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森保ジャパンは硬直化したのか?久保に続いて堂安もケガで離脱、窮地を救う選手は?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

森保ジャパンは硬直化したのか?

 森保一監督が率いるサッカー日本代表は、カタールワールドカップ・アジア最終予選で10月、7日にサウジアラビア、12日にオーストラリアとの対戦が決まっている。

 森保ジャパンは、不穏な状況にあると言えるだろう。グループBで現在4位に低迷(2位までが出場、3位はプレーオフへ)。初戦でオマーンにホームで0-1と敗れる失態を犯し、続くアウエーの中国戦も不安定な戦いで0-1と辛勝。一気に森保監督への批判が沸騰した。

 そして先日、今回の代表メンバーを発表したが、これも否定的意見が多い。不振の戦いでも面子が変り映えしなかったことで、不安は増幅。苦境の中、人々が潜在的に救世主を求めているのもあるだろう。

 森保ジャパンはメンバーも戦い方も変わらず、”硬直化”してしまったのか――。

森保ジャパンの好発進と停滞

 2018年夏、ロシアワールドカップ後から采配を振るうことになった森保監督は当時、思い切ったメンバー変更を行った。ワールドカップメンバーから外れていた南野拓実、堂安律、中島翔哉、伊東純也、冨安健洋などを積極的に抜擢。それでコスタリカ、パナマ、ウルグアイとワールドカップ出場国を次々に倒し、一つの世代交代に成功した。

 2019年のアジアカップで準優勝に終わったが、コパ・アメリカで久保建英など東京五輪候補メンバー中心に戦い、選手層に厚みを加えている。鎌田大地、橋本拳人なども”補強”。悪くはないスタートだった。

 しかし就任2年目に入ると、停滞が始まる。チームの形ができあがり、メンバーも固定化されたが、一方で戦い方に変化が出なくなった。ワールドカップ2次予選でモンゴル、ミャンマーに大量得点で勝利したが、あまりにレベルが違い、参考にならない。むしろ試合感覚を鈍化させた感すらある。交代策やシステムなど、工夫が見られなくなった。

 そして最終予選のオマーン、中国戦では、攻守にテンポが出ていない。パスの流れを分断されると、ボールを後ろで回すだけ。前がかりになったところ、カウンターを浴び、万事休す。コンディションの差もあったが、オマーンには戦い方が完全に研究されていた。

 森保ジャパンは固定化しつつある。それは硬直化とも読み取れる。

 批判を受けるのは当然だが、代表マネジメントでありがちな傾向の一つでもあるのだ。

クレメンテ・スペイン代表とザックジャパン

 1990年代、ハビエル・クレメンテが率いたスペイン代表は、ワールドカップやEUROの予選では負け知らずで「無敵艦隊」と呼ばれていた。守備が堅牢で、ソリッドな戦いが特徴だった。必然的に、フィジカルやアグレッシブさが重視され、相応のメンバーが選ばれていた。

「チームは家族だ」

 クレメンテはそう公言し、戦い方を確立、強情なまでにメンバーを代えなくなった。

「結果が出ているチームは変えない」

 それも戦いの常道だ。

 ただ、本大会ではベスト8の壁を越えられなかった。チームにプラスアルファがなかったことで新たな躍動が生まれず、対策を施されていた。メンバー固定の弊害が出た。

 これは対岸の火事ではない。

 日本でも、かつてアルベルト・ザッケローニ監督が代表を率いていた時、同じ現象が起こっている。就任1年目でアルゼンチン、韓国に勝利し、翌年のアジアカップでも劇的な優勝を飾った。ザックジャパンは、そのメンバーをほとんど代えずに2,3年目を戦ったが、劣化は目に見えていた。

「自分たちらしいサッカー」

 主力選手は、まるでスタイルを作り上げたかのような話をするようになった。それは危険サインだったと言える。ブラジルワールドカップを次の年に控え、東アジアカップ後にはいくらかメンバーを入れ替え、大会直前にJリーグ得点王だった大久保嘉人をメンバーに入れたが、付け焼刃感があった。ワールドカップで惨憺たる結果だったのは、周知の通りだろう。

 森保ジャパンは、クレメンテ・スペインやザックジャパンの二の舞となるのか。

正念場の森保監督

 サウジ、オーストラリアとの連戦で、森保監督の真価は問われるだろう。

 予選突破に向けては、連勝で勝ち点6が望ましく、できれば1勝1分け、最低でも1勝1敗が要求される。2引き分け、1敗1分けだとかなり厳しい。連敗の場合、混乱は必至で、ワールドカップ出場に危険信号が灯り、解任の話も浮上するだろう。

 見どころは、森保監督が正念場で柔軟さを見せられるか。

 Jリーグで3度王者になった監督としての経験は飾りではない。大胆な采配を振るい、システムも含めて、相手だけでなく、メンバーの士気も計算に入れ、ベストの選択をできるか。試合の中で流れをつかむのは、選手の役割だが、それを促す用兵は必須だ。

 森保監督は目立った失策はないが、勝負がかかったところで結果が出ておらず、そのせいで不安が消えない。残念ながら東京五輪ではターンオーバーに改善の余地があったし、交代策も久保を下げた場面など、やや疑問を残した。メダルを取れなかったことは、失敗と言わざるを得ない。戦い方は至って論理的だし、失言もないが、頼りない印象になっている。

 乾坤一擲、勝負師の顔を見せられるか。代表監督は勝敗で語られる側面がある。

窮地を救う選手は南野、古橋

 久保はケガで招集外で、堂安もケガで離脱した。

 窮地を救う選手としては、やはり南野拓実に期待する。

 南野は、森保監督の旗揚げから主力としてプレーしている。森保ジャパンのトップスコアラーで、攻撃のエース。ペナルティエリア付近で決定的な仕事ができる選手で、とにかくシュートで足が振れ、ゴールの匂いを濃厚にさせる。

 懸念材料は、所属するリバプールでリーグ戦の出場がゼロという状況か。しかし出場機会を得たカップ戦では2得点。やはり、ゴールゲッターとしての資質に恵まれている。

 10月シリーズでは、南野のトップ、もしくはトップ下の起用が有力だろう。Jリーグに戻ってきた大迫勇也がそこまでコンディションが良いとは言えない。そこで南野をトップで起用し、鎌田大地と組ませ、攻撃にスピードとひらめきを与えるのはどうか。左サイドでも南野はゴールに向かってプレーし、十分に適応できるが、100%力を引き出すには、よりゴールに近いポジションだ。

 もう一人、古橋亨梧は切り札になるだろう。

 古橋の場合、サイドでもFWとしての怖さを見せられるし、交代で相手が足を使ったところで起用する選択肢もある。森保監督はスピードのあるFWをサイドで使うのを好むが、ゴールゲッターとしてゾーンに入った状況だけに、やはりトップで起用するのがベターだろう。

 古橋はセルティックで故障明けのアバディーン戦も、得点を記録したばかり。右からのクロスに呼吸を合わせ、敵DFの背後を取り、胸でボールを押し込んでいる。もともと裏を狙うスピードには定評があったが、その質が高くなっただけでなく、ゴールの嗅覚も研ぎ澄まされつつある。

 敵地でのサウジ戦は、古橋、南野をトップ、トップ下に配置し、右に三好康児、左に鎌田で、4人が円滑にポジションを動かすのがベストだろう。旬の選手、特性、コンビネーションを重視。ボランチには遠藤航、田中碧のコンビを推挙したいが…。

 ただ、石橋を叩いて渡る森保監督は、大迫、浅野拓磨、柴崎岳を起用する公算が高い。いずれにせよ、采配が注目。こうした苦難を一つひとつ乗り越えることで、代表監督として練達できるはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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