週刊誌「水曜午後4時の闘い」と「週刊現代」終活キャンペーンの背景
週刊誌界の水曜午後4時をめぐる闘いをご存知だろうか。木曜発売の『週刊文春』『週刊新潮』『女性セブン』が、その時間に一斉に速報を流すのだ。
いま週刊誌は、週の前半発売の『週刊ポスト』『週刊現代』『週刊朝日』が、健康や年金などの高齢者向け実用情報に誌面をシフトさせ、木曜発売の前出三誌が従来のニュース中心と、大きく二分されている。特に『週刊文春』は「文春砲」と言われるスクープを売り物にしており、水曜の速報を新聞・テレビも気にかけている。
ちなみに文藝春秋のウェブサイトは、「文春オンライン」と「週刊文春デジタル」とがあり、速報の形で記事のダイジェストを流すのは「文春オンライン」だ。動画を公開したりと課金モデルに取り組んでいるのが「週刊文春デジタル」だが、コンテンツが互いに一部重なりあうため、わかりにくいという指摘もある。
1月7日発売の月刊『創』(つくる)2月号の特集は「出版社の徹底研究」で、出版各社のデジタルへの取り組みについても詳しくレポートしているが、その中で『週刊文春』発行人の新谷学・週刊文春編集局長がこう語っている。
「『週刊文春』発売前日の水曜夕方4時に速報を流すのは『文春オンライン』です。スクープ記事を紹介し、ダイジェストで中身もある程度わかるようにしています。そして全文を読みたいのであれば『週刊文春デジタル』という課金サイトに行っていただくという流れです。
文春オンラインは無料ですから、PVを稼いで広告収入につなげるという広告ビジネスモデルですが、『週刊文春デジタル』は有料の課金サイトです。そこでは直撃取材した際の動画なども公開しています。なかには動画は公開したが、紙の週刊誌にはそれを掲載しないケースもあります。しかも少しずつ増えており、『週刊文春デジタル』の独立性を高めようとしています。紙の雑誌の読者とウェブの読者は必ずしもイコールではないからです」
女性週刊誌とネットとの親和性
速報は基本的には雑誌の発売前日だが、それに捉われない動きをすることもある。例えば2018年12月5日(水)の女優・松岡茉優の交際を報じた『女性セブン』の速報を流した「NEWSポストセブン」の配信は朝の5時だった。その朝のスポーツ紙が報じていることを知って、その前に速報をと考えたからだ。ネット上のニュースは先に報じたものがヤフーニュースのトピックスで扱われるなどするため、タイミングが重要だ。
ネットでアクセスの多いのは芸能ニュースで、その点、女性週刊誌は親和性が高い。例えば光文社の雑誌では、以前は女性月刊誌の売り上げが大きかったが、この1年、『女性自身』がネット広告や配信料を大きく伸ばし、紙とデジタルの連動の成功モデルと社内でも評価されている。
創刊60周年を迎えた『女性自身』を統括する光文社の大給近憲取締役が『創』の特集でこう語っている。
「『女性自身』はウェブ広告やネット配信料などの事業収入が増えており、紙とデジタルが車の両輪としてうまくいっています。弊社の女性月刊誌は、ウェブはこれからというものが多いのですが、その点、『女性自身』はロールモデルになる雑誌だと思います。
大きな要因はウェブにあげたコンテンツがたくさんのPVを稼いでいることですが、これはニュースを扱っている強みでしょうね。ウェブでは何といっても芸能ニュースの反響が大きいのですが、その点、『女性自身』はウェブ展開しやすいんです」
紙の誌面は健康雑誌のようになっている『週刊朝日』でも、従来からの事件取材は継続しており、それを「アエラ・ドット」というウェブサイトで配信している。ウェブサイトの広告などの収益がかなり伸びて紙の雑誌の落ち込みをある程度カバーしつつあるというのは、他の週刊誌でも言われることだ。
出版社系のニュースサイトで一番PVを稼いでいると言われるのは「東洋経済オンライン」で、第2グループが「NEWSポストセブン」「アエラ・ドット」、第3グループが「文春オンライン」「現代ビジネス」「ダイヤモンドオンライン」などとされている。
このうち先駆者と言えば早くから取り組んだ「NEWSポストセブン」だが、収益を上げるために様々な施策を行っている。小学館ポスト・セブン局の鈴木崇司チーフプロデューサーがこう語る。
「『NEWSポストセブン』は、PVを稼いで、そこに掲載されるネット広告で収入を得るというビジネスモデルですが、この2年余りで桁違いに収益を上げるようになりました。例えばネット広告でも競争入札する仕組みを取り入れたり、またどの位置にどんなふうに広告を入れるかをデジタル事業局で検討していったのです。今は週刊誌の紙の広告収益の落ち込みをほぼ補えるまでにいたっています」
紙の雑誌が売れなくなっているというのは出版界全体の深刻な問題だが、一方でネットとの連動で活路を開くという動きがこの1~2年、大きく広がった。『フライデー』や『フラッシュ』などの写真週刊誌は、タレントのグラビア写真を二次利用して写真集を発売しているが、電子版の売行きが伸びている。画面の拡大などができるためだという。紙の写真集は印刷費がかかるため、デジタルだけの写真集も増えつつあるらしい。
暮れに『週刊現代』が放った終活キャンペーン
ただ、一方で紙の雑誌の落ち込みも深刻だ。「文春砲」で一時部数を伸ばした『週刊文春』でさえ、2018年上半期は前期比で3万部近い落ち込みだ。各誌が部数を落とす中で唯一、約1万部前期比で伸びたのが『週刊新潮』だが、これは6月頃にキャンペーンを張った「食べてはいけない国産食品」シリーズが好調だったためだ。逆にその反動で下半期はかなり厳しい数字になっているという。
『週刊現代』は上半期に前期比で約4万部も部数を落とし、『週刊ポスト』に抜かれてしまった。その対策として何をしたかといえば、誌面をさらに高齢者向けにシフトさせることだった。つまり「守り」に徹して中心読者である高齢者をしっかりと確保しようという方針だ。
総合週刊誌はいずれも読者が高齢化しており、それが部数減の一因にもなっているのだが、それに対して若い読者を新たに獲得するという攻めの余裕はなく、むしろ誌面をさらに高齢者向けにしているのが実情だ。
その方針は短期的には功を奏しているようで、『週刊現代』は秋以降、実売率が少しずつ回復しているという。そして、さらにダメ押しとして同誌が放ったのが、12月15日号から始まった「あなたの人生『最後の総力戦』」というキャンペーンだ。
いわゆる「終活」の話である。「究極の高齢者向け特集」と言えるだろう。
「ご存じですか?あなたが死んだら、手続きはこんなに大変です」「生きているうちに、やれることは自分でやっておく」などという中見出しが躍る。突然亡くなると銀行口座が凍結されてしまうとか、ペットの引き取り先を確保しておかないと殺処分されかねないとか、具体的な話が書かれている。
翌週からは「大反響」と表紙に謳い、第2弾、第3弾を掲載。1月5・12日号は「完全保存版 死ぬ前と死んだあと」と表紙に掲げた大特集だ。
でも部数減に悩む総合週刊誌が、誌面をどんどん高齢者向けにシフトさせていくというこの流れは、ますます部数先細りに自らを追い込んでいるわけで、決して明るい話ではない。それでもそうすることで部数が短期的には安定するようで、『週刊現代』だけでなく『週刊ポスト』もそうだし、『週刊朝日』もこの1~2年、ほとんど健康雑誌と言ってよいような変わりようだ。
一方で前述したネットとの連動にも各誌積極的に取り組んでいる。確かにその取り組みによる収益増は、予想を超えるケースもあるようで、その動きがこれからますます加速していくのは間違いないだろう。
いずれにせよ約10年で市場が半減しているという雑誌界の現状は極めて深刻だ。週刊誌は大手出版社の経営の屋台骨であるだけに、何とかして活路を見出そうという試みは必死に行われそうだ。
紙の雑誌が比較的好調だった光文社やマガジンハウスは、デジタルへの取り組みがやや遅れたと言われるが、この1年、両社とも社をあげてデジタル化へ大きく舵を切っている。
メディア界を襲っている構造的変化によって最も土台を揺さぶられたのは出版界だ。2019年、出版界はどんなふうに変貌していくのだろうか。
『創』2月号出版特集の詳しい内容は下記HPをご覧いただきたい。