『タモリ倶楽部』今夜最終回 40年間の名企画を振り返る
「毎度おなじみ流浪の番組」として親しまれた『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)が、今夜3月31日深夜の放送で40年あまりの歴史に幕を閉じる。
低予算ゆえスタジオセットが組めないという名目でほぼ全編ロケでおこなっていたことから「流浪」の番組を自称していたが、「流浪」とは“自由”ということでもあり、多種多様な企画がおこなわれた。
心の中で流浪し日常に漂っているような番組だから「神回」などという言葉は似合わないが、最終回を前に40年の中から名企画をざっくり振り返ってみたい。
■初期(1980年代)
番組初期はミニコーナーが多く作られ、アングラ系の企画も多かった。
「タモリを追え」
番組初回に放送。「ドキュメンタリ劇場 現代の顔」と題し“プライベートが謎の男”タモリのプライベートを追ったモキュメンタリー。『タモリのオールナイトニッポン』本番終了後のタモリに“密着”した。
「愛のさざなみ」
番組初期に放送されていたタモリ・中村れい子主演の昼メロパロディドラマ。脚本は番組構成作家も務めた景山民夫。主題歌はミッシェル・ポルナレフの「哀しみの終わるとき」。「今度こそヤレる!」というセリフをキーワードに毎回、ラブシーンの直前に必ず邪魔が入ってしまうコメディ。
「東京トワイライトゾーン」
マンガ家・原作者の久住昌之と彼の盟友であるカメラマンの滝本淳助とともに、東京近郊のおかしな物件や物を探索。同名タイトルで書籍化もされた。タモリは同書に「東京トワイライトゾーンとは、機能追求の途中にふともらしたひとしずくの小便、というか、大陸プレート東京の中に現れた逆断層のすき間をついて噴出したマグマの固まり、というか、あるいは排便の後のウォシュレットに誘われてふと出た枯れクソ、というか、関東ローム層における悪魔と天使の初めての共同作業、というか、うーん、やっぱりわかんない」とコメントを寄せている。
「廃盤アワー」
佐々木勝俊が「懐かし屋店主」という肩書で、廃盤になりプレミアがついている珍レコードをヒットチャート形式で紹介。内藤洋子が語りかけるように歌う「白馬のルンナ」が長らく1位に君臨した。このコーナーによって「廃盤ブーム」がおこり、さらに値段が高騰してしまうというマニア泣かせの現象も。
番組構成作家でもあった佐々木は「懐シネマ」「お世話になりましたアワー」などのパートナーも務めた。
「怖いですねアワー」
「怖いもの評論家」という肩書の渡辺祐が解説を務め映画のショッキングなシーンだけを集めてランキング化していくコーナー。
ホラー系企画でいえば90年代におこなわれたタモリの付き人・金子(現・おーぷん金子)と構成作家・有川周壱の怖がりリアクション対決も印象深い。
「夜の英会話」
実践的な夜の英会話をFEN出身の英語講師・窪田ひろ子がレクチャーするコーナー。こちらも書籍化、さらにはカセットブックも発売されベストセラーに。
「○○区横断ウルトラクイズ」
港区、渋谷区、墨田区、千代田区、新宿区など様々な区を舞台におこなわれた『アメリカ横断ウルトラクイズ』のパロディ企画。有名クイズプレイヤーも参加した。ちなみに台東区の決勝の舞台は西郷隆盛像の前。
「台湾日帰りツアー」
「一番贅沢な昼食は、台湾に行って食事をして、その日のうちに帰ってくること」というタモリの言葉を受けて本当に実行してしまった企画。しかし、日帰りだったのはタモリとマネージャーだけだったため、タモリは不機嫌になってしまう。が、出国と入国が同じ日という珍しいパスポートは記念に大事にとってあるという。
■中期(1990年代~2000年代)
ミニコーナーは92年以降「空耳アワー」にほぼ固定化。93年5月の「山手線ベルの旅」で初めて鉄道系の企画がおこなわれたのを皮切りに趣味系の企画が増えサブカル色が強くなっていき、幅広い名企画が生まれていった。
「今週の五ッ星り」
THE ROYAL TEENSの「Short Shorts」にのせてお尻を揺らすオープニングは番組の代名詞のひとつだが、そんなお尻を鑑賞し、真面目に品評・採点をする企画。山田五郎が「お尻評論家」として世に出たコーナーでもある。その山田はアカデミックにお尻を研究した『百万人のお尻学―エロティシズム、ドキドキ比較文化論』を出版。タモリは「オッパイを表の文化とするなら、お尻は裏の文化ということになる」という帯文と小学校時代の淡い思い出を綴った名文「お尻の思ひ出」を寄稿。
「空耳アワー」
町山広美が進行を務めた「あなたにも音楽を」を発展させ92年にレギュラーコーナー化。パートナーは「ソラミミスト」安齋肇。「誰が言ったか知らないが、言われてみれば確かに聞こえる『空耳アワー』のお時間がやってまいりました」という挨拶で始まるのが恒例。95年に一度は終了するも、投稿がなくならなかったため復活。2020年にレギュラー放送は休止されたが、定期的にグランプリを決する「空耳アワード」は継続された。
「こちとら会プレゼンツ古地図で東京探訪」
古地図愛好者であるエレファントカシマシ宮本浩次がタモリ、松尾貴史と「古地図東京探訪連絡会(通称:こちとら会)」を結成。古地図とともに江戸情緒を訪ねる『ブラタモリ』の原点のような企画。
「安齋肇 涙の断髪式」
空耳アワー内の雑談で「暑くてもう髪を切りたい」を漏らしたことをきっかけに、似合いそうな髪型をパネルに顔をハメて検証したりしつつ本当に断髪。この回の「空耳アワー」も髪を切られながらおこなった。
「トラック野郎対抗だるまさんが転んだ」
5台のデコトラでだるまさんが転んだをやる『タモリ倶楽部』らしいバカバカしさと、『タモリ倶楽部』らしからぬスケールの大きさの企画。夜の千葉港に光るデコトラの装飾と勢いよく近寄ってくるデコトラに怯えるタモリが印象深い。
「男・出川哲朗初講演(実はウソ)」
『ボキャブラ天国』などで「自称・ポストタモリ」をギャグ的にキャッチフレーズにしていた出川哲朗をターゲットにした人生で初めて講演の依頼が来るという番組には珍しいドッキリ企画。タモリがモニタリングしながら指示をするというのもなかなかない。そんな「ポストタモリ」出川が『タモリ倶楽部』の後番組のMCを務めるというのも奇妙な縁。
「第1回優作選手権」
爆笑問題と海砂利水魚(現・くりぃむしちゅー)が松田優作愛を競う。タモリも唖然とするほどマニアックな知識を披露しあう太田と上田。それぞれが書き下ろしの「優作漫才」を披露しあう贅沢な企画。
「全日本排便時下半身むき出し連盟」
700回記念として放送された企画。トイレに行く際、パンツやズボンを下ろすだけでなく脱ぎ切ってしまうという共通点を持つタモリと梶原善が「全日本排便時下半身むき出し連盟(通称:下向き連)」を発足し、そのメンバーを募る。様々な著名人に結成のご案内のハガキを出して連絡を待つも全裸になってしまう人は対象外。杉作J太郎、高野拳磁らがメンバーとなった。
「タメになるH!完全マスター計画」
風俗店の電話番号30軒暗唱、四十八手再現などエロ系の課題が課せられ、それをクリアすると賞金20万円が与えられる企画。目隠しした状態でお尻にムチを打たれ、12種類のムチの名前を当てるという課題に挑戦したのは、まだほとんど無名だった頃のアンタッチャブル。「六条バラ鞭」「キングベラ鞭」など一般的には意味不明な名称を次々当てていくのがバカバカしい。
「プロジェクトSEX 性の挑戦者たち~シリコンの女神を創った男達」
ダッチワイフを作った男たちを『プロジェクトX』(NHK)のパロディで描いた第39回ギャラクシー賞奨励賞受賞回。ダッチワイフの歴史から開発・販売に至るまでの苦難を真面目にドキュメンタリーとして見せた。ちなみにこの時期のエロ系企画といえば、大半は乾貴美子が進行を務めていた。
「マイナーキャンペーンソング大賞」
日本全国の企業・団体のキャンペーンソングを鑑賞するおバカ音楽系企画。その中でも大賞を受賞した特撮ヒーローソング風の「日本ブレイク工業社歌」が話題になり、その後CD化してヒットした。
「都内歩いているだけ企画 三田用水のこん跡を巡る!」
地形好きの江川達也とともに「タモ江地形クラブ」が結成された。メンバーは他にとよた真帆ら。ちなみにタモリは「人間の営みに対する愛おしさがある」と鶯谷から上野あたりの地形を好むことを明かしている。
「男の建造物 ダム放水大賞」
L'Arc~en~Cielのkenが「ダム好きにあらずんば男にあらず」とスローガンを掲げて持ち込んだ企画。ダムの豪快な放水をランキング形式で紹介していく。古地図の宮本同様、「好き」を理由にめったにバラエティ番組に出ないようなミュージシャンらが出演するのもこの番組の大きな魅力のひとつだった。
「ナスカの地上絵を超えろ!我らがタモリをGPSを使って地球に描こう」
浅草キッドらとすごい地図を作るグループ=「すMAP」を結成。GPSを持って移動し、その軌跡でGPSの地図上にタモリの似顔絵を描こうというスケールの大きな企画。
「テレビ趣味講座 ペン回し」
「ペン回し」だけで30分といういかにも『タモリ倶楽部』らしい企画。おぎやはぎがペン回しをレクチャーするのだが、いつもは器用になんでもこなすタモリがなかなかうまくできない。こうやれば「勝手にできる」とおぎやはぎらしい適当な教え方に「それは勝者の理論だよ」などと憮然とするタモリ。
■後期(2010年代~2020年代)
完全に「タモリが楽しむ姿を楽しむ番組」となり、鉄道、船舶、料理、坂道、ダム、古地図、民族音楽、オーディオ、アマチュア無線……サブカルチャーとも少し違う、“タモリカルチャー”とでもくくったほうがしっくりくる知的で私的な企画が頻出していった。
「エロ漫画界幻のハガキ絵師・三峯徹伝説」
20~30近くのエロ雑誌に20年以上にわたって投稿を続けたハガキ絵師・三峯徹を特集。エロ要素はこの番組には欠かせないが、エロ雑誌やエロ漫画の特集ではなく、そこに投稿するハガキ職人、つまりはまったくの素人に焦点をあてるのがこの番組ならでは。番組屈指のディープな回。
「地図マニアの最終形 ひとり国土地理院大集合」
自分の想像だけで描く「架空地図」マニアたちが集結。中でも小学5年生の頃から「中村市(なごむるし)」という名の空想都市の精緻な地図を書き続けるマニアは圧巻。地形から歴史、文化までも創造し、架空の店舗まで細かく作っている。それに対し、都市のでき方なども熟知しているタモリが共鳴していて話がスイングしていくのが『タモリ倶楽部』ならでは。
「自作カセットテープ発掘祭」
西寺郷太、みうらじゅん、泉麻人、安齋肇が青春時代に作った自作のカセットテープを持ち寄り聴いてみようという企画。泉麻人は「東名高速をぶっとばせ!」という自選曲集。みうらや西寺は、オリジナルソング集。「でもカセット知らない世代が見てるわけでしょ?」というタモリに対し伊集院が返した「当然そうですけど、『タモリ倶楽部』がそんなこと気にしてどうします?だいたい見てる人がよく分かんねえのが『タモリ倶楽部』ではメインに来るっていうのがルールですから」という言葉に『タモリ倶楽部』の真髄が詰まっていた。
「たった一人で山岳ガイド映画を作る男」
企画、主演、監督、撮影、編集、音効、ナレーションまで自らで行っている「自分撮り山岳ガイド映画監督」を特集。50本以上作成した作品の中から傑作「妙義道 その葛藤」を大根仁、伊集院光と鑑賞。1人で撮影までしているため、カメラを設置するために登り、一度降りて、また登るということを繰り返して撮影している。「どうしてそんなことを?」という言葉がよぎらずにはいられない。普段は産婦人科医をしているというのもなんだか面白い。
「役に立たない機械」
早稲田大学創造理工学部建築学科の『タモリ倶楽部』のためにあるかのような課題「役に立たない機械」の名作が発表される後期の恒例企画。ストローを折る機械や高いところから目薬をさすことができる「二階から目薬」など、大学の英知と技術を無駄使いして作られているバカバカしさが最高。
「理系高学歴芸人による卒論発表会」
広島大学工学部卒のアンガールズ田中と、東京農工大学工学部卒のハマカーン浜谷の卒業論文を発表する企画。田中は「骨組構造の新しい解析法」、浜谷は「液体の音速測定のためのパルスエコー装置の開発」という研究。解説を聞いてもまったくわからない感じが面白い。
さらに東京農工大学卒のハマカーン神田も「マンノース結合型イネレクチンの組織細胞内局在性の探索」なる卒論も披露。
「イケメンレスラー棚橋弘至の苦悩…急所攻撃を食らい続ける僕の○玉は大丈夫なのか?」
新日本プロレスの選手を使えるということもあってか、意外にもプロレス系企画も少なくない『タモリ倶楽部』。そんなプロレス系企画とバカエロ系企画を組み合わせた企画。矢野通との対戦などで金的攻撃をくらうシーンを振り返りながら、医師からは睾丸のメカニズムが解説されるアカデミックな側面も。
「月に2回のサロン通いは必要なのか!? 高橋克実のヘアカットを見学しよう」
月に2回、南青山の高級美容室でヘアカットしているという高橋克実のカットの様子を「高橋克実ヘアスタイルの歴史」を挟みながら見学するという実に『タモリ倶楽部』らしいくだらない企画。そのくだらなさの中にこだわりが感じられる。先述の安齋肇の断髪式もそうだし、最近ではレキシのアフロヘアーのセットについて特集したり、『タモリ倶楽部』は髪の毛にまつわる企画も多かった。
「官能小説プレゼン祭」
官能小説の愛読家というあいみょんに曲作りに役立つ官能表現を出版社の敏腕編集者がプレゼンするという企画。その後も「第1回 春画脇役大賞」、「夜の名建築『ラブホテル』特集」など、この番組におけるあいみょんといえばエロ系の企画となっていった。
「昭和初期エログロ発禁本の世界」
戦前の発禁本『エロエロ草紙』をはじめとした昭和のエログロ本をゲストの鴻上尚史、星野源、博多華丸・大吉を鑑賞し、当時のエロ事情を考察していく。この回が初登場だった星野源ものちに「空耳アワード」の常連になるが、初期はエロ系企画に呼ばれることが多かった。
「ストリートビューでオンライン撮り鉄! 偶然鉄道フォトコンテスト」
コロナ禍で外に出られないのを逆手に取り、ストリートビューを使って電車のある風景を“撮る”鉄道企画。コロナ禍での収録再開にオープニングではタモリは「ここまでしてやらなきゃいけない番組かね?」「よく『こんなときだからこそ』だって言うけど、『こんなときだからこそ』休めばいい」と話すもいつしか身を乗り出して興奮。進行そっちのけで楽しみ、時間延長まで申し出ていた。「タモリが楽しむ姿を楽しむ」極致のような企画だった。
「11年のパラサイトにピリオド!トリプルファイヤー吉田 居候からの卒業」
番組後期、もっともタモリから愛された人物のひとりといえばトリプルファイヤー吉田。彼は11年もの間、居候生活を続けてきた。そんな吉田の居候年表を振り返りながら、かつての「居候界のスター」であるタモリが、吉田の居候生活卒業を見守った。
(※以下、4月1日追記)
「タモリ流○○レシピを訂正しよう」
最終回におこなわれた企画。ネットなどで紹介されている「タモリ流○○」というレシピには間違いが少なくないという。それを訂正し正しいレシピを紹介するというもの。普段は調味料を適宜、目分量で入れているのを、正確に数値化しようとし勝手が違うためかグダグダに。奇しくも「適当」のほうがうまくいくという“タモリ流”を証明していた。時間もかかってしまい3品作る予定が2品だけで終わってしまうという最後までユルい終わり方に。
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