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欧米で拡大 サル痘のアウトブレイクについて現時点で分かっていること

忽那賢志感染症専門医
サル痘ウイルス(CDC. PHILより)

欧米を中心にサル痘の患者が増加しています。

サル痘は天然痘に似た特徴を持つウイルス感染症です。

これまでに分かっている流行状況と、サル痘に関する基本的な情報についてまとめました。

 

これまでの発生状況は?

2022年5月22日現在、世界で97例のサル痘患者が報告されています。

内訳は、イギリス20例、スペイン40例、ポルトガル14例の3ヶ国が症例の大半を占めており、それ以外には、オーストラリア2例、ベルギー3例、カナダ5例、フランス1例、ドイツ3例、イタリア3例、スウェーデン1例、アメリカ2例となっています。

これまでに分かっている確定例はすべて男性患者であり、20代から40代の比較的若い世代に多いことも特徴です。

また、今回の感染者のうち、ゲイやバイセクシュアルなど男性とセックスをする男性(MSM)の間で発生したケースが多いことが指摘されています。

このアウトブレイクの発端は、2022年5月7日に英国健康安全局(UKHSA)からイギリス国内でのサル痘患者が報告されたことでした。

この最初の患者はサル痘の流行地域であるナイジェリアに最近の渡航歴があったことから、ナイジェリアで感染したと考えられる事例でした。

しかし、その後イギリス国内でもこの発端事例と関連のないサル痘患者が報告され、またイギリス以外のヨーロッパ、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど世界中で感染者が報告される事態となっています。

サル痘とは?

サル痘患者でみられた水疱(CDC PHILより)
サル痘患者でみられた水疱(CDC PHILより)

サル痘は、1970年にコンゴ民主共和国で初めてヒトでの感染例が報告された動物由来感染症です。

ヒトが感染すると発熱や発疹などの症状がみられます。

1980年に世界から根絶された「天然痘」に病態がとても良く似ており、症状だけでこれら2つの疾患を鑑別することは困難と言われています。

しかし、サル痘では人から人へ感染する頻度は天然痘よりも低く、また重症度も天然痘よりもかなり低いことが知られています。

サル痘はアフリカの異なる地域にそれぞれ別の系統が分布しています。

コンゴ民主共和国などの中央アフリカのサル痘ウイルスよりも、ナイジェリアなどの西アフリカのサル痘ウイルスの方が病原性が低いことが分かっています。

これまでに報告されているサル痘患者の大半はアフリカからのものですが、近年はアフリカでのサル痘患者が増えているとナイジェリアコンゴ民主共和国などから報告されていました。

種痘(天然痘ワクチン)はサル痘にも有効ですが、天然痘の根絶後、種痘の接種歴のある人が減っていることでサル痘患者が増加するのではないかということは以前から懸念されていました。

サル痘という名前ですが、サルもたまたま感染することがあるというだけで、もともとの宿主はネズミの仲間のげっ歯類ではないかと考えられています。

2003年にアメリカでサル痘のアウトブレイクが起こった際には、ガーナから輸入されたげっ歯類が発端になったのではないかと考えられています。

このアメリカの事例以外にも、稀に旅行に関連したサル痘患者が海外でも散発的に報告されていました。

サル痘の症状は?

サル痘患者でみられる様々な水疱(UK Health Security Agencyより)
サル痘患者でみられる様々な水疱(UK Health Security Agencyより)

サル痘の潜伏期は約12日です。

アメリカにおける2003年のアウトブレイクの際にサル痘と診断された34人の患者では、以下の症状がみられました。

発疹(97%)

発熱(85%)

寒気(71%)

リンパ節の腫れ(71%)

頭痛(65%)

筋肉痛(56%)

この報告では発疹が出るよりも約2日先に発熱がみられ、発熱は8日、発疹は12日続いたとのことです。

通常、全身に発疹がみられますが、今回のアウトブレイクでは性器や肛門周辺にのみ発疹がみられた事例も報告されているようです。

アフリカにおけるサル痘患者の致死率は約1〜10%とされていますが、先進国ではこれまでに死亡者は確認されていません。

サル痘の感染経路は?

サル痘は、

・サル痘ウイルスを持つ動物に噛まれる、引っかかれる、血液・体液・皮膚病変に接触する

・サル痘に感染した人の飛沫を浴びる(飛沫感染)

・サル痘に感染した人の体液・皮膚病変(発疹部位)に触れる(接触感染)

によって感染することが分かっています。

今回のアウトブレイクでは、ゲイやバイセクシュアルなど男性とセックスをする男性(MSM)の間で発生したケースが多いことから、性交渉の際の接触が感染の原因になっているのではないかと疑われています。

日本国内ではまだサル痘患者は報告されていません。

また、サル痘の症状は日本でもよくみられる水痘(水ぼうそう)や単純ヘルペスといった感染症の症状と非常によく似ており、見た目では必ずしも区別できないことがあります。

ご心配な場合は、かかりつけ医など医療機関や保健所に相談しましょう。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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