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「ほぼ日のアースボール」はジョン・レノンの想像が具現化した“ホールアースカタログ”なのだ!?

舘神龍彦デジアナリスト・手帳評論家・歌手

日本文具大賞機能部門グランプリを受賞した「ほぼ日のアースボール」

 さる6/30~7/2まで、東京ビッグサイト青海展示棟で開催されたISOT 国際 紙文具製品展。その初日に日本文具大賞の機能部門とデザイン部門にそれぞれ優秀賞、グランプリが発表された。それらの詳細は、既報にゆずろう。

 今回は、機能部門のグランプリに選ばれた「ほぼ日のアースボール」の本質について考えてみたい。この製品については、うまいなぁと思うポイントがいくつもある。それまでの地球儀のスタイルを部分的に踏襲しつつも、現代的な意味と解釈と技術でまったく新しいものにしているのではないかと思う。
 以下に具体的に見ていこう。その前にまずはいままでの地球儀について。

これまでの地球儀

 これまでの、そして多くの地球儀では、地球という惑星を球の形で表現・具現化し、その上に知識のレイヤーを重ねて作られているものが多かったと思う。

 大洋と大陸、各種諸島がその国名・地域名とともに表面に印刷されている。これがややクラシックなセピア色をしている。地軸とおぼしき傾きを斜めの軸としてスタンドに固定され、一定の方向に回転するようになっているのが、これまでのオーソドックスな地球儀だろう。または、球が上から見たら十字になった枠でホールドしているようなタイプだ。 
 いわば、大河ドラマの中で南蛮かぶれの織田信長が傍らにおいているような、あれだ。 
で、海の色が青くなったバージョンが学習用の各種地球儀となろうか。ちなみにYahooショッピングで地球儀を見てみるとこんな一覧が見られる。これが2021年7月時点における地球儀の各種である。この中には、後述するARの機能を持ったものや、音声を発する機能のものなどがある。ただしこれらの中にあっても「ほぼ日のアースボール」の価格競争力は高い。

ジョン・レノンの想像が具現化した!?

 ほぼ日のアースボールの形状はこういう地球儀とは、やや異なる。
 まず形だ。球体である点は、既存の地球儀とほぼ同じだ。実際の地球という惑星は球ではなく、洋梨のような形だと言われている。この事実に忠実に作っても逆に地球儀っぽくは見えないだろう。だからここは球体のままで良いと思う。
 「ほぼ日のアースボール」が面白いのは、海の部分も陸の部分にも何も書いていないことだ。

 いわば、我々がよくテレビなどのメディアや印刷物で見る、宇宙から見た地球に近い。違うのはそれが宇宙空間をバックにしているかどうか。
 そこを想像力で補完することで、ほぼ日アースボールを手にした我々は、漆黒の宇宙に浮かぶ星、地球を目の前にすることができる。
 そして宇宙からみた地球には、当然のことながら国境も国名もない。
 そう、これは、あのジョン・レノンが想像したような、国境のない世界なのだ!
 そして地球儀でありながら素の状態であることを可能にしているのが専用のアプリだ。

まさに“ホールアースカタログ”

 勘のいい方ならお気づきのように、ほぼ日のアースボールは、専用のアプリとの組み合わせで利用する。

 アプリを起動してアースボールにかざすことで、いろいろな地球の姿が確認できる。その数全部で19(2021年7月15日現在)。それは例えば、現在の地球であり、恐竜がでてくるであろう「恐竜図鑑」、土地の高低差がわかる「でこぼこ地球」などだ。各地の気温の差がわかるモードもある。

 つまり、地球儀に求められる各種情報を、アプリ側にアウトソース。そのことで、地球に関連する情報を地球儀の上にレイヤーとして重ねる自由度を飛躍的に増幅したと言える。地球という縛りであれば、いろいろなものが見せられるというわけだ。

 またアプリであることで、情報の追加変更が可能でもある。

 これはもう、ある種の“ホールアースカタログ”(※)と言えはしまいか。 カタログと言っても、商品が見えるわけではない。ただ、アプリの画面上で、地球のいろいろな姿、地球上のいろいろな情報が見られるさまはカタログ的ではある。

 そしてその拡張の主体は、コラボレーションとアライアンスの技法で卓越したパフォーマンスを発揮する株式会社ほぼ日だ。
 前述のように、現時点でもAR機能を売りにした地球儀はこれ以外にも存在する。そしてそれらとほぼ日のアースボールを分かつ点があるとすれば、このほぼ日のコラボレーション能力ではないかと思う。

※1968年にスチュワート・ブランドがアメリカで創刊した一種の商品カタログ。商品カタログという一言では語りきれないほどの影響を後世の多くの雑誌に与えた。スティーブ・ジョブズが「バイブルのひとつ」であると語ったことでも有名。ちなみにその表紙は、NASAが捉えた漆黒の宇宙に浮かぶ地球だ。

地軸から自由で、自由に回転できる

 台座のうまさについても触れておきたい。
 それまでの多くの地球儀は、仮想の地軸で貫かれ順回転逆回転の2方向に縛られていた。
 ほぼ日のアースボールには、この地軸に相当するものがない。凹型の台の上に設置できる。はずしてとりあげることもできる。
 で、この凹型がまたよくできている。球体を受け止める凹型は、この写真のようによく見ると外周部に丸い突起が複数個ある。また中心部にも、半円球の凸型がある。

「ほぼ日のアースボール」の台座。外周と中心に丸い凸型があり、ボールを載せたときにうまくまわせるようになっている。
「ほぼ日のアースボール」の台座。外周と中心に丸い凸型があり、ボールを載せたときにうまくまわせるようになっている。

 この工夫によって、ほぼ日のアースボールは文字通り、全方向にぐるぐる回すことができる。つまり、例えばニュースで話題に出てきたよく知らない名前の国を探すのに、全方向にぐるぐる回せる。そしてその国を真上から見下ろして周辺国・地域との位置関係を簡単に確かめられる。これは地軸に固定された従来の地球儀では難しいことだ。

 これもまた新しい工夫と言える。

ほぼ日のアースボールは、ほぼ日手帳の便覧である

 ほぼ日のアースボールは、その名の通り、株式会社ほぼ日の製品である。
 ほぼ日と言えば、ほぼ日手帳だ。1日1ページスタイルの手帳を日本に定着させ、その後、ほぼ日Week、ほぼ日手帳カズンといった派生バージョンを生み出していることは、文具が好きな人ならばよくご存じだろう。
 そして、私はここにほぼ日手帳とアースボールとの連続性を見る。具体的に言えば、ほぼ日のアースボールは、ほぼ日手帳の巻末に収まりきれなかった、立体的な便覧ではないだろうか。

 今でこそ手帳の便覧は縮小傾向にあるが、かつては手帳の巻末には発行元の共同体や企業の世界観を圧縮したような各種の情報が掲載されていた。たとえば度量衡や郵便料金一覧というのがそれだ。大手手帳メーカーの手帳には、西暦と元号が併記された年齢早見表が掲載されているのはその典型だと言える。
 そして地図もまた、便覧の定番のコンテンツだった。いや、今も地図を便覧ページに掲載する手帳はある。もう一度書いておけば、手帳の便覧とは、その手帳の発行元の世界観を体現するものである。
 とするのなら、このほぼ日のアースボールは、外部に存在するほぼ日手帳の便覧とは言えまいか。
 であるとするのなら、こんな推理(邪推?)も可能になる。

 ほぼ日手帳の発行元たる株式会社ほぼ日は、ほぼ日手帳(やほぼ日のアースボール)の次なる販路を、全世界(!)と想定しているのではないか。すでに、というべきか、ほぼ日手帳には、簡体字版が存在している。

 いささか邪推の屋上屋を架したかもしれない。ともあれ、ほぼ日のアースボールがほぼ日手帳の便覧だとすれば、こういう想像が不自然ではないと思えるのだ。

ほぼ日のアースボール 公式ページ

https://earthball.1101.com/contents/

デジアナリスト・手帳評論家・歌手

デジアナリスト・手帳評論家・歌手。著書『手帳と日本人』(NHK出版新書)は週刊誌の書評欄総ナメ。日経新聞「あとがきのあと」登場ほか大学受験の問題に2回出題。『凄いiPhone手帳術』(えい出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)等著書多数。「マツコの知らない世界」(TBSテレビ)「HelloWorld」(J-WAVE)はじめテレビ・ラジオ出演多数。講演等も。手帳ユーザーを集めた「手帳オフ」を2007年から開催する等トレンドセッター的存在。手帳活用の基本をまとめた「手帳音頭」をYouTubeで公開中。認知症対策プロダクト「おぼえている手帳」は経産省オレンジイノベーションプロジェクト事業採択。

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