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アトピー性皮膚炎や喘息に深く関与するILC2の役割と機能

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【ILC2とは?アレルギー疾患における重要性】

近年、自然免疫システムの一部である自然リンパ球(Innate Lymphoid Cells; ILCs)と呼ばれる細胞群が大きな注目を集めています。ILCは獲得免疫の主役であるTやB細胞とは異なり、抗原特異的な受容体を持たずに様々なサイトカインを産生し、生体防御や恒常性維持に重要な役割を果たしています。

ILCは1〜3群に大別されますが、中でも2型自然リンパ球(Group 2 Innate Lymphoid Cells; ILC2)は、アレルギー疾患との関連が強く示唆されており、その機能解明が精力的に進められています。ILC2は主に気道、消化管、皮膚などに多く存在し、上皮細胞由来のIL-25やIL-33、TSLP(胸腺間質リンパ球増殖因子)などのサイトカインにより速やかに活性化されます。

活性化したILC2は、IL-4やIL-5、IL-13といった2型サイトカインを大量に産生し、好酸球性炎症や粘液分泌、平滑筋の収縮など、アレルギー反応に関与する様々な現象を引き起こします。興味深いことに、ILC2はT細胞とは独立して活性化され、抗原感作の初期段階から重要な役割を担っていると考えられています。

さらに、ILC2は獲得免疫系の細胞とも密接に相互作用し、アレルギー反応の増強や慢性化に寄与します。例えば、ILC2由来のIL-13は樹状細胞(抗原提示細胞の一種)の遊走を促進し、ナイーブT細胞からTh2細胞への分化を促します。また、IL-5はB細胞のIgE産生を亢進させるなど、ILC2は獲得免疫応答の調節にも関与しています。

このように、ILC2は自然免疫と獲得免疫の橋渡し的な存在として、アレルギー疾患の病態形成に極めて重要な役割を果たしていると言えるでしょう。

【喘息とアトピー性皮膚炎におけるILC2の役割】

ILC2と最も関連が深いアレルギー疾患が喘息です。喘息患者の気道や末梢血中ではILC2の数が顕著に増加しており、重症度との相関も報告されています。マウスモデルを用いた研究から、ILC2を欠損させると、IL-5やIL-13の産生低下を介して気道の好酸球性炎症や過敏性が軽減することが明らかになっています。

また、ILC2は気道リモデリング(慢性炎症による気道の構造的変化)にも関与すると考えられています。ILC2が産生するIL-13は粘液産生の亢進や平滑筋の肥大を引き起こし、呼吸機能の低下の原因となります。実際、重症喘息患者の気道ではIL-13産生ILC2の割合が高いことが報告されています。

アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア機能の異常とTh2型炎症を特徴とする慢性炎症性皮膚疾患ですが、近年ILC2の関与が注目されています。アトピー性皮膚炎患者の皮膚では、ILC2の数が増加し、IL-33やTSLPなどの刺激により活性化状態にあることが明らかになっています。

活性化したILC2はIL-5やIL-13を産生し、好酸球の浸潤や表皮の肥厚、掻痒の悪化など、アトピー性皮膚炎の典型的な病態を引き起こします。マウスモデルにおいても、皮膚特異的にIL-33を過剰発現させるとILC2の増殖と活性化を介してアトピー性皮膚炎様の症状が自然発症することが報告されており、ILC2の病態形成における重要性が示唆されています。

【ILC2とアレルギー性鼻炎・食物アレルギー】

一方、アレルギー性鼻炎や食物アレルギーにおけるILC2の役割については十分な知見が得られていないのが現状です。しかし、鼻粘膜や消化管にもILC2が存在し、何らかの形で病態に関与している可能性は十分に考えられます。

アレルギー性鼻炎では、鼻粘膜でのIL-33の発現増加とILC2の集積が報告されており、Th2型炎症の誘導や増悪化に寄与している可能性があります。また、鼻粘膜のILC2がIL-4を産生し、局所のTh2細胞の分化を直接的に促進するという知見もあり、ILC2を介した新たな病態メカニズムの存在が示唆されています。

食物アレルギーの発症や重症化には、経口感作だけでなく、経皮感作(アレルゲンの皮膚からの侵入)も重要な役割を果たすと考えられています。皮膚に存在するILC2が、この経皮感作の過程で何らかの影響を及ぼしている可能性は十分にあり得ます。実際、マウスモデルにおいて、皮膚のILC2を除去すると経皮感作が抑制され、食物アレルギー反応が軽減したという報告もあります。

ただし、アレルギー性鼻炎や食物アレルギーにおけるILC2の役割については、まだ研究の蓄積が乏しく、今後のさらなる検討が必要とされる領域と言えるでしょう。

【ILC2を標的とした新たなアレルギー疾患治療戦略】

上述のように、ILC2は様々なアレルギー疾患の病態形成に深く関与していることから、ILC2を標的とした新たな治療アプローチの開発が大いに期待されています。

具体的には、ILC2の活性化に関与するIL-25やIL-33、TSLPを中和する抗体医薬や、ILC2に高発現するCRTH2(プロスタグランジンD2受容体)を阻害する低分子化合物などが開発され、臨床試験が進められています。これらの治療薬は、ILC2の機能を直接的に抑制することでアレルギー性炎症を根本から抑えることが期待されます。

また、制御性T細胞(Treg)を介したILC2の抑制メカニズムを利用した治療アプローチも探索されています。Tregは抗炎症性サイトカインであるIL-10やTGF-βを産生し、ILC2の活性化や2型サイトカインの産生を抑制することが知られています。Tregの機能を賦活化し、ILC2を間接的に制御する治療戦略は、アレルギー疾患の新たな治療選択肢になり得るかもしれません。

ILC2の基礎研究は日進月歩で進展しており、その全容解明にはまだ時間を要しますが、アレルギー疾患、特に喘息やアトピー性皮膚炎の病態解明と革新的な治療法の開発に大きく貢献することが大いに期待されます。今後のさらなる研究の発展が望まれるところです。

参考文献:

Front Immunol. 2021 Jun 9:12:586078. doi: 10.3389/fimmu.2021.586078.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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