シリア難民女子がサッカー日本代表を応援する理由―NGO招きで来日、イラクで支援活動
シリア内戦では、2011年の勃発以来、死者は35万人以上、難民として同国から避難を余儀なくされた人々は500万人以上とされる。その中の一人、リーム・アッバスさん(23歳)が来日。今月27日に都内での記者会見で、サムライブルーのユニフォームを着たリームさんは「日本の皆さんに感謝しています。ワールドカップの日本代表、頑張ってほしいです」と語る。
〇看護学生から難民へ
リームさんは8歳の頃、母親をがんで亡くし、そのことから、看護師になることが自身の目標となった。シリア首都ダマスカスの看護学校で勉強をしていたが、内戦が勃発。リームさんが通っていた看護学校の卒業生は軍で働くことも多かったため、手榴弾を投げ込まれるなど、反体制の武装勢力から攻撃されるようになった。同級生が殺害されたり、誘拐され行方不明となったりするようになるなど、治安悪化が深刻になり、ダマスカスを離れることを決意する。隣国イラクも情勢は不安定であったが、同国北部のクルド人自治区は治安が良かったため、リームさんは2013年8月、同自治区内のダラシャクラン難民キャンプで暮らすようになった。安全は確保できたものの、難民キャンプ内には当然、看護学校はない。
「看護師になるという夢が閉ざされてしまったことは、私にとって大きな悲しみでした」(リームさん)
〇日本のNGOとの出会い
失意のリームさんが出会ったのが、彼女のいた難民キャンプで人道支援活動を行っていた日本のNGO「日本イラク医療支援ネットワーク」(JIM-NET)だった。
「難民キャンプに来てから、自分は何をしたらいいのか、しばらく途方にくれていましたが、JIM-NETの現地スタッフとして働かせてもらうようになりました。難民キャンプ内での、妊婦さんなどの支援や、イラクでの小児がん患者への医薬品支援、シリア国内への医療支援などの活動に加わらせてもらっています」(リームさん)
リームさんがイラクへ避難してから、シリア内戦はますます激化。シリア政府軍は、住宅地への無差別爆撃を行い、IS(いわゆる「イスラム国」)などの過激派も人々を拷問したり、殺害した。シリアのアサド政権を支援するロシアやイラン、反政府組織を支援する米国やサウジアラビア等湾岸諸国など、諸外国も内戦に間接的・直接的に加わり、情勢は泥沼化していく一方だ。イラクでも、昨年夏にISに占拠されていた同国第二の都市モスルをイラク政府軍が奪還するものの、激戦によりモスルは破壊されつくされ、多くの住民達は未だ帰還できない状況だ。
支援のニーズはますます高まっているが、国際的な関心の低下から、現地で活動するNGO・NPOは減少している。今回、リームさんが来日した最大の目的は、これまでの日本からの支援に感謝を伝えると共に、シリアの国内避難民や、イラクでの難民/国内避難民の窮状、そして支援の必要性をあらためて訴えることだ。
〇「キャプテン翼」、サッカー日本代表の大ファン
「人道支援の仕事はとてもやりがいがあります」と語るリームさんだが、一方、内戦終結のきざしが見えない母国の状況に落ち込むこともあるという。そんな時、大好きなサッカーを家族や友人達と大騒ぎしながらテレビ観戦することが、リームさんを大いに励ましている。そして、リームさんがサッカーを好きになったきっかけが、日本の漫画なのだという。
「子どもの頃、アラビア語に翻訳された『キャプテン・マジド』(『キャプテン翼』のアラビア語名)を読みました。とても興奮しながら、読んだことを覚えています」(リームさん)
リームさんは、サッカー日本代表の大ファンでもあり、今大会での活躍を応援しているという。
〇都内で講演、福島県も訪問
今月26日に来日したリームさんは、来月5日まで日本に滞在する。6月30日には東京都の聖心女子大学で14時から講演を行う(関連情報)。7月2、3日には福島県に行き、復興のシンボルとされる、福島県会津地方の郷土玩具「赤べこ」の製作工程を視察。仕事が無い難民キャンプの難民達と、オリジナル商品としての「赤べこ」を作り、難民達の収入としたいのだという。また、会津若松市長とも面談する予定だ。
JIM-NETの佐藤真紀事務局長は「自身も難民であり、支援する側でもあり、小さな子どものママでもある、リームならではの報告を是非、多くの人々に聞いてもらえたら嬉しいです」と語る。リームさんの来日情報等は、JIM-NETのフェイスブックページ等で随時アップしていくとのことだ。 https://www.facebook.com/JapanIraqMedicalNetwork/
(了)
*本記事の写真は、JIM-NET提供のもの以外は全て筆者の撮影。