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痒みに悩む人必見!単純性痒疹の原因と治療法

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【単純性痒疹とは?その症状と特徴】

単純性痒疹(たんじゅんせいようしん)は、極度の痒みを伴う小さな赤い発疹が特徴的な皮膚疾患です。この発疹は、突然現れ、長期間にわたって持続することがあります。単純性痒疹は、患者さんの日常生活や仕事、学業などに大きな影響を与えます。痒みのために十分な睡眠がとれないことも多く、身体的・精神的なストレスが蓄積しやすい状態となります。

発疹は、直径2~5mmの赤い丘疹(きゅうしん)で、表面に小水疱(しょうすいほう)やかさぶたを伴うことがあります。丘疹とは、皮膚が盛り上がった平らな発疹のことで、周囲の健常な皮膚と比べて硬く触れます。小水疱は、発疹の上に形成される小さな水ぶくれのことで、破れるとびらんや痂皮(かひ)を生じます。これらの発疹は、頚部(けいぶ)、耳の後ろ、体幹部、四肢、臀部(でんぶ)などに好発します。激しい痒みのため、患者さんは発疹を掻きむしってしまうことが多く、そのため二次的な皮膚病変を生じることもあります。掻きこわされた発疹は、色素沈着や瘢痕(はんこん)を残すこともあります。

単純性痒疹の正確な発症メカニズムは明らかになっていませんが、アトピー素因やストレスとの関連が指摘されています。アトピー素因とは、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を引き起こしやすい体質のことです。単純性痒疹の患者さんの中には、これらのアレルギー疾患を合併している方が多いことが報告されています。また、糖尿病、高血圧、腎疾患などの内科的疾患を合併している患者さんも報告されています。これらの疾患は、皮膚の代謝や免疫機能に影響を与え、痒みを引き起こす可能性があります。

単純性痒疹の発症には、皮膚のバリア機能の異常や免疫システムの過剰反応が関与していると考えられますが、さらなる研究が必要です。皮膚のバリア機能とは、外界からの刺激や病原体の侵入を防ぎ、体内の水分を保持する役割を担っています。このバリア機能が低下すると、痒みを引き起こす物質が皮膚に侵入しやすくなり、炎症反応が起こりやすくなります。また、免疫システムの過剰反応により、痒みを伝達する神経が刺激されたり、痒みを引き起こす物質が産生されたりすることで、難治性の痒みが生じると考えられています。

単純性痒疹は、患者さんのQOL(生活の質)に大きな影響を与える疾患ですが、適切な治療を行うことで、症状をコントロールし、日常生活を改善することが可能です。痒みに悩んでいる方は、早めに皮膚科専門医を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。

【治療法の選択と注意点】

単純性痒疹の治療は、痒みのコントロールが中心となります。軽症例では、保湿剤、ステロイド外用剤、抗ヒスタミン薬などが用いられます。保湿剤は、皮膚のバリア機能を回復させ、痒みを引き起こす刺激物質の侵入を防ぐために重要です。ヘパリン類似物質やセラミド、尿素などを含む保湿剤が用いられます。ステロイド外用剤は、局所の炎症反応を抑制し、痒みを改善する効果があります。ただし、長期間の使用により、皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用を生じる可能性があるため、医師の指示に従って適切に使用する必要があります。抗ヒスタミン薬は、痒みの伝達に関与するヒスタミンの作用を抑制し、鎮痒効果を発揮します。第2世代の非鎮静性抗ヒスタミン薬が推奨されます。

中等症以上の症例では、UVB療法やPUVA療法などの光線療法が有効とされています。UVB療法は、免疫抑制作用と鎮痒作用を有します。PUVA療法は光感受性物質を内服または外用した後に、長波長紫外線(UVA)を照射する治療法で、より強力な免疫抑制作用を有します。これらの光線療法は、医療機関で行われる専門的な治療法で、定期的な通院が必要となります。

重症例や難治例には、メトトレキサートやシクロスポリンなどの免疫抑制剤が使用されます。メトトレキサートは、葉酸代謝拮抗薬で、炎症性サイトカインの産生を抑制し、免疫反応を調節します。シクロスポリンは、カルシニューリン阻害薬で、T細胞の活性化を抑制し、炎症反応を抑制します。これらの薬剤は、長期間の使用が必要となることが多く、定期的な検査によって副作用のモニタリングを行う必要があります。メトトレキサートでは、肝機能障害や骨髄抑制などの副作用に注意が必要で、シクロスポリンでは、腎機能障害や高血圧などの副作用に注意が必要です。

【単純性痒疹の新規治療法】

最近では、デュピルマブやネモリズマブなどの新しい分子標的薬の有効性も報告されており、本邦でも保険適用となりました。デュピルマブは、IL-4とIL-13の作用を阻害する生物学的製剤で、アトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー疾患に対して使用されています。ネモリズマブは、IL-31受容体を阻害する生物学的製剤で、慢性そう痒症に対する効果が期待されています。これらの分子標的薬は、痒みの伝達経路を特異的に遮断することで、高い効果と安全性が期待されます。

単純性痒疹の治療には、患者さんの症状や生活状況に応じて、適切な治療法を選択することが大切です。軽症例では、保湿剤やステロイド外用剤などの外用療法を中心に行い、中等症以上の症例では、光線療法や免疫抑制剤などの全身療法を考慮します。また、痒みのコントロールと並行して、皮膚のバリア機能を回復させるためのスキンケアや、ストレス管理などの生活指導も重要です。治療には長期間を要することが多いため、患者さんとの良好なコミュニケーションを図り、治療への理解と協力を得ることが大切です。

単純性痒疹は、慢性の経過をたどる難治性の皮膚疾患ですが、適切な診断と治療によって、痒みをコントロールし、患者さんのQOLを改善することが可能です。症状でお悩みの方は、皮膚科専門医への相談をお勧めします。

参考文献:

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近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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