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“詐欺を見破る”だけでなく、“詐欺に遭った人を見抜く“も必要な時代!

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(提供:Mono_tadanoe/イメージマート)

“詐欺の手口を公表することは、犯罪者たちにその手口を教えるようなものだ“という考えを持っている人もいらっしゃいますが、現代においては古いものです。

振り込め詐欺が10年以上前に出始めた頃も、模倣犯が出てくるのを懸念して、警察も詐欺の手口の公開を控えたところもありました。しかしその結果として、手口を知らない人たちの被害が多く出ることになりました。裏の世界では、新聞やテレビなどで手口を公表しなくても、悪の情報はまわり、被害者が増えていく結果になるだけだからです。

今は、新しい詐欺の手口が出てくると、警察もすぐに公開してくれるので、多くの人たちがその情報を受けて、どう身を守ればよいのかを、事前に考えることができます。これがとても大切です。

今は、詐欺の手口を知り、どう対策をすべきかを考えるステップに入ってきているといえます。

詐欺の手口は時代とともに変わるものですが、それを防止する考え方も進化させていかなければなりません。

見破るから、見抜くへ

近年は、詐欺を見破るだけでなく、詐欺に遭った人を見抜いて、詐欺を防ぐ視点がとても大事になってきているように感じています。

そもそも”犯人だ”と見破るのは、プロである警察のなせる業であり、私たち素人にはなかなか難しいことです。私もそれなりに怪しい人の臭いをかぎ取ることができますが、それは若干の経験があってできることで、まったく経験のない人たちに、近くにいる人物が詐欺犯だと見抜くことはかなり難しいことと、いわざるをえないでしょう。

ですが、”詐欺を行おうとしている不審人物ではないか”と疑える方法はあります。

それは詐欺犯の言葉を受けている被害者の行動を見ることです。

先月中旬、ある男性がアパートの2階から、路上で紙袋を持つ高齢女性が、若い男性に携帯電話を渡すところを見かけました。不審に思い声をかけると、若い男は逃走します。男性は110番して、近くにいた別な男性が若い男を追いかけるという連携で、高齢女性は持っていた1200万円を詐欺犯に取られずに済みました。

紙袋持つ女性が路上で若い男に携帯渡す…目撃者が声かけると男逃走、詐欺被害防ぐ 2021/8/8(読売新聞)

声をかけた男性の勇気と、犯人を追いかけた男性のすばらしい連携で高齢者の詐欺被害を防ぎました。このように、だまされている人をいかに見抜けるかが、今後、被害を防ぐための大きなカギになると考えています。

今、コンビニや銀行という被害者が詐欺犯にお金を払うという最後の段階で、詐欺を防ぐ事例も出てきています。

すでに凍結されている銀行口座にお金を振り込もうとする50代女性に、銀行窓口の女性が返金の対応をします。女性は「だまされていない」と言いますが「急いで税金を振り込むように言われている」という慌てている姿から、窓口の女性は詐欺を疑い、上司とともに女性を説得します。話を聞けば、女性はSNSで出会った外国人医師から、国際ロマンス詐欺の手口で、お金を振り込むように言われていたことがわかりました。

ここでのポイントは「だまされていない」と言いながら「焦った様子」であることです。

これは、詐欺に遭っている人の特徴といえます。頭ではだまされていないと思っていても、心の動揺は自然に体の動きに表れてくるものです。特に恋愛感情を抱かされていると、詐欺に遭っているとは微塵も疑っていないため、いくら本人を説得しても納得してもらえないものですが、よくぞ我慢強く説得して詐欺に気づかせてくれたと思います。

苦情電話で詐欺の予兆を感じとる

続いては、コンビニでの被害防止の事例です。

店に「弁当が温まっていなかった」との苦情の電話がかかってきました。電話を受けた店員はピンときます。

“これからこの店に詐欺犯の言葉を受けた被害者がくるのではないか”と。

素晴らしい防犯の発想です。

以前から、詐欺犯らはスムーズに詐欺を行うために、コンビニに苦情の電話を入れて店員らの注意をそらしたところで、電子マネーを購入させるなどの犯行をすることがよくあるからです。

警戒していると、60代女性が電話をしながら、ATMを操作しているのを目にします。店員2人で女性を説得して、タッチパネルの操作をやめさせました。女性は偽の市役所職員から「お金を戻す」と言われてATMを操作しており、まさに還付金詐欺の被害に遭う寸前でした。

詐欺から助けないようクレーム? 屈さぬ店員、被害防ぐ 2021/6/21(朝日新聞)

詐欺グループはマニュアル通りに実行します。「犯行前には、詐欺犯は苦情を入れて、店員の目をそらすことがある」という手口を知っていればこそ、被害を防ぐことができた事例だといえます。

詐欺がやってくることへの想定がとても大事

最後に「自分は詐欺に遭わないから、大丈夫」と思わず、事前に詐欺へのシミュレーションをしておくことが、いかに大切かを教えてくれる事例です。

70代女性のもとに「誰かわかる?」との電話が入りました。そこで、女性は咄嗟に、今一緒にいる夫の名前を口にします。すると、男は「そうだよ」と答えます。

“振り込め詐欺”との確信を得た女性は、警察に連絡をします。

そして男が「小切手の入ったカバンをなくしたので、お金を用意できないか」と言ってきたので、女性は「200万円なら渡せる」と答え、“だまされたふり作戦”を行います。そして、お金を取りにきた受け子の男が警察により逮捕されました。

オレオレ詐欺を撃退 だまされたフリ作戦の合い言葉は『夫の名前』

2021/8/14 (FNNプライムオンライン)

なぜ、こうした機転の利いた対応ができたのかといえば、家には1週間前に不審な電話がかかってきており、家族間で話し合い、“夫の名前”を口にすることを決めていたと言います。

詐欺にだまされないためには、家族間で決めておく合言葉は重要な防止策になりますが、何より、女性が機転の利いた対応ができたのは、事前に詐欺電話がかかってきたことを考えての想定ができていたからでしょう。

多くの人は「自分は詐欺に騙されないから大丈夫」と考えて、いざ詐欺がやってきた時にどう行動すべきかを考えていないため、突然の出来事に慌てさせられてしまいます。その動揺を詐欺犯に瞬時に読み取られてしまい、巧みな言葉にだまされてしまいます。

この事例は「自分は大丈夫」と思わず、いざという時にどうすべきかを家族間でシミュレーションしておくことが、いかに大事かを教えてくれています。

警察は職質質問などで詐欺犯を見破って検挙する。見守る人たちは、手口を知って事前にどう行動すべきかの想定をして自分の身を守るとともに、通常ではない人の行動を見抜くことで、詐欺に遭っているのかもしれないと思い、声をかけてみる。

詐欺を見破る警察と、被害者を見抜く私たちの二重の目線を徹底することで、警察庁が発表した、昨年度の特殊詐欺の被害額285億2千万円、認知件数1万3550件をさらに減らせるはずだと考えています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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