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もし日本が出場していたら最下位確実!? ユーロ決勝Tは消耗戦に

杉山茂樹スポーツライター

北アイルランド、アイルランド、ウェールズ――。イングランドはともかく、その他の英国系のチームが揃って16強入りすることを予想した人はどれほどいただろうか。さらにその北に位置する(英国+デンマーク)÷2的なイメージの小国アイスランドまでカウントすれば16チーム中5チームだ。

ユーロ2016の大きな特徴と言える。イングランドを除く他の4チームが、本大会出場枠が16から8チーム増の24に増えた恩恵に預かったことは間違いない。従来の大会規定なら予選突破できていない可能性が高い国。にもかかわらず、本大会では16強入りを果たし、存在を猛烈にアピールした。

どの国も、クロスボール中心の出たとこ勝負型。運を最大の拠り所にするサッカーだ。技術的なレベルは決して高くない。だが、強国に対していい勝負をする。大敗しそうもないことは、キックオフ直後から予想できる。

モチベーションの高さがまずひとつ。ガレス・ベイルなどごくわずかな者を除けば、普段のクラブの戦いでは、欧州最高峰の舞台(チャンピオンズリーグ)に立つことができない選手たちばかりだ。大舞台でプレーする喜びが、彼らの姿には滲み出ている。

そして真面目。具体的にはボールに対する反応がシャープだ。手も抜かない。最後まで全力を尽くす。球際の強さにそれは表れる。リードされても落胆しない粘り強さもある。強者ではなく弱者だと、自らをチャレンジャーとして認識している点にも好感を抱かせる。だから大崩れしない。なにより、強国にいくら攻められても、簡単にゴールを許さない忠実な守備力がある。

日本のサッカーに不足している点だ。思い出すのは1対4で敗れた2014年ブラジルW杯コロンビア戦。あと5分あったらもう2点ぐらいブチ込まれていそうな、まさに大敗劇。「確かに点は取られたが、攻撃的サッカーは貫けた」とは、試合後の日本代表主将の言葉だが、ユーロの舞台でその的はずれな言葉を想起すると、仮に日本がこの大会に出場すれば、24チーム中最下位は確実のように思える。

崩れてしまったチームを立て直せずに、ずるずる差を広げられるケースは、今大会では、スペインに0−3で敗れたトルコに若干見られた程度だ。

1番から24番までが、狭い幅の中に収まっているところにユーロ2016の魅力がある。絶対的な強者も弱者も鮮明にならない。16から24に増えても間延びした印象がないところに、欧州の底力を見る気がする。W杯の欧州枠(次回は13+開催国ロシア)がいかに狭き門か、あらためて思い知らされる。

何より消化試合が少ない。各組の3位チームの中で成績のよい4チームが16強に入れるので、最終戦を前に絶望的なチームはごく僅か。最終戦にひとつ勝ち、得失点差でヘコまなければ、ベスト16への道は開ける。32から16に絞るW杯本大会より、最後まで白熱する仕組みだ。

各組3位チームの中で、最も悪い成績(全体の16番目)で抜けたのは北アイルランドだが、大会前、ブックメーカーの予想で、優勝候補の6番手に挙げられていたポルトガルが、そのひとつ前(全体の15番目)だったのは意外だった。最終ラインが深すぎる弊害について何度か述べたが、それに付け加えるべきはクリスティアーノ・ロナウドの存在だ。

「アンチ」の象徴として、これほど分かりやすい選手はいない。ポルトガルは敵を多く抱えることになってしまった。対戦チームは、親の怨みを晴らさんばかりの勢いでポルトガルに向かってきた。それを何とかしのいで15番目で通過。決勝トーナメント1回戦では、スペインを倒しグループリーグ首位通過を果たしたクロアチアと対戦する。

フランス、ドイツ、スペイン、ベルギー、イングランド、ポルトガル、イタリア、クロアチア。大会前、ブックメーカー各社は概ね、ベスト8を次のような並びで予想した。クロアチアは8番目だったが、現在の扱いはイングランド、ポルトガル、イタリアを抜き5番手だ。

決勝トーナメント1回戦におけるポルトガルとの一戦は、つまり5番手対7番手の対戦であり、8強同士の直接対決だ。スペイン対イタリア(3位対8位)同様、早すぎる対決と言えるが、屈指の好カードであることは間違いない。

16チームで本大会を争った前回までは、決勝進出チームは決勝に至るまで計6試合を戦った。それが今回は1つ増えて7試合に。W杯と同数だ。フィールドプレーヤー20人ほぼ全員が戦力にならないと、やりくりは苦しくなる。

だが、グループリーグで選手を上手に使い回したチーム(監督)は少ない。先行きが心配になる起用法が目に付いた。そうなった理由は分かりやすい。接戦続き。W杯よりレベルが高いからだ。テストをしながら結果を求めにくい状況にある。準決勝、決勝が消耗戦になる可能性は高いと見る。

布陣の話をすれば、4−3−3が目に付く。4−2−3−1を採用するチームより増えている。ちなみに守備的な3バックはイタリアとウェールズになるが、サッカーはより攻撃的な方向に進んでいる。

例えば18年前、ここフランスで行なわれた98年W杯において4−3−3を採用したチームはいくつあったか。記憶によればゼロだ。4−2−3−1を敷くヒディンク率いるオランダが話題を集めていた。いま4−3−3はその4−2−3−1を上回った状態にある。守備的な3バックを採用する浦和の監督が、自らのサッカーを攻撃的だと言えば、疑うことなくそのまま伝えてしまう日本とは、真反対な方向を示している。

もう一つ触れたくなるのは、レナト・サンチェス(ポルトガル)と、エムレ・モール(トルコ)だ。ともに18歳。

後者はグループリーグで敗退。そのウイングプレーを拝むことはもうできないが、前者のプレーはまだ見られそうだ。中盤でボールを運ぶ能力はピカイチ。ポルトガルの浮沈のカギを握るのは、C・ロナウドというより、来季バイエルン入りが確実視される18歳、レナト・サンチェスだと言いたくなる。

いずれにせよ大会はまだ16強が決まっただけ。本番はこれからだ。

(初出 集英社 Web Sportiva 6月24日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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