本物の温泉好きだけが知っている事実。「究極の温泉は足元から湧く」
「完全換水が年2回」「レジオネラ菌が基準値の3700倍」だった旅館のニュースが世間を賑わせている。不潔うんぬんの前に人の命にかかわることなので言語同断である。
残念なニュースではあるが、「本当にいい温泉とは何か?」を考える機会になっているのではないだろうか。
そこで、温泉ライターが考える「究極のいい温泉」をテーマに書いてみたい。
源泉の質を決める「鮮度」
温泉施設の良し悪しには、さまざまな基準がある。浴室の清潔感を重視する人もいれば、デザインや雰囲気を重視する人もいる。宿で提供されるサービスや設備、料理を重視する人もいる。
それらも大事な要素ではあるが、温泉好きとしては「源泉の質」をいちばんに重視したい。
では、源泉の質を決めるものは何か?
これにもさまざまな基準があるが、自分のなかでは明確だ。温泉の「鮮度」である。つまり、湯が新鮮で、その個性がいきいきと感じられるか。
生まれたての鮮度の高い湯は、入浴したときの居心地のよさが違う。やさしい泉質の湯は肌にすっとなじむ。成分の濃い湯は、肌を直接刺激し、個性を訴えかけてくる。
最高の温泉は「足元」から湧いている
「温泉の鮮度」という観点から最も理想的とされる形は、「足元湧出泉」である。
温泉は空気に触れることで酸化が進み、劣化していく。温泉情緒をかきたてる濁り湯も、もともとは透明の状態で湧出したものが、大気などと化学反応を起こして変色した結果である。つまり、ビールと同じように温泉も時間が経てば経つほど、鮮度は落ちていくのである。
足元湧出泉は、別名「足元ぷくぷく温泉」とも言われるが、その名の通り、湯船の底からぷくぷく湧き出す湯である。
たいていの温泉施設では、湧出した場所から湯船まで源泉を引いてくるのが通常であるが、なかには、源泉が湧き出す岩のすきまや川底の上に湯船を設えた温泉が存在する。湧きたての湯が酸素に触れることなく、直接湯船に注がれれば劣化することはない。
足元湧出泉は、一般的な源泉かけ流しの湯船と比べても別格の気持ちよさである。たえず湧き出るピュアな湯に全身が包まれると、思わず笑顔がこぼれてしまう。百聞は一〝浴〟に如かず。温泉旅の目的地として、足元湧出泉をぜひ候補に入れてほしい。
「足元湧出泉は全国に30カ所くらいしかない」という記述をよく見かけるが、私の知る限り100弱存在する。それでも日本には約2万2000の温泉施設があるとされるから、ほんのひと握りの貴重な湯船である。
全国の足元湧出泉
有名なところでは、以下の温泉が足元湧出泉に該当する。一部であるが、紹介したい。
丸駒温泉(北海道)
酸ヶ湯温泉(青森県)
蔦温泉(青森県)
鉛温泉・藤三旅館(岩手県)
乳頭温泉・鶴の湯(秋田県)
法師温泉(群馬県)
湯の峰温泉・つぼ湯(和歌山県)
湯原温泉・砂湯(岡山県)
岩井温泉・岩井屋(鳥取県)
壁湯温泉・福元屋(大分県)
湯川内温泉・かじか荘(鹿児島県)
尾之間温泉(鹿児島県)
ぜひ足元から湧く湯の気持ちよさを体験してみてほしい。