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【医師わいせつ逮捕事件・続報】続く勾留、釈放の嘆願書が出される〜医師の視点〜

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
手術直後にわいせつ行為を働いたとして外科医が逮捕・起訴され勾留が続いている(写真:アフロ)

今年8月25日、医師が準強制わいせつの疑いで逮捕されました。

これは、今年5月に男性外科医が乳腺手術直後の女性の胸を舐めるなどわいせつな行為をした疑いで、8月25日に逮捕されたという事件です。その後起訴され、10月14日現在も勾留が続いています。この事件について経緯をまとめ、同じ外科医である立場から考察します。

どんな事件だったのか?

詳細は筆者が以前、この記事にまとめました。

【医師わいせつ逮捕事件】本当にわいせつ行為はあったのか?医師の視点

流れとしては以下のようになります。

2016年5月10日 事件があったとされる

この間、病院や関根医師本人に取り調べあり、医師本人には1ヶ月間の尾行あり

→8月25日 逮捕

→9月5日 勾留理由開示公判(関根医師本人は容疑事実を否認)

→9月14日 東京地検により起訴

→9月21日 保釈請求が却下される

→10月14日 保釈の嘆願書提出

現在(10月14日現在)に至るまで、約7週間にわたり身柄の拘束が続いている状況です。

医学界の反応

この事件を受け、逮捕翌日(8月26日)には関根医師が勤める病院で、今回の現場となった柳原病院からすぐさま抗議文(非常勤医師逮捕の不当性)が出されました。

その後も柳原病院からは追加して2つの抗議文を発表しています。

また、10月14日には東京保険医協会という団体から東京地方裁判所に対し嘆願書が提出されました。

趣旨を引用します。

嘆願の趣旨

準強制わいせつの疑いで逮捕・勾留された●●医師は,起訴された現在も勾留中です(平成28年(刑わ)2019号 準強制わいせつ被告事件)。しかし,起訴後である現時点において,勾留の理由も勾留の必要もなく,保釈の必要性と相当性があることも明らかで,保釈許可をすることは適当であり,これ以上の勾留を継続することは,個人の基本的人権を侵すことになります。したがって,直ちに●●医師の勾留を解き,保釈を許可することを嘆願いたします。

出典:東京保険医協会

いくつかの疑問点

この事件について、いくつかの疑問が指摘されています。

まず、ジャーナリストの江川紹子氏の記事によると、逮捕時の容疑事実と起訴状の内容に変更があったそうです。引用します。

逮捕・勾留された時点での容疑事実には2つの行為が記載されていた。

▽第1行為

午後2時45分から50分頃までの間、

患者の着衣をめくり、やにわに左乳首を舐めた

▽第2行為

午後3時7分から12分頃までの間、

左手で患者の着衣をめくり、左乳房を見ながら、右手を自己のズボン内に入れて自慰行為をした

一方、起訴状では、犯罪とされる事実として次の1つの行為のみが書かれている。

▽午後2時55分から3時12分頃までの間、

患者の着衣をめくって左乳房を露出させ、その左乳首をなめるなどした

出典:準強制わいせつで医師を起訴~広範な証拠開示が必要 江川紹子 ジャーナリスト 2016年9月18日 9時28分配信

記事の中で江川氏も指摘していますが、「自慰行為」が消えたり時間が変更されたりしています。物的証拠があるものだけに絞ったという印象です。

また、他の疑問点として、手術直後の患者さんの「わいせつ行為をされた」という訴えが正しいのかどうかという点です。手術直後には意識が曖昧になったり自分がどこにいるかわからなくなる「術後せん妄」という状態になります。外科医をやっているとしばしば「術後せん妄」に陥る患者さんには遭遇しますが、これは意識がぼんやりしているというよりも大暴れしたり、意味不明な言葉を叫んだりするというものです。今回の患者さんは「術後せん妄」に陥っていた可能性がある発言をしていたそうですから、この訴え自体の信頼性が疑われるということです。ただし、「術後せん妄」は採血データやレントゲンなどで診断できるわけではないため、患者さんが「術後せん妄」にあったか、あるいはその状態になかったかを証明するのは極めて困難と言えるでしょう。

次の疑問点として、長期に渡る勾留の正当性を指摘されています。

関根医師が勾留されている理由は「罪証隠滅の疑いがある」とされています。しかし、家宅捜索や病院の内部調査も終わり、物的証拠は全て押収されただろうこのタイミングで勾留を継続することが妥当なのかどうか、という指摘です。

医師の視点

この事件を医師の視点から簡単にまとめると、「手術直後の患者を診察のために病室に行き、そこで他の患者さんや看護師などの目を盗んで17分間に渡り左乳房を露出させなめた」ということになります。

手術終了直後、病室へ戻った患者さんの診察のために病室を訪れることは外科医として極めて当然の行為です。そして、今回の事件の現場となった「大部屋」、つまりカーテンのみで仕切られる一部屋4人の部屋で、そのような行為を17分間という長時間に渡り誰にも見つからず行うことは現実的にかなり難しいと考えます。なぜなら手術直後の状態では看護師はかなり頻繁に患者さんのところへ行き血圧や麻酔からのさめ具合などをチェックしますし、付き添いのご家族もすぐにベッドサイドに来ることが多いからです。

しかしながらこの事件が「発生した可能性」についての議論はもはや不毛でしょう。起訴されたのですから、何が起き何が起きていないかは裁判で明らかになります。

本件による極めて大きな影響

本件の結末は、2つしかありません。容疑の通りであったか、そうでなかったか、です。

もし容疑の通りであったとしたら、麻酔のさめやらぬ手術直後の患者にわいせつな行為を行ったという極めて卑劣なものになります。今後は医師の診察の仕方も大きく問われる可能性があり、例えば男性医師は女性患者と1対1で診察は行えないとなったり、病室全てに監視カメラがついたりすることになるかもしれません。

一方、もしこれが冤罪であった場合でも、やはり大きな影響が出ると思われます。

医師の診療行為は、「身体を直接観察し触ることで診察を行う」という特殊なものですから、それを一つ一つ「わいせつ行為ではない」と証明しながら行うのは極めて困難です。例えば医師は常に小型ビデオカメラを装着し、「証拠」を撮影しながら診療を行うなどといった防御策をとらねばなりません。現実的に不可能であり、正当な行為を行っていても逮捕されるという不条理な医療現場からの忌避、つまり医師不足が加速するおそれもあると筆者は考えています。

医師たちは、今後の行く末を注視しています。

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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