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皆既月食の「皆既」とは何か

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 今日、2022年11月8日、日本で皆既月食が見られる。この「皆既」とはいったいどんな意味なのだろうか。

 今日午後から夜の天気は全国的にほぼ晴れだ。そして、今日は18時過ぎぐらいから22時前まで、月が地球の影になって太陽の光がさえぎられる月食が見られる。

 日食、月食の「食(eclipse)」とは、天体が別の天体によって隠される現象のことで、2種類の食がある。一つは、ある天体が直接、別の天体を隠す掩蔽で日食がこれにあたる。もう一つは影による食で、こちらは月食だ。また、以前は食を「蝕」と書くこともあった。

 月食は地球の影が月に落ちる、つまり地球が太陽の光をさえぎるため、ちょうど太陽と月の間に地球が位置することが必要となる。そのため月食が起きるのは満月の場合だが、満月の場合に必ず月食が起きるわけではないのは月の軌道が約5度傾いているからだ。

 そのため、ちょうど満月の場合に、太陽、地球、月が直線に並ぶことは非常にまれな現象となり、日食より月食のほうが珍しいということになる。また、国立天文台によると、今回の月食では、月が天王星を隠す天王星食(掩蔽)という惑星食も起きるという。

 つまり、太陽、地球、月、天王星が直線に並ぶわけで、これはまさに天文学的に珍しい現象で、前回に皆既月食中に惑星食が起きたのは戦国時代の1580年7月26日の土星食(パラオ周辺では天王星食も)、次回に起きるのは2344年7月26日の土星食だそうだ。

今回の月食。月食で地球の影の周辺部(半影)に隠れる半影食が17時頃から始まり、18時頃から月が欠け始め、19時過ぎに皆既食になる。国立天文台より
今回の月食。月食で地球の影の周辺部(半影)に隠れる半影食が17時頃から始まり、18時頃から月が欠け始め、19時過ぎに皆既食になる。国立天文台より

 人類は古代から日食や月食の現象を観測し、その予知も試みてきた。日本では斉明天皇の時代(西暦660年)に水時計(漏刻)を作ったが、これは中国の律令制を導入し、絶対時間(定時法)を用いて日食や月食を予測するためだったと考えられている(※1)。

 ところで、この皆既月食の「皆既(皆既食)」という言葉はどんな意味なのだろうか。皆は「すべて」という意味だが、既は「すでに」という意味のほかに「尽きる」とか「食べ尽くす」という意味もあり、これは食べ物を持った器(へん)と食べ飽きるという旡(つくり)からきている(新字源より)。

 今回の月食は、地球の影によって月全体が隠される皆既月食だ。月食には、皆既月食のほか、月の一部分だけの部分月食、地球の影の周辺部(半影)に隠れる半影月食がある。

 また、皆既月食中の月は全く見えなくなるわけではなく、赤黒い赤銅色になる。これは、夕日が赤いように、地球の大気によって太陽光の波長が分けられ、波長の長い赤い色が月に届くからだ。

※1-1:服部英雄、「中世の時間─定時法・不定時法および常香盤について」、科研ニューズレター、2007

※1-2:谷川清隆、相馬充、「七世紀の日本天文学」、国立天文台報、2008

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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