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注目! ドラフト/3 気になるあの選手 藤岡裕大(トヨタ自動車)

楊順行スポーツライター
社会人野球の日本選手権は11月2日から(ペイレスイメージズ/アフロ)

「今年は、ショートに挑戦するつもりです」

 年頭に会ったとき、そう決意表明していたことを思い出す。昨年、念願の都市対抗を果たしたトヨタ自動車だが、今季は源田壮亮(現西武)のあとをどう埋めるかが大きなテーマだった。そこに敢然と名乗りをあげたのが、藤岡裕大だ。ルーキーだった昨年、都市対抗ではライトを守り、21打数8安打で若獅子賞を獲得している。それがショート、とは……。

 もともと亜細亜大時代は、サードとして現チームメイトの北村祥治とともに三遊間を組み、リーグ歴代9位タイの通算104安打を記録した。だが2015年のドラフトでは、まさかの指名もれ。失意を引きずったまま社会人入りしたが、当初は一段高いレベルについていけなかった。

「すぐにばりばりやれるだろう、とタカをくくって社会人に入ったんですが、危機感だらけでした。しばらく実戦から遠ざかり、野球カンが戻っていなかったせいもありますが、まるっきり打てないんです。これはやばい……。とにかく、低めの球を遠くに感じてしまうため、上体を落とすようにしてみました。そのうちに下半身がスムーズに使えて、ボールもよく見えるようになったんです」

 なんとか打撃は上向いたが、本来の内野で勝負しようとしても、強豪の層は厚い。ポジションよりも、まずは試合に出ることが先決だ。「外野をやってみるか」という桑原大輔監督の提案を受け入れたのは、都市対抗2次予選まで1カ月を切ったころ。公式戦で外野を守ったのは、5月のJABA京都大会が最初だった。藤岡はいう。

「だけど試合には、出たり出なかったり。都市対抗予選も、初戦(対三菱重工名古屋)は途中出場なんです。その最初の打席でヒットを打っていなければ、外野の定位置はなかったかもしれません」

都市対抗開幕戦でサヨナラ満塁弾

 そこから若獅子賞を獲得し、今季のショート挑戦である。とうとう外野用のグラブを購入せずじまいだったように、内野への執着は強い。もともと1年目から、自主練習では毎日のように内野を守ってもいたから、違和感はない。「ただ、捕球までの足運びが合わないことがあって」(藤岡)、当初は送球ミスなどもあった。それでも場数をこなせばサマになっていき、3月の東京スポニチ大会では、遊撃手として優秀選手を獲得している。

「源田さんの守備には勝てないまでも、なんとかアウトにはできています(笑)」

 打撃では、なんといっても都市対抗開幕戦が強烈だ。前年覇者として臨んだ九州三菱自動車との一戦。1対1のままタイブレークにもつれた12回裏、1死満塁から先頭で打席に入ると、ど派手なサヨナラ満塁本塁打を右翼席にたたき込んでいる。あれはたまたまですけどね、と藤岡はいうが、

「去年よりパワーがついてスイングスピードが上がり、飛距離は伸びていると思います」 

 バッティングの感性が独特だ。セオリーどおり、上から下に最短距離でバットを振り、点でとらえるのではなく「テニスラケットのように振り、ボールの軌道にバットの芯を入れていく感じ。そのほうが、点ではなく線でとらえられるので、振り遅れてもカットできるじゃないですか。テニスでも、上から下に振ったらボールがネットを越えませんよね」

 大学4年だった2年前に比べて、「力も技術も、当然いまのほうが上がっています」と藤岡はいう。

「ただ2年たっている分、もしプロに入ったら即戦力が期待されます。年齢が上がれば上がるほど猶予がなくなりますから、今年指名されなければもうプロはない、というくらいの覚悟をしています」

 先輩の源田は全イニングフル出場と、即戦力ルーキーの実力を見せつけた。2リーグ制以後、56年ぶり2人目という大偉業だ。トヨタ時代、守備と走力は飛び抜けていても、打力は目立たなかった源田。なにしろ、九番ショートが指定席だったのだ。それからすれば、である。トヨタの一番を打ち、ショートを守る藤岡が、プロ1年目から活躍しても、なにも不思議じゃない。

ふじおか・ゆうだい/1993.8.8生まれ/岡山県出身/177cm78kg/右投左打/岡山理大付→亜細亜大→トヨタ自動車

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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