラマンに変身するの?」という疑問。ネクサスに変身するのは適能者と呼ばれるウルトラマンに変身する資質を持った一般人でした。よって、従来のウルトラマンシリーズのように「○○隊の隊員」が変身するわけではありません。しかもウルトラマンネクサスに変身する人物はひとりではなく、はじめに変身した人、2人目に変身した人、3人目、4人目・・・と変身する人物(適能者)が存在しており、リレー形式で変身する人達が変化しながら、ウルトラマンが進化していくことが特徴でした。職業もバラバラで、自衛隊の二等空尉や戦場カメラマン、遊園地でアルバイトをしている17歳の少年等、多種多様な人物がウルトラマンに変身するのが特徴でした。
ナイトレイダーがピンチの時、必ず現れるウルトラマン。正に「頼みの綱」であるウルトラマンネクサスですが、言ってしまえば「弱いヒーロー」でした。
ネクサスは怪獣をよく取り逃がす上、戦いが終われば「ぜえぜえ」と肩を揺らすことも多く、変身している人物達は常に苦悩し、「ウルトラマンになること=過去に罪を犯した自分への罰」とネガティブに捉える者、さらには、自らの命が短いことを悟り、自分は死んでも良いと思って変身する者もいた状況でした。
そんな頼みの綱であるウルトラマンの葛藤に加え、朝番組にも関わらず怪奇やホラー描写も多用されます。度重なるスペースビーストによる人間の捕食描写、救いようのない展開に巻き込まれる被害者、人の心を弄ぶ闇の巨人、そして主人公・孤門の恋人の精神崩壊からの死亡と、重い展開が続いていました(本作は朝7時30分放送の朝番組です)。実は、過去のウルトラマンシリーズに登場した怪獣達の中には「人を食べる」怪獣こそ存在していたものの、その数は限定的でした。ゴジラが人を食べないように、ウルトラマンシリーズの怪獣達もそれに倣っていたものが多い中、『ネクサス』のスペースビーストは人をひとり、またひとりと断末魔と共に捕食していくので、奇々怪々なビジュアルと共に、抜群に怖い存在だったのです。
もはや深夜番組並みのシリアスさだった『ウルトラマンネクサス(2004)』。その結果、視聴率や商業展開においても大きな苦戦を強いられることになりました。放映初回こそ視聴率は5.2%を記録したものの、以降は5%を超えることはありませんでした。また、その独特の作風はこれまでのウルトラマンシリーズのファンからも賛否両論の反応も起こり、保守的なファンからは「暗い」だ「判りづらい」だ「こんなのウルトラマンじゃない」等々の辛辣な意見も多かったようです。
作品は上述したとおり、暗く重い展開こそ続きましたが、だからこそやっと孤門がウルトラマンに変身し、ウルトラマンノアが降誕する展開が大きな感動を呼んだのです。これまで辛酸を嘗め続けてきた孤門が報われたような気がして、放送当時は大変嬉しかったのをよく覚えています。
ウルトラマンノアは神のごとく凄まじい力を有した、究極最強形態の光の巨人。
しかしノア(孤門)の強さの源は、彼に声援を送る人々との強い絆の力でした。
正に、「絆こそ光」を具現化したウルトラマンだったのです。
『ネクサス』の放送終了後、シリーズのバトンは次回作のウルトラマン(『ウルトラマンマックス(2005)』)へと渡されることになりますが・・・その後ネクサスは活躍していないのかというと、決してそんなことはありません。
むしろ、放送終了から現在にかけて再評価の気運が日に日に高まっており、ネクサス自身も後のウルトラマンシリーズのテレビや映画で再登場を幾度も果たしてきたほか、原点である『ウルトラマンネクサス(2004)』もインターネット動画配信や関連催事の開催、さらには女性ファンにも人気の高いぬいぐるみ(ふわぬい)をはじめとする商品展開(外部リンク)の活性化、また本作のラスボスであるダークザギに焦点を当てた「ダークネスヒールズ」と呼ばれるコンテンツの舞台化等(外部リンク)、ウルトラマンネクサスに縁のあるキャラクターの活躍を目にする機会が多々溢れてきました。
その人気は国内だけに留まらず、中国を筆頭とするアジアの国々にも及んでおり、私も中国本土を訪れた際、現地でのウルトラマン商品の豊富さに驚いたものです。アクションフィギュアにソフトビニール人形等、現在も国境を越えてウルトラマンネクサスの躍進は続いています。
そんな『ウルトラマンネクサス(2004)』も今年2024年で番組放送20周年。
大人になった今も本作を観直す度に「ウルトラマンネクサスって不思議なシリーズだな」と思うことが多々あります。
確かに、20年前の初放送時は土壌が整わず、受け入れ難かったのかも知れません。
しかし「絆(NEXUS)」をテーマとした『ウルトラマンネクサス(2004)』の真髄に倣うならば、20年という長い時間をかけて少しずつ、少しずつじっくりと、ネクサスは人々と深く長い絆を紡いでいったのではないかと思います。
そしてその絆がこれからも時間や国境を越え、新たな世代へと継承されていくことを心から願っております。
ーNEXUSーそれは受け継がれる魂の絆。
最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。
(参考文献)
・杉田篤彦、『ファンタスティックコレクション ウルトラマンネクサス』、朝日ソノラマ