溶けるグリーンランド 米国が関係を深める理由とは
米国は今月、グリーンランドに領事館を開設した。グリーンランドは世界で最も温暖化の影響を受けている場所のひとつで、資源開発を目論む各国の思惑が交錯する。5月の世界の平均気温は過去最高を記録し、雪解けが加速する。
米国がグリーンランドに急接近
米国は今月、デンマーク領グリーンランドの最大都市ヌーク(Nuuk)に領事館を開設しました。グリーンランドといえば、2019年8月にトランプ大統領が突如、グリーンランド買収を持ち出したことを思い出す方もいるでしょう。グリーンランドは世界最大の島で、日本の約6倍の広さがあります。そのほとんどが氷に覆われていて、地球に存在する真水の約7パーセントが蓄えられているそうです。
トランプ大統領のグリーンランド買収は棚上げとなりましたが、領事館を開設したことで、米国とグリーンランド政府の関係がさらに深まることでしょう。2009年には自治法が改正され、グリーンランド政府の政治的な権限がさらに強まりました。グリーンランドの住民が独立を望めば、デンマークと交渉できるようになったのです。
溶けるグリーンランド
5月の世界の平均気温は基準値を0.41度(速報値)上回り、統計が残る1891年以降で最も高くなりました。また、米国雪氷データセンター(NSIDC)によると、5月の北極域の海氷面積は記録が残る1979年以降で4番目に小さくなりました。グリーンランドでも夏を迎え、雪解けが進んでいます。グリーンランドは世界で最も温暖化の影響を受けている場所であり、さまざまな形で調査研究が行われています。
米国雪氷データセンターによると、2019年夏はヨーロッパから熱波が押し寄せ、グリーンランドの広範囲で大規模な氷の融解が起こりました。7月30日から8月3日までの5日間で、一日あたり120億トンから240億トンの氷が失われたとみられます。これは日本で一年間に使われる生活用水(約130億立方メートル、2015年)に匹敵する莫大な量です。
北極域に熱い視線
北極の環境は今、大きく変化しています。北極域の海氷域面積は1979年以降、減少の一途をたどっていて、人が活動できる期間も範囲も広がっています。
海氷が少なくなれば、新たな航路が開け、さらに北極域に眠っているといわれる豊かな天然資源の開発も容易になります。北極には南極のような平和利用を取り決めた条約はなく、各国の思惑がぶつかり合う場所にもなっています。
米国がグリーンランドに領事館を開設したことは北極域の開発競争に一石を投じ、今後、追随する国が出てくるでしょう。日本も気象や経済などの北極政策を進めていますが、各国と比べるとやや見劣りします。
【参考資料】
在デンマーク米国大使館(U.S. EMBASSY IN DENMARK):Statement by Ambassador Sands on the Opening of U.S. Consulate Nuuk、10 June, 2020
デンマーク王国大使館(東京)ホームページ
気象庁:世界の5月平均気温偏差の経年変化(1891〜2020年:速報値)
米海洋大気庁(NOAA):May 2020 tied for hottest on record for the globe、June 12, 2020
米国雪氷データセンター(NSIDC):Europe’s warm air spikes Greenland melting to record levels、August 6, 2019
内閣府ホームページ:北極政策