【ライヴ・レビュー】ジェフ・ベック 時間軸を超えたギターで魅せる夜
2014年4月、ジェフ・ベックのジャパン・ツアーは、過去でなく未来を見据えたものだった。
数多くのベテラン・アーティストが公演を行った2014年前半の日本。エリック・クラプトン、ローリング・ストーンズ、ボブ・ディラン、ディープ・パープル、ジョニー・ウィンター、ポール・マッカートニーなどが大挙して来日している。だが、彼らのステージはいずれも過去にベクトルを向けたもの。それぞれ新作・新曲を発表したりもしているが、その演奏曲目の多くは、往年のクラシックスだ。
ジェフもまた、1960年代から活躍してきたアーティストであり、数々の名曲・名演を残してきた。それらを披露するだけでも、ファンは満足しただろう。だが、良い意味で?空気を読まないのが彼だ。
新曲中心で攻める“予想外”の前半戦
筆者(山崎)が目撃したのは2014年4月7日、東京ドームシティホール公演。この日のステージは、新曲「ローデッド」で幕を開けた。
2014年内発表が噂されるニュー・アルバムからの曲であり、来日にあわせてリリースされた先行EP『YOSOGAI』にも収録されていた「ローデッド」。まだEPの発売(4月5日)から数日しか経っておらず、観衆の中には聴いていない人も少なくなかったと思われるが、ジェフは大きな声援で迎えられる。続く「ナイン」もニュー・アルバムからのナンバーで、新曲メインのライヴか!と身構えたところを3曲目、ジミ・ヘンドリックスのカヴァー「リトル・ウィング」でスッと躱すのがニクい。1960年代、ロンドンのクラブ『スピークイージー』では連夜のようにジェフとジミがジャムを繰り広げ、常連客から「また今晩もジミとジェフかよ!」と呆れられたというが、今となっては有名曲とはいえ、“ジミの曲をジェフが弾く”というだけでも貴重だったりする。
続いて、新曲だがアルバムへの収録予定はないという「ユー・ノウ・ユー・ノウ」、新しめの「ハマーヘッド」「エンジェル(フットステップス)」、近年のジェフのステージではおなじみの「ストラタス」(ビリー・コブハム『スペクトラム』からの曲で、オリジナルでのギターはトミー・ボーリン)をプレイ。ニュー・アルバムからの「イェミン」、『ギター・ショップ』(1989)からの「ホェア・ワー・ユー」まで前半戦、1970年代以前の楽曲は演奏されなかった。
“究極”へと近づいていくベック・クラシックス
しばしば“進化する”ギタリストと評されるジェフだが、彼のギターは“進化”という時間軸には乗っていない。彼のプレイは他のどんなギタリストとも異なっており、過去の自分自身とも一線を画しているのだ。同じツアーであっても、初日と2日目では異なったフレーズで魅せるのが彼だ。
後半に入ると「ザ・パンプ」「グッバイ・ポーク・パイ・ハット」がプレイされ、拍手と声援が送られるが、それらも昔のライヴ・パフォーマンスとは異なったフレーズを加えながら奏でられる。「昔の曲であっても、弾くのは今の自分。過去のサウンドをもう一度出すことには興味がない」と語るミュージシャンは少なくないが、それを実践しているギタリストは珍しい。ジェフはかつて「『ワイヤード』に収録された『蒼き風』はプロトタイプ。それからずっとステージで弾いてきて、いつか究極の『蒼き風』を弾くことが出来ると信じている」と筆者に語ってくれたが、この日の「蒼き風」「レッド・ブーツ」連打を聴いて、これでもまだ究極ヴァージョンじゃないのか!?と驚嘆するばかりだった。
世界で唯一無比のギター・スタイルで、安易な予想をさせないフレーズを次々と弾き出すジェフをバックアップするミュージシャン達も凄腕揃いだ。タイトにリズムを刻みながら大胆な手数プレイも聴かせるジョナサン・ジョゼフ、数曲でヴォーカルもこなした女性ベーシストのロンダ・スミス、セカンド・ギタリストとしてステージを引き締めていたニック・メイヤーという、信頼できる仲間たちがバックアップしているからこそ、ジェフは思う存分暴れることが出来たのである。
ビートルズ・カヴァー「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」でライヴ本編を締めくくった後、アンコールは「ローリン・アンド・タンブリン」、待ってましたの「哀しみの恋人達」、そして『YOSOGAI』からの新曲「ホワイ・ギヴ・イット・アウェイ」でクライマックスを迎えた。
クラプトンがブルースの伝統を継承し、ジミー・ペイジがバンド解散後30年以上もの間、レッド・ツェッペリンと共に生きてきたのに対し、ジェフは自らの成功に縛られることなく、自由に弾きまくる。だが、自由には責任が伴うものだ。ジェフ・ベックには、ギターという楽器が持つ可能性を切り開いていく責任がある。この日のステージは、彼がその重責を見事に果たしていることを証明するものだった。
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