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井上尚弥との統一戦はなぜ流れた? WBO王者カシメロ陣営のプロモーターが舞台裏語る

杉浦大介スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

 8月15日、米プレミアケーブル局のショータイムは、9月26日に予定するプレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)のPPV興行にWBO世界バンタム級王者ジョンリエル・カシメロ(フィリピン)が出場すると発表した。

 これにより、WBA、IBF王者・井上尚弥(大橋)との3団体統一戦の早期実現はなくなることが確定。今年4月25日にラスベガス開催で一時は決定し、新型コロナウイルスの影響で延期された後も挙行が検討されてきた軽量級ビッグファイトは先送りされることになった。

 井上との対戦にこだわりを示してきたWBO王者側が、ここで方向転換した理由は何だったのか。16日、カシメロが所属するMPプロモーションズのショーン・ギボンズに急遽、電話インタビューを行った。

コロナに翻弄された3団体統一戦

――しばらく熱望していた井上選手との対戦ではなく、井上が所属するトップランクのライバル会社でもあるPBCの興行に出場を決めた理由は?

SG : 井上戦の実現に向けて全力を挙げてきましたが、先に進むべきときが来たということです。あらゆる手を尽くして来ましたし、金銭面に関しても譲歩する意思はありました。ただ、とりあえず今は別の方向に進むと決めたということ。交渉がまとまらなかったのは、ボブ・アラムの責任でも、井上側の責任でもありません。新型コロナウイルスによって様々なことが変わったのです。カシメロも王者なのだから、他にも魅力的なオプションはあります。9月26日の防衛戦に勝てば、その先にはさらに多くの選択肢が見えてくるはずです。  

――具体的には誰が今後のターゲットとなるのでしょう?

SG : ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)、ノルディーヌ・ウバーリ(フランス)に勝った場合のノニト・ドネア(フィリピン)。スーパーバンタム級に目を向ければ、日本の“国民的な敵”であるルイス・ネリ(メキシコ)だっています。そして、もちろん井上も依然として私たちの視界に入っています。

――リゴンドー、ドネア、ネリはPBC傘下ですが、カシメロもPBCと契約を結ぶのですか?

SG : いえ、あくまで9月26日の興行に出る契約です。PBCのアル・ヘイモンはマニー・パッキャオ(フィリピン)と良好な関係を保っていることが今回の結びつきに繋がり、私たちはPBC興行への出場機会を探ったのです。今度の試合後、他のPBCファイターとの対戦の可能性にも目を向けることになるでしょう。

――井上戦の話に戻ると、トップランクとESPNはカシメロが割安のファイトマネーを飲むことを望んだという報道が出ました。その件について言えることは?

SG : 実際には私たちは正式な減額オファーは受け取っていません。報酬が具体的に幾らになるといった話はなかったのです。そうやって話が滞り、詳細が届かなくなったことも、私たちが別の路線を考えた一因になりました。おかげでカシメロは精神的に安定した状態でトレーニングするのが難しくなり、私も早期に別の試合を組む必要性を感じたというわけです。

未来のオプションは確実に増える

――井上対カシメロはアメリカのボクシングファンからも期待の大きい一戦だったので、やはり残念ですね。

SG : その通りですが、ただ、現実的に、アメリカでは会場にファンを動員する準備が整っていないのが実情です。井上対カシメロ戦は、ラスベガスの“バブル”でやるのに相応しいファイトではないと私も考えるようになりました。日本、アメリカ、そしてフィリピンのファンの前でやるべき試合なのだから、4、5ヶ月先にまた開催を検討しても良い。井上、カシメロがそれぞれ防衛戦をこなし、来年早々にでも再び対戦を話し合えたら良いですね。

――PBCで試合をすることによってオプションが増え、同時にまだ井上選手との対戦も視界にあるということですね。

SG : その通りです。9月の興行にはネリも出場しますし、カシメロはここで名を挙げて、ネリを相手に4階級目のタイトルを狙っても良い。井上、ネリ、リゴンドー、ドネアのうちの誰と戦ってもビッグファイトになるはずです。

――そのためにも、来月の試合でカシメロは好内容で勝たなければいけません。対戦相手はニューヨークに拠点を置くデューク・マイカー(ガーナ)になると聞きましたが、正しいですか?

3月7日、バークレイズセンターでのPBC興行を観戦に来ていたマイカー。24戦全勝(19KO)の28歳だ。 (杉浦大介)
3月7日、バークレイズセンターでのPBC興行を観戦に来ていたマイカー。24戦全勝(19KO)の28歳だ。 (杉浦大介)

SG : それについてはまだ言えません。契約が完全に終わるまで待って下さい。明朝までにははっきりするので(笑)

 注)このインタビュー後、マイカーが相手になると一部の米メディアが報道した

――井上選手についてですが、対戦相手候補としてジェイソン・マロニー(オーストラリア)の名も出ています。ただ、井上選手は統一戦を行わないのであれば、あなたの契約選手であるマイケル・ダスマリナス(フィリピン)とのIBF指名戦の義務があるはずです。ダスマリナスの方に話は来ているんでしょうか?

SG : 話を聞く準備はもちろんありますが、その試合のオファーは受け取っていません。IBFの判断を仰ぐことになるのでしょう。いずれにしても、アメリカ国内では依然としてFA(フリーエージェント)のカシメロと比べ、トップランクと契約を結ぶ井上のバンタム級での選択肢は限られています。有力選手の多くがPBCと契約していますからね。頭に浮かぶのはMTKグローバル傘下のウバーリくらいですが、弟を下した因縁があるとはいえ、井上対ウバーリがビッグファイトになるかどうか。そんな状況ですから、互いに勝ち続ければ井上対カシメロが再燃する可能性は十分あると思っています。 

――最後にカシメロの今後を聞きたいのですが、9月中旬までラスベガスでトレーニングを続けることになるのでしょうか? 

SG : 元WBA世界スーパーバンタム級王者のトレーナー、クラレンス・ボーンズ・アダムスと一緒にラスベガスで練習を継続します。ただ、今では以前とは違う家に滞在しています。井上戦用の家ではなく、別の家を用意し、フレッシュな気持ちで再スタートを切ったというわけです(笑)

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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