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”戦争しないと”丸山穂高議員に「言論の自由」あるか?―より深刻な安倍首相の「実績」

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ニコニコ超会議2018 討論で発言する丸山穂高衆議院議員(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 「(ロシアと)戦争しないと、どうしようもなくないですか」―今月11日、北方四島の返還に関しビザなし交流訪問団の団長に詰め寄った丸山穂高衆議院議員。戦争経験者である元島民に対する暴言である上、ロシアとの外交問題にも発展しつつある。同17日には、野党6党派が、丸山氏の辞職勧告決議案を衆院に共同提出した。これに対し、丸山議員は「言論の自由」「憲政史上例を見ない、言論の府が自らの首を絞める辞職勧告決議案」と反論した。だが、丸山議員に「言論の自由」はあるのか。また「戦争」という点において、「言論」にとどまらない自民党が行ってきた、より具体的な行動はもっと批判されるべきではないのか。憲法の視点から考察する。

○丸山議員に「言論の自由」はあるのか?

 丸山議員が「言論の自由」「言論の府が自らの首を絞める」という主張の根拠は、憲法第21条の「表現の自由」及び、「国会議員の国会内での発言は、国会の外で責任は問われない」とする同51条であろう。国民の代表たる国会議員が自由に議論するため、国会の中での発言が国会の外、つまり訴訟等で責任追及されるべきではない、というものだ。確かに、日本国憲法は、「表現の自由」においては格別の配慮が要求される。だが、同時に憲法は第99条で国会議員を含む全ての公務員に対し、憲法を遵守するとともに、憲法違反を防ぐことが義務だとしている(「憲法尊重擁護義務」)。丸山議員の発言は、平和主義という憲法の大原則および第99条の「憲法尊重擁護義務」に反するものだ。したがって、丸山議員が「言論の自由」だのと憲法を語る資格はない。むしろ、丸山議員の発言について責任追及する野党の動きこそ、第99条の「憲法尊重擁護義務」に従ったものだとの解釈もできるだろう。

 また、第51条についても、あくまで国会外での免責についての条項であり、重大な不祥事について、国会として議員に懲罰を与える規定は、日本国憲法第58条第2項に定められている。今回、丸山議員がビザなし交流訪問団に「衆議院の代表」という立場で参加したことから、「議院の秩序をみだし又は議院の品位を傷つけ、その情状が特に重い者」として、丸山議員を衆院から除名すべきでは、と指摘する識者もいる*。

*丸山議員への辞職勧告決議は筋違い。衆院は懲罰委員会に付託せよ

 https://hbol.jp/192463

 他方、自民党内には失言で辞職させられることへの抵抗感があるとも各紙が報じている。確かに、自民党関係者からは酷い失言が頻発し続けてきた。例えば、麻生太郎副総理は、2013年、憲法改正論議に関して「ドイツのワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。誰も気が付かなかった。あの手口に学んだらどうかね」と講演で発言。国内外で批判を浴びた。2016年、当時の高市早苗総務相の放送法に関する「停波」発言*は、報道の自由への著しい介入だとして、やはり国内外から強く批判された。最近では、杉田水脈衆議院議員の「LGBTには生産性がない」との主張。杉田議員の文章を掲載した「新潮45」は廃刊に追い込まれたが、当の本人は辞職していない。

*放送法「政治的公平」とは何か、安倍政権の深刻な誤解

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20160211-00054309/

 こうした自民党の政治家達の失言は、「部分を切り取られた」だの、「誤解を招いた」だのではなく、根本的に憲法や人権、民主主義を軽視、あるいは理解していないからのこそのもので、国会議員としての資質が厳しく問われるべきものである。筆者は丸山議員をかばうつもりは毛頭ないが、辞職ものの大失言を最も量産しているのは、自民党であろう。

〇失言どころではない実際の戦争行為

 筆者は丸山議員は辞職すべき、或るいは衆院から除名されるべきだと思う。ただ、あえて極論を言えば、丸山議員のそれは、あくまでも失言であって、実際に戦争行為を行ったわけではない。だが、安倍晋三首相は、主権者たる人々にひた隠し、戦争行為を行ったという「実績」がある。第一次安倍政権の頃、「国連その他復興支援のための人員・物資を輸送」するため、イラクに派遣されていた航空自衛隊は、実際にはその大半が米軍の人員・物資を輸送していたのだ。2008年に名古屋高裁が「違憲」と判断したように、戦争のための人員・物資を輸送する、つまり「兵站」は、戦争行為そのものとされる。安倍首相は失言どころか、イラクで航空自衛隊に戦争行為をさせていた責任が問われるのである。本件については、2015年の安保法制審議でも、山本太郎参議院議員が問いただしたが、安倍首相は話題をそらし、まともに答えようとしなかった*。

国会で空自のイラクでの活動について追及する山本議員。人員輸送実績の約6割が米軍関係者だった。 画像提供:山本太郎事務所
国会で空自のイラクでの活動について追及する山本議員。人員輸送実績の約6割が米軍関係者だった。 画像提供:山本太郎事務所

*山本太郎vs安倍晋三ー暴かれたイラク戦争加担、米軍による無差別虐殺、戦争犯罪支える対米追従・安保法制

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20150731-00048032/

 また、米国やイギリス、オランダ等で徹底的に行われたように、日本でもイラク戦争の検証を行うべきではないかとの野党議員達の国会質疑に対し、安倍政権はことごとく、これを拒絶してきた。そのような安倍政権が、この夏の参院選(場合によっては衆参同時選)の後にも改憲へ着手しようとしているのである。

 再度強調しておくが、筆者は丸山議員をかばうつもりはなく、辞職或いは衆院からの除名が適当だと思う。ただ、今、メディアが本当に批判的に検証すべきなのは、憲法に反し、事実上の戦争行為を行っておきながら、その事実すら認めない政権が、改憲しようとしていることなのであろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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