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初めての東京暮らしで注意。「駅徒歩5分」でも電車のホームまで10分のケースも

櫻井幸雄住宅評論家
延々と下りる階段。改札口まで4階分を下りて、さらに1階分下りてホームに。筆者撮影

 地方の高校生が東京の大学を受験し、見事合格したときに必要になるのが、東京での住まい。多くの場合、賃貸住宅を借りることになるのだが、この物件探しがひと仕事だ。実際に入学する大学が決まってから賃貸住宅探しをしたくなるが、好条件の住まいはすでに契約済みというケースが多い。

 「条件のよい賃貸を借りたいなら、なるべく早く予約をしておくに限る」「合格してからでは遅い。受験とともに」などといわれると、焦ってしまう。が、右も左も分からない東京暮らしで、しかも初めての一人暮らし。「早く決めて!」といわれても、気持ちも体も動かないだろう。

 そして、不動産において、一番いけないのが焦ること。借りるにしろ、買うにしろ、売るにしろ、焦りは失敗に通じる。だから、タチのわるい不動産業者は、せき立てる。「今すぐ契約しないと、取られちゃいますよ」「これが最後のチャンス」……大金が動く不動産の契約で、そんなに簡単に決断などできるわけがないのに、だ。

 焦らずに、じっくり場所を見て、物件を見ることが間違いのない物件選びの基本となる。

ネット検索では分からないこともある

 今の時代、実地に見学をしなくても、インターネットの検索で、物件の特徴を知ることはできる。しかし、それですべてが分かるわけではない。

 たとえば、東京の物件の場合、「駅徒歩5分」と書いてあっても、家を出てから実際に電車のホームまで10分以上かかるケースがある。これ、誇大広告でも違法広告でもないので、やっかいだ。

 この差は、「駅徒歩5分」が電車のホームまで、もしくは改札口までの所要時間を表しているわけではないことから生じるもの。では、どこまでの所要時間かというと、「物件に近い駅出入り口まで」というのが正解だ。

 東京の地下鉄駅では、改札を出てから長い地下通路を歩いて、やっと地上に出るケースがある。また、地下深いホームから長い階段をいくつも上がって、ようやく地上に出ることもある。この「地上に出た」ところから計測しているため、「駅徒歩5分」でも、「電車のホームにたどり着くまで10分」というような事態が生じてしまうのである。

 これは、「不動産の表示に関する公正競争規約」で認められた計測方法であるため、誇大広告でも違法広告でもないわけだ。

特に注意したい、都営地下鉄の駅

 東京の都心部で、「ホームまで遠いなあ」と感じるのは、近年につくられた地下鉄だ。代表的なのが、都営大江戸線と都営新宿線。いずれも地下深いところを走っている。浅いところはすでに別の地下鉄が走っているため、地下深い路線にせざるを得なかったのだ。

 逆に歴史が古い地下鉄は、浅いところを走っている。東京メトロで最も歴史が古いのは銀座線。次いで古いのが丸ノ内線。この2線は地下の浅いところを走っており、一部は地上に出て高架になっている箇所さえある。だから、入り口からホームまでが近い。

 都営大江戸線の場合、地上にある入り口からエスカレーターや階段で延々と下りてゆくのが普通。地下4階とか5階くらいまで下りていくことになる。そのため、地上の出入り口から3分以上かかるのは当たり前。どの出入り口を使うかにもよるが、地上から5分以上かかることもある。

 そうなると、「駅徒歩5分」となっている物件でも、実際に家から電車のホームにたどり着くまで10分以上かかるので、実質「駅徒歩10分」ということになってしまう。

物件探しよりツテ探しのほうが得策

 「駅徒歩5分」と書かれていても、ホームにたどり着くまで10分かかることがある。そうなると、サイトで調べるだけでなく、自分の足で調べたほうがやはり安心だ。

 が、受験生が試験の期間中に物件探しで歩き回るというのは現実的ではない。アパート探しに時間が取られ、試験はすべて落ちた、ということも起きかねない。

 そこで、一人暮らしを始める予定の大学受験生にオススメしたいのは、「物件探し」ではなく、「不動産屋さんのツテ探し」に力を入れる方法だ。

 ここでいう不動産屋さんとは、駅前に店舗を出している「街の不動産屋さん」とよぶべきもの。財閥系や鉄道会社系の大手不動産会社でなくてもよいわけだ。というのも、賃貸物件を扱っているのは、主に街の不動産屋さん。そのルートをたぐればよい。

 たとえば、地元で不動産屋さんに知り合いがいたら、その人のツテで東京の不動産屋さんを紹介してもらう。東京の不動産屋さんは、23区内ならどこでもよい。新宿区内に住みたいと思っているところに、墨田区の不動産屋さんのツテがみつかったとする。その場合、墨田区の不動産屋さんに新宿の物件を多く扱っている不動産屋さんを紹介してもらう。

 なぜ、そのようなことをするのかというと、不動産のプロに身内扱いしてもらえれば好条件の部屋を優先的に紹介してくれるから。間違っても、劣悪物件を押しつけられることはない。

 賃貸物件をひとつひとつ探し回るより、エリアのこと、物件のことをよく知っているプロに任せたほうが簡単だし、確実なのである。

人が多いし、路線も多い東京。慣れるまでは怖い。慣れた人を味方にしよう。筆者撮影
人が多いし、路線も多い東京。慣れるまでは怖い。慣れた人を味方にしよう。筆者撮影

 今、追い込みで勉強している受験生に代わり、親や兄弟がツテを探してもいいだろう。ツテがみつかれば、大学に合格してからの物件探しでも失敗することはない。ツテ探しは、親類の友達の友達など範囲を広げて行いたい。

 物件よりツテ探し。それは、賃貸物件を探すときの、賢い手段となる。

 

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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