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いつかマスクを外せる日はやってくるのか? 現在の公的推奨は

倉原優呼吸器内科医
photoACより使用

日米の公的推奨

アメリカでは、新型コロナワクチン接種を完全接種した人に対して、「多くの場所でマスクを着用しなくてよい」というアメリカ疾病予防管理センター(CDC)のガイダンスが出た直後から感染性の高いデルタ株が蔓延し、感染者数が急増する事態となりました。これを受けて、CDCは再びマスクの着用を推奨するガイダンスをアップデートしました。いまだに毎日万人単位の新規感染者が出ている現時点では、「公共の場で室内にいる時はマスクを着用すべき」と推奨しています(図1)。

図1. 2021年11月6日時点のCDCの推奨(参考資料1より筆者作成)
図1. 2021年11月6日時点のCDCの推奨(参考資料1より筆者作成)

日本は比較的諸外国よりも少ない新規感染者数で推移していますが、第6波に備え、手洗いや手指消毒などの手指衛生を徹底し、密を避けてマスクを着用するよう推奨されています(図2)。

図2. 2021年11月6日時点の厚労省の推奨(参考資料2,3より筆者作成)
図2. 2021年11月6日時点の厚労省の推奨(参考資料2,3より筆者作成)

新型コロナワクチン接種後、その感染予防効果は経時的に低下することが分かっていますが、ブレイクスルー感染しても重症化し入院にいたる人はごくわずかです。第5波以降、私たちがコロナ病棟で対応した入院患者さんもほとんどがワクチン接種を完了していない人で、接種率が当時80%を超えていた高齢者層は病棟にほとんどいませんでした。

今後新型コロナワクチン接種がさらに進み、集団免疫が議論できるフェーズになれば、マスク着用についても緩和されていくものと思われます。

呼吸器系に病気がある人は、約半数が1年後もマスク着用を希望

イギリスで興味深い研究が発表されました。呼吸器系の病気を持っている4442人(喘息:3627人、気管支拡張症258人、慢性閉塞性肺疾患557人)を対象に、新型コロナパンデミックが収束した後も、このような対策を1年後も継続したいかどうか意識調査をおこなったところ、全体の47%が「屋内の公共スペースでのマスク着用を継続したい」という意向を示していました(図3)。

図3. 1年後も継続したいと希望する感染対策(参考資料4より引用)
図3. 1年後も継続したいと希望する感染対策(参考資料4より引用)

個人的には、日本でこういったアンケートを行った場合、マスクを希望する頻度はもう少し高いのではないかと予想しています(アジア各国は他国よりもマスクに対する信頼性が高い)。

将来的に感染対策の緩和の流れになったとしても、マスクを着用し続けたいと思う人は一定数いるかもしれません。

感染対策の緩和について議論が必要

「収束傾向にあるのだからもうマスクは不要」という意見も増えていますが、この問題は「個別戦略」ではなく「集団戦略」として向き合う必要があります。今はファイティングポーズを取ってくださいと公的に推奨されている以上、それに先んじてガードを下げるのは得策とは言えません。

次の波が到来するかどうかは、新型コロナワクチンの普及、密の回避、マスクや手指衛生などの基本的感染対策のかけ算と、治療薬の流通によって決まると思いますが、火種であるウイルスが極端に少ない状況にあれば、いずれマスクを着用しなくてよい日が来るはずです。

今後到来が警戒されている第6波・第7波の動向を睨みながらではありますが、個人的には、たとえば満員電車などではマスク着用はやむを得ないものの、屋外であればそこまで厳しくしなくてもよいだろうと思っています。

今後の感染対策をどういったタイミング・どのように緩和していくのか、という点については可視化されて議論を進めていく必要があります。そして、いつかみんなで「3密」しながら、ワイワイお酒が飲める日がやってくることを心から願っています。

(参考資料)

(1) CDC: Your Guide to Masks(URL:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/prevent-getting-sick/about-face-coverings.html

(2) 新型コロナウイルス感染症対策本部(第79回)(URL:https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/sidai_r031015.pdf

(3) 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A. (URL:https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0040.html

(4) Hurst JR, et al. Thorax. 2021 Oct 21;thoraxjnl-2021-217981.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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