Yahoo!ニュース

まん延防止措置とは何だったのか そして3度目の緊急事態宣言の効果は

原田隆之筑波大学教授
(写真:アフロ)

3度目の緊急事態宣言

 昨日、東京、大阪など4都府県に3度目の緊急事態宣言が発出されました。東京では、前回の緊急事態宣言が明けてから、1か月しか経っていません。

 その間、大阪や東京には、まん延防止措置が出されましたが、感染は増加の一途をたどり、大阪では3週間、東京では2週間足らずで緊急事態宣言に至りました。

 まん延防止措置は、依然神奈川、埼玉、千葉、愛知などに出されていますので、その効果を論じるのは時期尚早かもしれません。しかし、少なくとも東京や大阪では効果を発揮することがなかったと言えるでしょう。

 それはなぜでしょうか。そして、今回の緊急事態宣言には効果が見込めるのでしょうか。

まん延防止措置を振り返ると

 私はまん延防止措置の発令前から、その効果には懐疑的でしたが、やはりその通りの結果となりました。私だけでなく、多くの人がそう思っていたのではないでしょうか。

 理由はいくつかありますが、まずわかりにくいということが挙げられます。ニュースでは、緊急事態宣言とどこが違うかなど、わざわざ表まで作って繰り返し説明されていました。しかし、そのように何度も説明をしなくてはいけないところがもうダメなのです。わかりにくいものは伝わらないのです。

 まん延防止措置の中身よりも、「マンボウ」と呼ぶかどうかといった、どうでもいい議論しか思い出せない人も多いと思います。

 人間というものは、往々にして「認知的手抜き」をします。これをヒューリスティックスと呼びますが、わかりにくいまん延防止措置のことをじっくり調べてそれを理解しようという人は少数派です。大多数の人は、ざっくりとしたイメージで理解します。

 その結果、人々の頭のなかには「緊急事態宣言の緩い版」的なイメージで受け取られてしまったのです。これは手抜きの理解をした国民のせいというよりは、そのような人間の心理を理解していなかった政府の側に責任があると言うべきでしょう。

2度目の緊急事態宣言の効果を振り返ると

 2度目の緊急事態宣言のときも、私は「人々はなぜ行動変容できないか・・・再度の緊急事態宣言の前に考えるべきこと」「緊急事態宣言の効果は限定的。危惧される「緊急事態慣れ」」のなかで、その効果に疑問を呈しました。それは、1回目の緊急事態宣言よりも「緩い」印象を与えたことが大きな原因です。

 ただでさえ、人々は長引くコロナ禍のなかで、「自粛疲れ」を起こしていると同時に、「コロナなど大したことはない」という楽観バイアスを抱くようになっています。そのような心理を考慮せず、「緩い」措置を発令しても、行動変容には至らないのです。

 したがって、2回目の緊急事態宣言では、ある程度の人流の減少にはつながり、感染も一定程度抑えることはできましたが、その効果は限定的で、すぐにリバウンドも起きました。

 そして、その後に「緊急事態宣言の緩い版」と受け取られているまん延防止措置を行ったところで、効果がないのは目に見えています。そして、実際に効果はありませんでした。

 また、大阪ではまん延防止措置のさなかに「医療緊急事態宣言」を発令しましたが、似たようなものを乱発されても、人々の心は動きません。

今回の緊急事態宣言の効果は

 このような失敗を踏まえてか、今回の緊急事態宣言は前回よりは厳しい措置が取られることとなりました。とはいえ、1回目よりは緩やかです。

 そして何より、人々の心理は、やはり1回目のときとはまったく違います。最初の緊急事態宣言が出されたときのことを思い出してみてください。われわれは、未知の恐ろしい病気のまん延に大きな不安を抱いていました。イタリアやスペイン、アメリカの惨状をニュースで見て、「2週間後には日本もこのようになる」などと警告されていました。外出を控えなければと誰もが思い、スーパーでは買いだめをする人がたくさんいました。誰もがただならぬことが起こっているという緊張感を抱き、人生で初めて経験する「緊急事態」に身構えました。

 それから1年がたって、同じような心理状態になれと言われても無理です。コロナへの恐怖よりも、自粛への不満のほうが高まっているからです。そして、それはある意味自然な人間の心理です。

 不安や緊張感という人間の心理に作用して効果を発揮した緊急事態宣言に対して、もはや同じ効果を期待することはできません。

 だとすると、2回目の緊急事態宣言のときも同じ提案をしましたが、「物理的に外出ができなくなる」ような方策に頼るのが最も効果的です。今回は飲食店への休業要請に加えて、大型店や劇場などにも休業への協力を要請することが柱となっています。これは、外出したくてもできなくして、人流を止めるという意味では、一定の効果があると思います。

 また、8時以降のネオンサインなどの消灯というのも、心理的効果を発揮するかもしれません。通常とは違うというインパクトを与えると同時に、外出することへのモチベーションを抑制する可能性があります。

懸念材料は

 その一方で、懸念材料もあります。一層効果を上げるためには、休日やオフタイムの人流に関してだけでなく、昼間の人流を止める必要もあります。しかし、それは従業員個人レベルではどうしようもありません。企業側に対する強い在宅勤務推進の要請が必要でしょう。

 さらに、地域が限定的であるため、宣言対象地域から対象外の地域への飲食や旅行などが抑制されないことも危惧されます。

 したがって、2回目よりは効果があるでしょうが、1回目よりはかなり見劣りするでしょう。しかし、これは先に述べた理由からある程度仕方のないことです。

 ワイドショーなどは、おそらく「1回目と比べると人出が減っていない」などと繁華街の映像を比較して危機を煽るでしょうが、それはかえって人出を増やすことにつながりかねません。自粛していた人々が「自分だけ家にいるのはバカバカしい」「損だ」という気持ちになりかねないからです。したがって、このような報道は控えるべきだと思います。

 緊急事態宣言に従うことがバカバカしいと思う人がさらに増えること、これがいま最も懸念されることだからです。

反発したい人々へ

 人気バンド「RADWIMPS」の野田洋次郎さんが「個人的な、正直な気持ちです。」と題して、以下のようにツイートし、現時点で12万を超える「いいね」がついています。

ここ1年間の考察や反省や説明が何もない状態で3回目の緊急事態宣言なんて聞く気になれねぇという気持ちにどこかなる

 度重なる緊急事態宣言に気が滅入るのは誰も同じです。外出や会食を自粛することに反感を覚える人も多いでしょう。それ以上に、店を閉めたり、さまざまなサービスの提供を休まざるを得ない人は、反発どころか死活問題でしょう。とはいえ、若者に影響力のある人が「聞く気になれねぇ」と反発することも疑問に感じます。

 われわれは、政府のために自粛をしているのでしょうか?あるいは国に言われたから自粛をするのでしょうか?

 もちろん、政府や知事のコロナ対策にはいろいろな問題があるでしょう。批判すべきところは批判すべきです。

 しかし、コロナ対策に反発して要請を破ろうとすることは、あまりにも短絡的で子どもっぽい振る舞いです。この緊急事態のなかにあっては、自分自身のために、そしてお互いを思いやる気持ちをもって周囲の人々のために、何をすべきかを自分の責任で考え、実行していくべきなのだと思います。

 野田さんは、社会へと巣立つ若者に贈った歌のなかで、これまでは答えがある問いばかりを教わってきたけれど、この先は正解のない問いがたくさんある、自分の生き方がその答えになると語っています。

 まさにコロナとの闘いも同じことが言えます。緊急事態のなかで、そしてコロナ禍のなかで、どのように振る舞うべきなのか。われわれ一人ひとりの生き方が、その答えとなるのでしょう。

筑波大学教授

筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

原田隆之の最近の記事