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アトピー性皮膚炎の最新治療薬比較:ウパダシチニブvsデュピルマブの効果と副作用

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【アトピー性皮膚炎治療における画期的な新薬の比較研究】

アトピー性皮膚炎は、激しい痒みと湿疹を特徴とする慢性の炎症性皮膚疾患です。日本での患者数は推定で約45万人とされ、特に成人患者が増加傾向にあります。

従来の治療では、ステロイド外用薬や免疫抑制外用薬が主流でしたが、十分な効果が得られない患者さんも多く、新しい治療選択肢が強く求められていました。

今回、最新の大規模臨床試験「Level Up研究」で、新世代の治療薬である経口薬のウパダシチニブと注射薬のデュピルマブの効果を直接比較した画期的な結果が発表されました。

【治療効果の詳細分析:皮疹と痒みへの効果】

この研究では、12歳以上の中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者さん920名を対象に、16週間にわたって両薬剤を比較しました。

ウパダシチニブは、まず15mgから開始し、効果不十分な場合は30mgに増量する方法で投与されました。一方、デュピルマブは通常の投与方法(初回600mg、その後2週間ごとに300mg)で投与されました。

主な結果として以下の点が明らかになりました:

1. 皮疹の90%以上の改善(EASI90)と痒みのほぼ完全な消失を同時に達成した患者さんの割合は、ウパダシチニブ群で19.9%、デュピルマブ群で8.9%でした。

2. 特筆すべきは、痒みの改善が投与開始後わずか2日目から認められた点です。これは患者さんのQOL(生活の質)改善に大きく貢献する可能性があります。

3. 皮疹の改善も早く、投与2週間後には既に有意な差が認められました。

【安全性と副作用:実臨床での注意点】

安全性に関しては、両薬剤とも既知の安全性プロファイルと一致する結果でした。

主な副作用は以下の通りです:

ウパダシチニブ群:

・鼻咽頭炎(12.7%)

・にきび(12.0%)

・頭痛(5.9%)

・上気道感染(5.9%)

デュピルマブ群:

・鼻咽頭炎(7.4%)

・結膜炎(7.8%)

・上気道感染(4.6%)

この研究結果は、アトピー性皮膚炎治療における大きなブレークスルーといえます。特に、経口薬であるウパダシチニブが注射薬のデュピルマブを上回る効果を示したことは、患者さんの治療選択肢を広げる重要な知見です。

【日本人患者さんへの適用について】

本研究には日本人を含むアジア人患者さんも参加しており、日本人への適用も期待できます。ただし、以下の点に注意が必要です:

1. 65歳以上の患者さんは含まれていないため、高齢者への使用については別途検討が必要です。

2. 体重や体格による投与量の調整が必要な場合があります。

【今後の展望】

この研究は現在も継続中で、32週までの長期的な効果と安全性についても検討される予定です。また、以下のような課題についても研究が進められています:

1. より長期の安全性データの収集

2. 他の治療法との組み合わせ効果

3. 費用対効果の分析

4. 特定の患者群における効果予測因子の特定

参考文献:

1. Silverberg JI, et al. Efficacy and Safety of Upadacitinib vs Dupilumab in Adults and Adolescents with Moderate-to-Severe Atopic Dermatitis: Week 16 results of an Open-label, Randomized, Efficacy Assessor-Blinded Head-to-Head Phase 3b/4 Study (Level Up). British Journal of Dermatology, 2024.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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