サンウルブズ、「名優が喝」の前に試合があるので。【ラグビー雑記帳】
国際リーグのスーパーラグビーは、サッカーでいうチャンピオンズリーグのようなものと言って過言ではない。1996年現行システムに近い形で動き出し、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカという上位国のプロクラブが王座を争ってきた。
2016年からはアルゼンチン代表を支えるジャガーズとともに、日本のサンウルブズが参戦。この国に新たなラグビーの楽しみ方を提示した格好だが、肝心の成績が芳しくない。1年目は1勝、2年目は2勝、そして3年目の今季は2度のバイウィーク(休止)を挟んで開幕8連敗中。ホームの東京・秩父宮ラグビー場での試合はすでに6試合中5試合を消化しているが、公式入場者数も減る一方だ。
毎年異なる指揮官を立ててきたなか、今季先頭に立つのはジェイミー・ジョセフヘッドコーチだ。日本代表のボスも兼ねる。
攻撃戦術を練るトニー・ブラウンアタックコーチ、独自の型を落とし込む長谷川慎スクラムコーチなど、指導陣の何人かも日本代表とサンウルブズを兼務。本来のサンウルブズ発足の目的となる代表強化に向けては、今回の体制が「一番、いいやり方」と複数の選手が口を揃えていた。
代表強化を促すと同時に、「シーズン5位以内」というチーム目標も立てた。
今季はすぐに日本代表資格(他国代表経験がなく、国内に3年以上居住する)を得られない選手を含め、多くの海外出身者を在籍させる。国内リーグとの兼ね合いから国産の日本代表選手に一定の休みが必要だという現実を踏まえ、最善策を打ち出したのだ。そもそもリーグにおけるサンウルブズの立ち位置は厳しい。ひとまずの在籍年限となる2020年以降もスーパーラグビーに残るには、結果が必要だった。
従来は約1か月間と短かった開幕前の準備期間も、今季は国内リーグ終了後に約2週間のブレイクが与えられるなど大幅に見直された。格上を倒すのに必要とされる肉体強化にも時間を割くことができ、長谷川コーチも開幕前、「試合期はトレーニング期の練習はほとんどできません。いまは比較的時間がしっかり取れるので、僕も含めて成長の速度は速いです」と話していた。
戦力と準備期間が大幅に見直されて迎えた3季目だったが、ふたを開ければ綻びが顕在化した。
顕著な例は防御の崩壊だ。第8節までの2試合で、それぞれ61、50失点。日本代表と異なる専門コーチを据えるなか、防御網の人員確保やタックラーの出足に課題を残した。
専門コーチを置かずにジョセフがチェックするラインアウト(タッチライン際での空中戦)も、自軍ボール獲得率は全チーム中最下位の78.9パーセント。ジョセフは「生粋のロック(ラインアウトの軸となるポジション)が怪我でいない」と、長身選手の不在を嘆くのみだ。
ちなみに、サンウルブズや日本代表と同種の戦術を採用する下部カテゴリーの代表チームには世界を凌駕する長身選手がいない。それでも跳躍の技術や速さにこだわることで、安定感を保っている。
防御面でも、タックラーのスキルをち密化させるべきとの声は各所で起こっている。日本代表の好調時はグラウンド内外におけるきめの細かい準備が目立っていたのに対し、ジョセフ体制は万事に「スマート(効率化)」を打ち出し基本技術は選手個人の資質に頼る傾向が強い。いまのサンウルブズの戦いは、歴史的背景と現在進行中の強化指針との間のジレンマとの戦いでもある。
連敗の事実やその背景を鑑み、チーム間の風通しを心配する声は強まるばかり。そんな緊急事態に危機感を募らせるのは、2015年のワールドカップイングランド大会で3勝した際の日本代表組だ。
初代キャプテンの堀江翔太は「例えば同じ青でも、濃い青だと思っている選手、薄めの青だと思っている選手がいた。それを皆が同じ色をイメージするように…」。担当コーチとの対話を図り、防御システムの詳細を改めて定義化した。
2013年に日本人初のスーパーラグビープレーヤーとなった田中史朗は、「もっと(日本人選手が)外国人選手とコミュニケーションを取るようにしたい」。グラウンド外で英語圏の選手と日本人選手が別行動をとる傾向を改め、さらなる連携強化を図る。多国籍の陣容で戦うという前提を変えようとするのではなく、多国籍の陣容で勝つ最善策を探るのだ。
4月26日、5月12日にある今季最後のホームゲームに向けたプロモーションイベントが「全敗サンウルブズに名優が喝」という見出しで「Yahoo! トップ」に踊った。
しかし現場がまず見つめるのは、約2週間先の興行企画よりも直近の試合である。「熱」などといった抽象的事象ではなく、組織やスキルや連携といった具体的事象をレビューする。
ニュージーランド遠征中のチームは現地時間27日、敵地で一昨季王者のハリケーンズとぶつかる。