Yahoo!ニュース

パリは悲願のCL制覇を成し遂げられるのか?ネイマールとエムバぺの攻撃力にポチェッティーノの手腕。

森田泰史スポーツライター
ネイマールとエムバぺ(写真:ロイター/アフロ)

チャンピオンズリーグ制覇が、彼らの悲願だ。

パリ・サンジェルマンは今季のチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦でバルセロナを下した。準々決勝では、王者バイエルン・ミュンヘンと激突する。マウリシオ・ポチェッティーノ監督にとって大きなターニングポイントになる試合だ。

パリ・サンジェルマンの選手たち
パリ・サンジェルマンの選手たち写真:ロイター/アフロ

近年、パリSGはビッグイヤー獲得のために大型補強を行ってきた。2017年夏に契約解除金2億2200万ユーロ(約281億円)を支払い、バルセロナからネイマールを獲得。同年夏にキリアン・エムバぺを引き入れ、彼の獲得には最終的に移籍金1億8000万ユーロ(約230億円)を支払っている。

ブラジルとフランスの2大スターを確保したわけだが、このクラブが大きく変化したのは2011年だ。カタール投資庁の子会社、カタール・スポーツ・インベストメント(QSI)が株の70%を買い取り、パリSGを買収した。そしてズラタン・イブラヒモビッチ、チアゴ・シウバ、エディンソン・カバーニ、エセキエル・ラベッシ、マルキーニョス、マルコ・ヴェッラッティらを次々に獲得。欧州の頂を目指して並々ならぬ意欲を燃やしていた。

■パリのリーダーは誰だ

ただ、これだけビッグプレーヤーが集えば、指揮官のマネジメントは難しくなる。

「クライシスは存在しない。私はネイマールとキリアンの監督だ。強いチームを作るために選手をコントロールしなければいけない。誰かを特別扱いすることはない。私は彼らに怒っていない。監督と選手の信頼関係を構築するには時間が必要。しかしながらそれは当然のことだろう」とはトーマス・トゥヘル前監督の言葉である。

一方、「パリ・サンジェルマンのリーダーはネイマールだ」と語ったのはウナイ・エメリ元監督だ。

「ある日、私は(マドリーで監督を務めた経験があるホルヘ・)バルダーノと話していた。彼は言っていたよ。バルセロナは(リオネル・)メッシ、マドリーは(フロレンティーノ・)ペレス、アトレティコは(ディエゴ・)シメオネがリーダーなのだと。選手、会長、監督とそれぞれの立場は異なる」

「各クラブで与えられる役割というのは違うものだ。私の見解では、パリ・サンジェルマンでリーダーはネイマールだった。正確に言えば、リーダーになるべきはネイマールだった。ネイマールはそのためにパリに移籍してきた。世界最高の選手になるために、そのプロセスが必要だと考えていた」

パリに到着したポチェッティーノ監督
パリに到着したポチェッティーノ監督写真:ロイター/アフロ

指揮官は人心掌握に苦労した。それでも、ネイマールとエムバぺのピッチ上での関係は良好だった。

パリSG加入以降、ネイマールは公式戦105試合に出場して83得点47アシストを記録している。度重なる負傷に苦しめられているが、ベストコンディションであれば常に好パフォーマンスを見せてきた。

エムバぺはパリSGに移籍してから公式戦161試合出場120得点59アシストを記録している。モナコでは、公式戦60試合出場で27得点16アシストだった。エムバぺの得点率とゴール関与率は確実に高まっている。

2人の共存を可能にしているのは、エムバぺの戦術理解度の高さだろう。トップ、右ウィング、左ウィングと前線のポジションであれば、どこでもこなせる。圧倒的なスピードを売りにしている一方で、スモールスペースでも違いを作れる。彼の心をマネジメントするのは容易ではない。しかし、ひとたびピッチに置けば、非常に使い勝手の良い選手なのだ。

シュートを放つエムバぺ
シュートを放つエムバぺ写真:ロイター/アフロ

また、パリSGは今季途中に監督交代を行っている。

カタールがバックについた実質上の国家クラブになってからは幾度となく監督交代が断行されてきた。カルロ・アンチェロッティ、ローラン・ブラン、エメリ、トゥヘル、そして2020-21シーズン半ばにポチェッティーノ監督が就任した。

パリSGで、トゥヘル前監督の下でアシスタントコーチを務めたゾルト・レーブは「フットボールにおいて、このレベルでは人間関係は非常に奇妙なものになる。パリでは大金が動き、常に大衆の目に晒されていた...スポーツ的側面の結果が主であり、親しい関係を築くのは簡単ではなかった。スター選手たちはバブルの中で生きているようなもので、プライベートを守りたいと考えており、オープンになるのが難しい」と語っている。

「我々の大きな成功のひとつは、選手たちが共に勝利を目指せると確信を抱いていたことだ。我々は彼らをいかなる状況でもサポートした。ボスは我々だった。彼らに歩むべき道を示した。一方で、仕事仲間として彼らに接した。彼らが対話を必要とすれば、それに応じた。また、彼らに厳しくしなければいけない時は厳しく、距離を置くべき時はそうしていた。選手たちの信頼を得たのは成功の証だった。パリでは、そういう前例はなかったと思う。エムバぺ、ヴェッラッティ、(アブドゥ・)ディアロ、(プレスネル・)キンペンベといった選手たちは個人的に感謝のメッセージをくれた。それを読んだ時に、成功以上の何かを成し遂げたと思えたんだ」

「昨年12月23日に(スポーツディレクターの)レオナルドがトゥヘルの解任を伝えてきた。4-0で勝った試合の後だ。2020年は難しかった。多くの負傷者、新型コロナウィルス...その中でチャンピオンズリーグでグループ突破を決めてリーグ・アンの優勝に向けて前進していた。然るべき形で一年を締めくくろうとしていた。正直、不可解な決断だった」

2011年以降、パリSGはリーグ・アンで7回優勝している。チャンピオンズリーグでは、決勝に進んだ昨シーズンが最高の成績だった。

今季はリーグ・アンで首位の座をリールに譲り2位に位置している。だがそれ以上にCLのタイトルが重要なのは明らかで、ビッグイヤーを獲得するまでこのクラブの挑戦は決して終わらない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事