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阿部勇樹に続く“守備のユーティリティー” 遠藤航の未来

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
東アジア杯・北朝鮮戦の前半3分、武藤雄樹の先制点をアシストした遠藤航(写真:アフロスポーツ)
ランニング中、笑みを浮かべる遠藤航(撮影:矢内由美子)
ランニング中、笑みを浮かべる遠藤航(撮影:矢内由美子)

中国・武漢で開催されている東アジア杯の北朝鮮戦(●1-2)で日本代表デビューを果たした遠藤航(湘南ベルマーレ)が、2戦目の韓国戦(△1-1)でも右サイドバックとしてフル出場した。

先発11人中5人が第1戦と入れ替わった韓国戦での先発起用は、ハリルホジッチ監督に北朝鮮戦のプレーを評価されたからこそ。2試合の結果は1分け1敗でまだ勝利はないが、未経験のポジションで見せたポテンシャルは確かなものだった。

残るのはホスト国・中国との最終戦。東アジア杯は日本サッカー界にとって、「阿部勇樹以来となる国際レベルの守備のユーティリティープレイヤーが誕生した大会」となるだろうか。

■開始3分のクロスでアシスト

先発デビューとなった北朝鮮戦では、試合開始3分にファーストクロスから武藤雄樹(浦和)の先制点をアシストした。

「立ち上がりはどんどん前に行こうと思っていた」というプラン通り、前線にボールが運ばれると積極的に敵陣へと侵入。セカンドボールを拾った谷口彰悟(川崎F)のパスを受け、DFとGKの間に絶妙なアーリークロスを送った。

「ボールを持って顔を上げたら武藤くんが走り込んでいたので、(DFとGKの)間に蹴ればチャンスになるかなと思った。イメージ通りだった」

アーリークロスに関しては、3バックの右ストッパーを務めている湘南でもしばしば見せているプレーであり、遠藤の持つ能力の想定内の技術ではある。

そんな中で素晴らしかったのは、代表のデビュー戦、しかもほとんど未経験というサイドバックでありながらも落ち着いて試合に入り、なおかつ持っている技術を臆することなく出したことだ。

そして、自分の良さを額面通りに出したという観点で見れば、1対1の守備では持ち味を100%発揮した。身体が屈強な北朝鮮選手に対して当たり負けることなく、特にボールホルダーに対しては粘り強い対応を見せた。「1対1で負けないところやクロスを上げさせないところはできたかなと思う」と、遠藤自身も手応えを口にしている。

■クロス以上の好感度…軽さのない守備

遠藤が好感度を上げた大きな要素であるのが、いわゆる“軽いプレー”が一度もなかったことだ。日本代表が4バックを基本とするようになったジーコ監督以降の右サイドバックと言えば、加地亮、駒野友一、内田篤人、酒井宏樹、酒井高徳と、90分間を通じた豊富なアップダウンや、オーバーラップからのクロスなど攻撃を得意とするタイプが主流だった。

内田の場合は南アフリカW杯後にドイツに渡り、自らの努力で守備力を著しく向上させ、世界トップにも対応できる能力をつけたが、遠藤の守備意識の高さから来る安心感は現時点でも右サイドバック候補の中ではかなり高い方だろう。

とはいえ、東アジア勢との試合だけで評価するのは早計に過ぎる。遠藤自身、「サイドバックに面白さはある。1対1で負けなければ守備の主導権は握れると思った」と、このポジション特有の駆け引きの部分で、守備時のコツをつかんだことを明かしているが、「これがもし欧州など強豪が相手だったらどうかなというのがある。自分の中ではまだ自信というのは持てない」と慎重な言葉も口にしている。

むしろここで着目したいのは、22歳の伸び盛りの選手が、守備のユーティリティープレイヤーとして未来の自身の姿をしっかりと描き、その道を順調に歩んでいることだ。

■目標とする選手として「阿部勇樹」を挙げていた

プロデビューを果たしたのはまだ17歳だった2010年6月6日、ナビスコ杯モンテディオ山形戦。そして3カ月後の10年9月18日、川崎フロンターレ戦でJリーグを飾った。いずれも敗戦だったが、17歳のガッツあふれるプレーは評判を呼んだ。

Jデビューの際、遠藤が目標の選手として挙げていたのが阿部勇樹(浦和)だ。当時の阿部は、南アフリカW杯で岡田武史監督に4-1-4-1のアンカーを任され、どん底の状態だった日本を奇跡のV字回復へと導き、ベスト16という好成績を残す原動力となっていた。

阿部と言えば、ジェフ千葉時代の03年にイビチャ・オシム監督に21歳でキャプテンに抜擢され、同氏が日本代表監督になってからは「ポリバレント(化学用語で多価を意味する言葉)」という新たな価値概念の象徴的な存在として名を馳せるようになった選手だ。

基本的にはボランチであるが、ボランチやアンカーはもちろんのこと、最終ラインもこなすという、文字通りの守備のユーティリティープレイヤーだ。しかも若い頃からその能力を有していた。

遠藤も負けてはいない。現在も湘南ではセンターバック、U-22日本代表ではボランチやアンカー、そしてハリルジャパンでは右サイドバックとしてデビューを果たした。

この2人には共通項が多い。ピッチ内で90分間、運動量豊富に動き回ることだけではなく、攻守両方のボックス内で強さを発揮する勝負強さ、そして、連戦で使い減りしないタフネスぶりだ。浦和がアジア王者になった07年に阿部が見せた脅威のフル稼働は語り草であるし、遠藤も、今年3月にあったリオ五輪アジア1次予選を兼ねる「AFC U-23選手権予選」で、中1日での3連戦すべてに、ただ1人先発出場し、チームを勝利に導いている。

加えて言うなら、チームでPKキッカーを任されているという共通点もある。また、遠藤は19歳のときから湘南でキャプテンマークを巻いており、阿部も若かりし頃からキャプテンマークを巻いていた。

中国戦に向けて遠藤は、「足りないのは攻撃参加の部分。そこでの運動量をもっと上げていきたい」と抱負を語っている。その先に描くのは、自身の成長だ。

「自分たちリオ五輪世代がA代表に入ることで層を厚くしていきたいし、そういう意識でやらないといけないと思う。今回、サイドバックをやっていることは間違いなく良い経験。もっと点に絡むプレーをすることや、試合に出続けて活躍することが成長につながると思う」

阿部に続く“国際レベルの守備のユーティリティー”。東アジア杯がその足掛かりとなっていく。

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武漢では炎天下のトレーニングが続いた(撮影:矢内由美子)
武漢では炎天下のトレーニングが続いた(撮影:矢内由美子)
サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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