期間限定の駅チカな「Bunkamuraル・シネマ」。渋谷駅から一番近い映画館は環境にも優しい。
東急百貨店本店跡地の再開発により休館していたミニシアター「Bunkamuraル・シネマ」が、6月16日に渋谷東映プラザ内「渋谷TOEI」跡地に「Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下」としてオープンする。その内覧会に参加した。
渋谷東映プラザの7F、9Fに位置する2つのシアターは、7Fは268席+車椅子スペース、9Fは187席+車椅子スペースを備えたゆったりとした空間。さらに、「Bunkamura」にパリの息吹きを感じさせてくれていた「ドゥ マゴ パリ」が、各階ロビーでスタンドカフェ「ドゥ マゴ パリ プチカフェ」として営業する。
そのロビーの内装を手掛けたのは、建築家・中山英之。床には、映画ファンが集まる空間を特別なものにするレッドカーペットにインスパイアされた“シャドウカーペット”として、「影色」のカーペットが敷き詰められている。
Bunkamuraは2027年度中までオーチャードホールを除き長期休館中。つまり、この映画館は限られた期間だけの営業なのだ。
そうした環境を踏まえ、「5年間だけのために内装を全部変えたり、設備をやり直すというゴミがいっぱい出るような大掛かりなことをやる時代ではない。デザインを全部変えるというようなことをしなくても、映画を愛する人たちの空間が生まれるんじゃないかと思った」という中山の言葉が印象的だった。
内装に手を加えていないシアター内にもル・シネマらしい薫りを感じるのは、このロビーが醸し出す空気の賜物だろう。
個人的には何より嬉しいのが、渋谷駅からすぐだということ。ル・シネマが宮益坂下にあるというのは不思議な気持ちがしていたが、エレベーターを降りてロビーに足を踏み入れた途端に、地上の喧騒を忘れさせるような落ち着いた空間はまさにル・シネマ。仕事終わりにふらっと立ち寄り、リセットして家に帰りたい人にもこのロケーションはありがたいだろう。
こけら落としのひとつは、「マギー・チャン レトロスペクティブ」(6月16日〜7月13日)。マギー・チャンの日本初の本格的な回顧上映だが、なぜ、マギー・チャンなのかというと、2001年にル・シネマで大ヒットし、今なお熱い支持を受けている『花様年華』でヒロインを演じていたのが彼女だから。さらに、『イルマ・ヴェップ』などのフランス映画もラインナップに加えられるなど、多様なフィルモグラフィーもその理由だという。
2004年にカンヌ国際映画祭で女優賞に輝いた『クリーン』以降はスクリーンから遠ざかっているが、長らくスクリーンで上映されなかった作品を含む全9タイトルを一挙上映するなかには、『花様年華 4K』も含まれている。
もうひとつのこけら落としは、2006年の公開当時ル・シネマでも大ヒットを記録した『RENT/レント』をはじめ全4作のミュージカル映画をラインナップした「ミュージカルが好きだから」(6月16日〜7月6日)。『キャバレー』以外は、東急文化村が運営するミュージカル専用劇場「東急シアターオーブ」で上演された演目というあたりも、名作ミュージカルが揃っていることを感じさせる。
7月7日から公開される『大いなる自由』は、Bunkamura初の全国配給作品。
戦後ドイツを舞台に、男性同性愛が禁じられていた時代にも「愛する自由」を求めて闘い続けた男の25年にも渡る物語だ。一昨年のカンヌ国際映画祭である視点部門審査員賞を受賞しているが、コロナ禍で現地参加できず、オンラインで試写して心に残り続けていた編成チームが、昨年7月の「レインボー・リール東京」で日本語字幕付きでスクリーンで再見。これは全国で公開されるべき作品と感じて、自社買い付けに至ったという。
その後も、ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞・新人監督賞の『サントメール ある被告』(7月14日公開)や、「ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選」(7月28日〜)など、新旧の話題作・名作が続く。
映画を愛する人たちの静かに熱い想いがこもった期間限定の駅チカを満喫したい。
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
開業日:2023年6月16日(金)
所在地:東京都渋谷区渋谷1-24-12 渋谷東映プラザ 7F&9F