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”対日独立運動の日”に文在寅大統領「日本を憎むことは目的ではなかった」 感情の変化を読む

(写真:ロイター/アフロ)

韓国の対日独立運動の記念日「3.1節(サミルジョル)」の現地での報道ぶりを昨日、1日じゅう眺めた。

日本統治下の、1919年(大正8年)3月1日に日本統治時代のソウルで起きた独立運動を記念する日。大日本帝国からの独立宣言文が読み上げられ、それに対して「万歳(マンセー)」と歓声が上がった。そこから全土にデモが広まっていった、というものだ。韓国では公休日となっている。

改めて思ったことがある。韓国の「感情」についてだ。

この日にはSNSやポータルサイトなどで韓国国旗「太極旗」が多く掲げられる。

3月1日のNAVERのトップページのキャプチャ
3月1日のNAVERのトップページのキャプチャ

日本の立場から見ると「また、怒っているんだろうな」と受け取れる。ところが数年前からこの日が来るたびに「おや?」と思うことが続いている。

日本でかなり多く活動するK-POPのガールズグループのメンバーが、SNSに太極旗を平然と掲げるのだ。数年前には「誰でも知っている」「むしろ日本での活動が彼女たちを支えたのでは?」というようなグループのメンバーまでこれを掲げていた。

そしてコメント欄に日本のファンから日本語で賛否両論が綴られる。「やめて。配慮して」「反日だったの?」あるいは「本人の考えを尊重しよう」と。

「自国(韓国)が好きだ」と表現することは「反日」とは違う。微妙なニュアンスの違いだから、混同しがちになるのだが。

韓国にとってのこの日は、「ここに戻ってはいけない」と植民地支配を受けたことを刻み、忘れまいと思いを新たにする日。近年はそんなことを感じる。日本の「終戦記念日」が「アメリカに怒る日」ではない構図と似ているところがある。

日本を恨むことが目的ではなかった

それを改めて思ったのが、YouTubeで生中継された政府公式式典だった。そこでの文大統領の演説のうち、このフレーズが印象的だった。

「100年前、我々の祖先はここ(式典のあったソウル市内の公園)で『人類の平等の大義』の思いを込めた独立宣言を行いました。その目的は日本を憎み、排斥することではなく国同士の関係を正し、東洋の平和と世界平和を作り出していこうという点でした。これを宣言し、非暴力の平和運動を宣言したのです」

堂々と言うが、日本の立場から見ても「いい式典」だった。昨年8月15日の日本からの解放記念日「光復節」は大統領演説の前座で極左反日発言が飛び出すなどはっきり言って酷いものだったが、この日の式典は外国人として見ていても韓国人の「3.1節」の捉え方がよく伝わるものだった。

文大統領による「東京五輪応援宣言」のみならず、会場でのセレモニーでは日本語による短いスピーチ内容が読み上げられた。日本統治下の時代、朝鮮の独立に協力的だった日本人の子孫によるもの。「反日の場」とも捉えられがちな式典の会場で日本語が堂々と会場に響き渡ったのだ。新聞記者時代には日本特派員の経験もある与党「ともに民主党」のイ・ナギョン代表がこれに聞き入るシーンも目にした。

また上記の通り、昨年8月15日の演説で大炎上した極左の論客キム・ウォヌン氏もこの日は演説ではなく「宣言を読み上げる」という役割が与えられ、その役割を全うしていた。氏は会員数8000人を有する抗日独立運動の遺族の会「光復会」(社団法人)の代表であり、対日関連の公式行事には招かれることになっているのだという。”配置変換”は国内での彼の立場を立てる意味もあるよい変化だと筆者の目には映った。

この日の様子を「ハンギョレ新聞」が2日朝刊の社説でこう報じた。

文大統領の「易地思之(大きな立場の変換)」日本もよい対応を。

こう書くと、「文政権もレイムダックだからだろ?」「バイデン就任であっさり態度を変んだろ?」などと批判のお声を頂戴しそうだ。あるいは徴用工・慰安婦の判決問題も「結局は日本が勝つんじゃない?」と。

文在寅大統領は変わった、というのは確かだ。2月28日に「中央日報」が興味深い記事を掲載した。

歴代の3.1節記念辞に込められた…起承転結で見る慰安婦問題の(日韓)葛藤

文大統領の歴代の発言のうち、対日関係部分を抜粋し、その経緯をグラフィックで示したのだ。

”強気”の最高潮は2019年8月だった。

8月2日 「再び日本には負けない」(ホワイト国除外の情報を受けて)

8月14日 「慰安婦問題を国際社会に拡散する」(慰安婦をたたえる日に)

その後も「日本の変化を促す」あるいは「日本はどうであれ自分たちは対話の準備がある」という内容の発言が続いた。

それが2021年に入って以来、こう変化している。

1月18日 「慰安婦判決には困惑している。韓日間の慰安婦合意は両国間の公式合意として認める」

自国側のありように言及し始めたのだ。そして昨日、3月1日には「東京五輪を応援」「この機会を含め、日本と対話の場を」となる。

韓国の「感情」の見極めを

昨今の日韓関係の大きな懸案事項である、「慰安婦問題」「徴用工問題」はいずれも、こういった図式でも捉えられる。

日本の理論vs韓国の感情。

日本は1965年の日韓基本条約と2015年の慰安婦合意という国家間の「契約」を押し通す。筆者はこの機会、日本側も言いたいことを言い切れと考えている。それでこそ健全な日韓関係。会わない、何も言わないことには反対だ。サッカーの日韓関係を見てきたのだが、2012年の「ロンドン五輪竹島プラカード事件」、そして2013年の「東アジアカップの横断幕事件」では日本側が口を閉ざしてしまい、議論すらできなかった。韓国相手には言ったほうがよい。

いっぽう韓国側の根拠は「国内最高裁判所の判決」だ。これとて「理論」なはずなのだが、これは日本側の認識としては「感情論」にも見える。朝鮮半島には儒教思想に基づく「徳治主義」という言葉もある。法ではなく徳(道徳観)を優先し、善悪を決めていくというものだ。21世紀に入っての日韓問題についても「国家間の約束が結ばれたからと言って、かわいそうな人を放っておくのか?」「条約を結んだからこそ、日本側の心に期待する」という話は多く聞く。

だとしたら一つ言えるのは、感情の方は可変、ということだ。相手が変わったことはそれほどに悪いことか? 日本は言い分を変えた相手をしたくないというのだったら、相手はさらに変わっている。韓国側の国益をどうこういうのはこの場では避けるが、何にせよ変化は見せている。日本のトップに言いたいのだが、会ってみて思いっきり文句を言ってみる方法はないだろうか? 

相手の感情と対するのだから、日韓関係は厄介だ。だからこそ変化する相手の感情を見極めようという話でもある。有無を言わせず米国新政権の存在が交渉のテーブルを用意するものなのかもしれないが。

日本の一部メディアは「韓国国内で文在寅の変節に大批判」とあるが、筆者が調査する限りそうでもない。最後に本日2日付の韓国主要紙のうち、3.1節の文演説に関する内容のものを抜粋して紹介しよう。保革問わず「首脳会談を」という意見が多数なのだ。

▲ 京郷新聞

韓日の対話を強調した文大統領、実質的な解決法に繋げることを期待

▲ 国民日報

文大統領の相次ぐ和解メッセージ、日本が応える番

▲ ソウル新聞

日本、文大統領の3.1節の対話提議に早く応じるべき

▲ 世界日報

文大統領「日本といつでも対話する準備」…今度は日本がよい対応を

▲ アジアトゥディ

文大統領の対日融和メッセージに日本が応えるべき

▲ 朝鮮日報

4年間反日で追い立てた文大統領が突然「過去の歴史が足を引っ張ってはならない」これが外交と言えるのか?

▲ 中央日報

掲載なし

▲ 韓国日報

文大統領「いつでも対話」に、日本は前向きの対応を

▲ デジタルタイムス

文、3.1節前向きな韓日関係強調…反日を控え克日を

▲ 毎日経済

韓日のトップ、早々に会い関係回復の突破口を見い出せ

▲ ソウル経済

反日政治の活用は控え、外交で韓米日協調を復元せよ

▲ イーデイリー

最悪の韓日関係、和解メッセージの先にある団結があってこそ解決できる

▲ 電子新聞

掲載なし

▲ 韓国経済

掲載なし

▲ e大韓経済

掲載なし

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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