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藤井聡太二冠(18)2度目の順位戦18連勝なるか? B級2組8回戦、野月浩貴八段(47)戦開始

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成、写真撮影:筆者)

 12月16日。東京・将棋会館においてB級2組8回戦▲藤井聡太二冠(6勝0敗)-△野月浩貴八段(3勝4敗)戦が始まりました。

 対局がおこなわれるのは将棋会館5階・特別対局室。B級2組中、席次最上位の藤井二冠の対局は、窓側の最上席に配されました。

 9時28分。藤井二冠が対局室に姿を見せ、上座にすわります。

 規定では10時までに席に着けば、遅刻にはなりません。しかし藤井二冠は比較的早く盤の前にすわって、静かに落ち着いて対局開始を待つタイプです。

 藤井二冠は紙コップにお茶をついで飲んだあと、窓の外に目を向けました。特別対局室の窓の外には千駄ヶ谷・鳩森神社の緑が広がっています。また本日のようによく晴れた日には、代々木・新宿方面のビル街の景色がよく見えます。

 藤井二冠は今期B級2組で唯一無敗の6連勝中です。今年度より昇級枠が2から3に増えたこともあり、このまま連勝で突き進めば、早い段階で昇級が決まる可能性があります。

 デビュー以来の順位戦の成績は、いきなり18連勝。1敗のあとにまた17連勝で、本日勝てば2度目の18連勝。この勝ちっぷりは、異次元としか言いようがありません。

 ところで昨夜、藤井二冠の師匠である杉本昌隆八段が出演した『開運! なんでも鑑定団』が放映されました。

 藤井二冠はこの番組、見ていたでしょうか。

 9時34分。野月八段入室。こちらも早い入室でした。

 野月八段は盤から遠く離れてすわるタイプの棋士の一人。下座にすわる前に、座布団を後ろに引きました。畳の中央に盤が据えられると、両対局者の座布団の先は、畳の縁にほぼ揃えられます。野月八段が引いた座布団は、畳の縁からかなり遠いところに移動していました。

 野月八段かたわらのお盆の上には、北海道銘菓「白い恋人」が3つ乗せられました。野月八段は北海道札幌市の出身です。

 野月八段は昨年度1勝9敗と成績が振るわず、降級点を1つ取りました。降級点が2つ重なると、降級となります。

 B級2組の降級点は以前まで5人に1人でした。昨年度は25人中5人に降級点がつけられています。例年であれば4勝6敗はほぼセーフなのですが、昨年度は不運にもその成績で順位下位の棋士に降級点がついてしまうという激戦ぶりでした。

 今年度からは制度が変更され、降級点がつけられるのは4人に1人と厳しくなりました。今期は25人中6人に降級点がつく計算。B級1組に上がりやすくなった反面、C級1組に落ちやすくもなったわけです。

 野月八段は今期、序盤で3連敗したものの、そこから巻き返し、現在は3勝4敗です。まずは降級点回避が目標となるのでしょう。

 その上で6勝4敗と勝ち越せば規定により、昨年度の降級点を消すことができます。降級点消去は「半分昇級したに等しい」と言われることもあるように、順位戦では大きな戦果です。

 野月八段が広げた扇子は渡部愛女流三段(27歳)が揮毫したものでした。

「迷わず 行けよ 信じる道 渡部愛」

 これはコンサドーレ札幌のチャント(応援歌)の一節です。渡辺女流三段も北海道の出身。野月八段とともに、コンサドーレの熱心なサポーターです。

 野月八段は渡辺女流三段のコーチ役でもあります。そのトレーニングもあって、2018年、渡辺女流三段は女流王位のタイトルも獲得しました。

(2018年9月2日、渡部愛新女流王位誕生記念パーティーであいさつする野月浩貴八段)
(2018年9月2日、渡部愛新女流王位誕生記念パーティーであいさつする野月浩貴八段)

 本局の隣りに配されているのは▲谷川浩司九段(3勝3敗)-△鈴木大介九段(2勝4敗)。谷川九段、藤井二冠ともに関西の所属ですが、アウェイの東京に遠征しての対局となりました。

 定刻10時。記録係が対局開始の合図を告げます。

「それでは時間になりましたので、藤井先生、谷川先生の先手番でよろしくお願いします」

 4人の対局者の「お願いします」という声が特別対局室に響きました。

 藤井二冠はまず紙コップを口にします。ファンや関係者の間では「初手お茶」と呼ばれる「ルーティーン」です。

 先日13日に放映されたNHK杯3回戦では、師匠の杉本八段もこの「初手お茶」を実践していました。そして杉本八段は熱戦の末に豊島将之竜王を降しています。

 ここまで藤井二冠は豊島竜王に6戦全敗。その仇討ちを師匠の杉本八段が果たした、という構図になるのでしょうか。杉本八段と豊島竜王の対戦成績はこれで2勝2敗です。

 本局。藤井二冠はお茶を飲んだあと、盤上に右手を伸ばして7筋の歩を手にして一つ前に進め、角筋を開きました。

 4手目。野月八段は角筋を止めます。これは先日の▲羽生善治九段-△野月八段戦と同じ立ち上がりです。

 そして野月八段は本局も雁木の作戦を取りました。

 藤井二冠は玉の囲いを省略し、手早く攻めの銀を繰り出します。そして19手目、早くも3筋の歩を突っかけて仕掛けていきました。

 11時過ぎ。藤井二冠は戦いが起こった飛車を3筋に寄せます。2筋から見て「袖」(そで)の位置にあたるので、袖飛車と呼ばれる形です。

 早くも勝負どころと思わせる局面となりました。野月八段は長考に入り、次の24手目を指さず、12時、昼食休憩となりました。

 B級2組順位戦の持ち時間は各6時間(チェスクロック方式)。昼食、夕食それぞれ40分の休憩をはさんで、通例では夜遅くに勝敗が決します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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