渡會将士 歓喜と熱狂のツアー初日「やっとライヴハウスに帰ってくることができた。みなさんお帰りなさい」
FoZZtoneのボーカリストとして2007年にデビューし(2015年活動休止)、その後ソロとして、そして現在はbrainchild’sのボーカリストとして活躍している渡會将士の全国ツアー『渡會将士 TOUR ”New School”』が、5月13日大阪・梅田Shangri-Laからスタートした。昨年11月24日に発売した約2年半ぶりの3rdアルバム『New School』からの楽曲を中心に、18曲を披露。久々に全国ツアーができる歓びを爆発させ、アルバムに込めた思いを届け、音楽を響かせることができる瞬間をファン、バンドと共にめい一杯楽しんだ。
開演前、ファンを出迎えるのはアルバム収録曲「Heat Rash」の歌詞にも出てくる「ネバーエンディング・ストーリー」(リマール)や、「パワー・オブ・ラブ」(ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース)などの、渡會自身がチョイスした誰もが一度は耳にしたことがある、80年代の名ポップスだ。brainchild’ sではロックを歌い、しかしポップスを愛し、美メロを作るソングライターでもあり、渡會将士というアーティストを構成する成分の一端をライヴ前に感じさせてくれた。SEからアルバムタイトル曲「New School」が流れていて、そのまま本編に突入。「Bonfire」では中村昌史(B)と若山雅弘(D)のリズム隊が作る太いビートに乗せ、文学的な歌詞と高低差の激しい音域の歌が、高揚感を作り出す。聴き手の心に希望の灯を灯してくれるような曲だ。
独特のビブラートが効いた、奥行きを感じさせてくれる声が渡會の最大の武器だ。その歌を聴いていると、どこかに旅をしているような感覚になる。「Bonfire」でもそうだったが、ミディアムテンポの「スロービート」ではそれをより感じさせてくれた。「Heat Rash」では客席が体を揺らして、歌を、音を心から楽しんでいるのが伝わってくる。「ライヴハウスに帰って来ることができました。みなさんお帰りなさい」と、渡會が破顔一笑の表情で語ると大きな拍手が沸き起こった。
『New School』というアルバムは、前作『ウォークアンドフーズ』から2年半ぶりのフルアルバムで、47都道府県ツアー、そしてコロナ禍を経て感じた感情や経験が、言葉と音ひとつひとつに映しだされている。そして素晴らしいバンドアンサンブルによって、楽曲が完成した時の温度をそのまま、より生々しく伝えている。ライヴではそれがよりリアルな音像になって伝わってくる。渡會も「ベストメンバーが揃った。初日なのに熟練度が高い」と語っていたように、先述したリズム隊、そして砂塚恵(key)、曽根巧(G)というバンドが放つ音の存在が大きい。歌を立てつつ、強固かつしなやかなバンドアンサンブルで、音もしっかり主張し客席の心と体に届けていた。
「Dramatic Irony」、アルバムのポイントになっている「ブラウンシュガー」は、親近感があるメロディなのに、どこかシリアスさも感じさせてくれるポップスで、渡會の声がひと際ドラマティックに伝わってくる。「Coffee 2 to Go」は一転美しいアコギの音色と優しい歌が、穏やかでハッピーな空気を連れてくる。「FOOL」も人懐っこいメロディの中に、「Lovin‘ You」のフレーズを自然に溶け込ませて、より印象的に届けていた。渡會はSNS上で歌詞解説動画を配信し、その独特の歌詞の世界観をファンに説明、丁寧に伝えている。独特の言葉のチョイスが、独特のリズムと空気を生み出す歌詞。「Yes it is」はまさにそれだ。渡會の歌声と相まって大きな感動が生まれていた。
疾走感を感じさせてくれる最新配信シングル「Blue Lion」(テレビ埼玉/"LIONS CHANNEL"、"ライオンズアワー プロ野球中継"EDテーマ)でクライマックスへ向かい、ラストは<また会いましょ この街で マジで>という歌詞が印象的な「Thank you」だ。“次”を約束してくれる、温かく包み込んでくれるようなナンバーだ。アルバムにはbrainchild’sが参加しアルバムVer.として収録されている。最後に渡會は「人に観てもらえるの最高。すごく楽しかった」と、久々のツアーの感想を客席に伝えた。
アンコールで登場した際も「ライヴっていい」と興奮気味で、バンドと共に手応えを感じた初日だったようだ。ラストはユニークなワードを詰め込み、日常を描いた「モーニン」で、跳ねて終了。ボーカリスト渡會将士が歌えることの歓びを、ファンに素直に伝えるツアーだ。歌から伝わってくるその思いからは、ひたすら熱く、感動的だ。ツアーはこの後、宮城、東京、福岡、広島公演が控えている。