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寺で座禅の女性に「わいせつ」容疑で83歳住職を逮捕 驚きの手口と捜査の焦点

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 栃木県佐野市の寺で住職を務める83歳の男が強制わいせつの容疑で逮捕された。境内を散歩していた30代の女性に声をかけ、寺で座禅をさせた際、女性のズボンを下ろし、尻を木の板で叩き、手でなでるなどしたとされる。「3回くらい板で叩いたが、手でなでてはいない」と容疑を否認しているという。

どのような事案?

 事件は5月に発生した。問題の木の板は禅宗の修行で肩や背中を打つために使う「警策」だった。住職と女性の間に面識はなく、女性が住職から尻をなでられて抱きつかれたなどと夫に相談し、事件翌日に警察に届け出たことで発覚した。

 住職は禅書画家として知られ、可愛らしいうさぎの絵を描いた御朱印が女性に人気だ。芸術家肌の仙人風だとか、対応がフレンドリーだといった評判がある一方で、書き置きの御朱印を1枚1000円で強引に売りつけてくるといった話もある。

 気になるのは、今回の事件や住職の逮捕報道よりも前の時期に、この寺に関するグーグルマップのクチコミ欄に次のような書き込みがある点だ。

「2021年冬の出来事です」「私は御朱印を貰いに行きました」「欲しかったうさぎの御朱印がなかったため、ないと伝えたところ『自分の干支はなんだ』と言われました。伝えると自分の干支をイメージした御朱印を推し売られ断れず買ってしまいました」

「買ったあと、住職が『お前は私の言ってることが、つたわってるかわからん!根性をたたきなおしてやる』といい高圧的な態度を取られました。私は怖くて逆らえずにいると、部屋の奥に連れてかれ四つん這いにさせられました。その後、ズボンをおろされたたかれました。合計5回叩かれた後に、ズボンをもどされ、『よく頑張った』と抱きつかれました」

「『2人の秘密だから、何か困ったことがあったら相談しにこいよ』と言われました。帰る際にも、『駅まで送る』『ホテルまで送る』と言われましたが、断り逃げました」

捜査の焦点は?

 当然ながら、警察も内偵捜査の段階でこうした書き込みを確認しているはずだ。その真偽を見極めるとともに、ほかにも同様の被害者がいるのではないかといった観点から、余罪の立件も視野に入れ、幅広く捜査を行うことになるだろう。

 というのも、寺の中での1対1の事件であり、今回の女性の証言だけだと証拠として弱いということになったとしても、ほかにも全く同じ手口で同様の犯行を繰り返していたということになれば、それが信用性の支えになるからだ。

 このほか、住職の行為が「わいせつ」なものといえるのかという点の見極めも重要となる。木の板で尻を叩いたが、手でなでてはいないと否認する住職が、さらに「修行の一環であり、女性の曲がった根性を叩き直すためだった。性的な意図など一切なかった」といった弁解をする可能性も考えられるからだ。

 この点につき、最高裁は、強制わいせつ罪の成否を検討する際、次のような場合分けを行うという立場に立っている。

(1) 行為そのものが持つ性的性質が明確で、当然に性的な意味があると認められ、直ちに「わいせつな行為」と評価でき、強制わいせつ罪による処罰に値するケース

 →性的意図不要(検討も不要)

(2) (1)同様に直ちに「わいせつな行為」と評価できるが、強制わいせつ罪による処罰に値するか否か微妙なケース

 →性的意図の有無を考慮

(3) 行為そのものが持つ性的性質が不明確で、行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ性的な意味があるかどうかが評価し難いケース

 →性的意図の有無を考慮

 常識的に考えて、寺の住職が(a)座禅中の女性のズボンを下ろしたり、(b)尻を木の板で叩いたり、(c)手でなでたり、(d)身体に抱きついたりする必要などない。女性の方も、寺で座禅をすることやその際に肩や背中を警策で打たれることまでは納得していても、ズボンを下ろされたりすることまで同意しているとは考え難い。

 そこで、(a)~(d)、特に(a)や(c)(d)の事実が認められれば(1)に傾くことから、実際にこの寺で何があったのか、警察は住職や女性らの取調べを進め、事件の状況を確定することになる。

 そのうえで、そもそもこの宗派の寺ではこうした修行方法が一般的なのか、また、この住職は男性の参拝客にも同様の行為をしていたのかといった点についても、十分な裏付け捜査を行うことになるだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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