唐揚げ市場が1000億円超えの急拡大 専門店とスーパー、強味と弱味は?
から揚げの市場がこのところ活況となっている。2019年、853億円から2020年には1053億円となっている。(富士経済)
コロナによって、加速度的に売り上げが上がっているのだ。昨年、2020年の1年で唐揚げがメニューの7割を占める専門店は、前年比より約182億円売り上げ増加している。
コロナ禍で外食が大ダメージを受けているのは承知の通り。次なる活路を求めてテイクアウトで店舗内オペレーションも簡易な「唐揚げ専門店」に参戦しているのだ。
唐揚げ専門店に参入する主な理由としては、以下があげられる。
・初期投資が低く、参入障壁が低い。
・坪数の小さいところでも出店可能。
・フランチャイズでは、開店するにあたり、研修が1週間程度と短く、店舗内オペレーションを容易に把握できる。
外食では、アークランドホールデイングス「からやま」、すかいらーく「から好し」、和民「から揚げの天才」が好調である。
外食の唐揚げの参入もさることながら、スーパーの唐揚げが一時期、コロナ禍により、売れなくなったことも大きく、より外食の唐揚げに人々は流れたのだ。
スーパーの唐揚げの「ばら売り」が出来なくなった!
コロナ前ではスーパーでの唐揚げを含むフライの販売方法は「ばら売り」であり、コロナにより、それが出来なくなり、パック売りの変更を余儀なくされた。
「スーパーマーケットにおける購入頻度の高い惣菜上位5品目(2019年)」
コロナ禍で一時期売り上げ減も、徐々に回復
この表2019年でもわかるように全国、どの地域も唐揚げの売り上げは3位以内に君臨していたのだ。
それが「ばら売り」が出来なくなった後、スーパーでは1個25gから35gを100gあたり○○円と明記し、パック売り販売を始めたのだ。そしてコロナの感染拡大が発生した2020年3月から5月は売り上げが前年比よりマイナスになった。
以下は、コロナ禍での揚物惣菜の売り上げの前年比較である。
2020年の3月~11月のスーパーの売り上げを見ると、唐揚げは6月から少し戻り、9月から赤の部分を見てもわかるようにプラスに転じている。
つまり唐揚げ専門店が増加したことに加え、スーパーの唐揚げの売り上げも戻ったことで全体の唐揚げの売り上げがプラスとなったのだ。
唐揚げ専門店のオペレーションを深く考えるとスーパーと競合しない。
では具体的にスーパー内の厨房であるバックルームとどのような違いがあるのか。
スーパーと専門店のお互いの弱み
スーパーのフライヤー(フライ料理専門機器)は、唐揚げだけではなく、単価が見込める「とんかつ」1枚350円後半も必ず陳列されている。それ以外にも「コロッケ」1個100円前後、そしてその他いろいろなフライ商品がある。
ただ、それゆえにスーパーでから揚げに適した温度に一定にすることが出来ないのだ。他の商品も考慮し、一律、180度と言った温度設定で唐揚げ、とんかつ、コロッケ、すべてのフライ商品を揚げるのである。
しかも揚げ時間もおおよそ決まっており、それを唐揚げだけ長く揚げたりするとたちまちオペレーションが崩れやすくなる。そのため1個あたりのg数は、25gから35gと決まっている。
一方、唐揚げ専門店は、その名の通り唐揚げ1本勝負であるため、鶏を柔らかくできる揚げ時間、その上、温度設定も変えられる。そして1個あたりもフライヤーで揚げている時間も融通が利くので50g以上が多く見かける。
なかには1個あたりの価格を低く設定し、スーパーの前に出店しているところもある。
和民の唐揚げ専門店「から揚げの天才」である。
から揚げの天才
居酒屋の売り上げは、コロナ前から芳しくなく、コロナにより向かい風となっている。
和民の渡邉美樹代表取締役会長兼グループCEOの質疑応答では、「から揚げの天才」をてがけ、2021年3月の時点で92店舗。今後、200店舗を目指すと発表されている(外食レストラン新聞)。現在、駅前だと投資額2200万ほどであるが、初期投資をより低くするためにコンテナ店舗を999万で作り、さらに低くても出店できるようにしていく。
商品1個約60g99円という低価格からスーパーの価格に対抗できると言われている。
そのため立地は、スーパーの近隣に出店するとされる。
「から揚げの天才」の唐揚げ100gはおおよそ165円。
関西のスーパーでは唐揚げ100g158円から198円。
関東のスーパーでは唐揚げ100g158円から198円。
関東、価格にシビアな関西、いずれも同じ価格帯で、「から揚げの天才」はこの価格内にはまっている。
その上、スーパーでは1個あたり25gから35gに対し、「唐揚げの天才」では60gというボリュームで、スーパーのオペレーションを考えると、なかなか大きな唐揚げを提案しにくい。
関東ではヤオコー
関西では万代
から揚げの天才
衣など改善されれば、売り上げ、出店はまだまだ見込めるであろう。
「からやま」について
続けて唐揚げの外食で好調な「からやま」について見てみよう。
アークランドサービスホールディングスが手掛ける「からやま」は郊外型店舗、ロードサイド店舗が多く、コロナ禍で三密を避け、車での移動が多くなるという人々のコロナ禍の行動の変化が売り上げ増に貢献している。「からやま」は、コロナ禍でテイクアウト比率が40%から50%に増加しているという。
坪数41坪、41席で敷地面積は郊外型ということもあり、200坪以上で月商980万となっている。現在、店舗数は140店舗(2021年4月段階)。
「からやま」では、店舗内で出来立てを食べ、改めて印象的であったのが唐揚げの食感であった。
カリカリなのである。しかも揚げ時間が唐揚げに適するように設定できる。
例えば、「からやま」では、テイクアウトでは120円税込み132円で「ジューシーもも丸」だと10分の揚げ時間がかかると言われる。
スーパーではこの10分が難しいのだ。
「から好し」について
「から好し」は、90店舗(令和3年3月31日)。すかいらーくグループであり、接客のカウンターと厨房で15~30坪で出店可能である。
すかいらーくホールディングスは2月26日、東京都中野区に宅配・持ち帰りの専門店をオープンした。傘下の「ガスト」「バーミヤン」、唐揚げ専門店「から好し」のメニュー約140種類が店頭やインターネット、電話で注文可能だ。梅木郁男執行役員は「消費者の生活スタイルが変化しており、宅配・持ち帰りはまだまだ伸びる」と話す。(時事通信)
すかいらーくはご存じのように「ガスト」というファミリーレストランを持っているが、ファミリーレストランの売り上げが芳しくなく、店舗内に違う業態の「から好し」を入れることで、テイクアウトへの対応ができ、ファミリーレストランの売り上げを「から好し」で挽回しようと懸命である。
「から好し」は現在、全国、90店舗ある(令和3年3月31日段階)が、ガストの中に「から好し」という業態を入れることで、店舗拡大が考えられる。今既にある物件でしかもファミリーレストランは郊外型が多いこともこのコロナ禍では功を奏す。
プラスに傾いたならば、ガストの現在の店舗数、つまり1333店舗を単純に考えても「から好し」は急速拡大していくだろう。
「鶏笑」急拡大 全国、211店舗展開
その他、今や全国で211店舗を誇る株式会社NISが手掛ける「鶏笑」にも注目している。
立地として
・弁当専門店と類似した商圏内(商圏半径500メートル)2万人
・スーパー、惣菜店が近隣にある。
実際、訪問した鶏笑の近隣には商店街、そして弁当専門店(ほっかほっか)があり「から揚げの天才」の立地に類似している。
「鶏笑」は、現在、全国で200店舗(2021年1月段階)である。コロナ禍の1年、つまり2020年4月から2021年3月までを見ると64店舗を出店している。他社との大きな違いは、国産の鶏を使用し、しかもチルド原料なのである。注文を受けてから揚げるので、衣も薄衣でもカリカリできわめてジューシーである。
スーパーの唐揚げも健闘
コロナ後、一時期、売り上げは下がったものの、各スーパーでは毎年、見直しをしている。
昔は、衣の粉を多くつけて、2度揚げする、つまり一度揚げた後、しばらく放置し余熱を利用して鶏の中心まで火を通し、最後に30秒でさっと揚げることで肉の収縮を抑え、その上、衣がついていることで歩留まりを80%から100%にする方法が流行ったこともある。
しかし、今は薄衣にしつつ、柔らかく口に残らないように改善している 。
味付けのトレンド
7年ほど前まで
・醤油味、ニンニク味の2種でスーパー、路面店惣菜売り場に陳列されていた。
5年ほど前から
・黒コショウなどの入ったスパイシー系に変わった。
現在、生姜、出汁を使った下味が多く見受けられるようになった。
主に「あごだし」と言ったものも多く見受けられ、最近では柔らかくするために下味に味噌、麹が多く見受けられる。とあるスーパーでは、野菜出汁を使用しているところもある。
唐揚げは通常、健康というより若年層がいっぱい食べるというイメージが強い。しかし最近では減塩なども求められるようになったことからも中年以降にも人気がある。
つまり健康を意識した唐揚げということから、数年前までは開発があまりなされていなかったムネ肉を使った商品も今ではすっかり一般化されてきたのだ。
そして醤油についても多岐にわたり、窒素、つまり旨みを多く含むたまり醤油も脱色させることで焦げない、香りもあり、塩分控えめの唐揚げに仕上げているスーパーもある。
全体的に1個25gから35gのものが多かったが最近では50gと言った外食唐揚げ専門店に近いような商品もスーパーで見かけるになった。オペレーションの工夫を相当したことが商品を通してわかるのだ。
当然、スーパーの唐揚げは冷めても美味しいことがポイントであり、衣は揚げたてのようにカリカリ感はなくても、それをカバーするだけのジューシーさや、味が口に残らないように日々、改善している。
2年の歳月を開発に費やし、生姜の風味をほのかに口に広げる仕上げで売り上げを2倍にしたスーパーもある。それが平和堂の唐揚げ「じゅわ旨!生姜香る鶏もも唐揚」100g147円158.76円。
他のスーパーでも生姜風味を良く見かけるようになった。しかし衣の厚さも程よく薄衣にし、生姜も強すぎずといった絶妙なバランスは一夜漬けではなかなか真似することはできない。
病みつきになる味、脳裏に刻みこまれた「唐揚げ」、既に国民食
唐揚げは、歴史は古く、1932年に日本では「三笠会館」で登場し、その後、1963年、ブロイラーが普及し、それによって安価で味付けがしやすい唐揚げが出回るようになった。その後、弁当専門店での唐揚げ弁当の売り上げ全体の1割を示し、高度成長とともに唐揚げが一般化した。そしてコンビニのカウンターFF(コンビニのレジカウンターに置いてある FF商品 をこのように呼ぶ)に並び、より唐揚げが当たり前のものとなったのだ。余談であるが、以前、コンビニの唐揚げを北は北海道から南は九州まで試食したことがあり、消費量全国3位の北海道は唐揚げを「ザンギ」と呼び、通常のパッケージだと他の地方より1個多いことが分かった。
北海道はボリューム勝負の地域なのかもしれない。
そして唐揚げの大きな特徴の一つとして、油で揚げることだ。油は本来、病みつきになる成分があることから、老若男女問わず、無性に食べたくなる商品になったのだ。
以前にも、紹介したがアンケート調査で「親が最も作ってくれた料理」として「唐揚げ」を上げた人が最も多かったのだ。
マクドナルド戦略と同じように唐揚げをおふくろの味と捉えて良いのではないだろうか。
日本マクドナルドの創業者である故藤田田氏は「子供の頃からハンバーガーを食べることでおふくろの味になる」ということでターゲットを子供に設定したことは知られているところである。つまり「人間は12歳までに食べてきたものを一生食べ続ける」。
唐揚げは、既に約100年近い歴史があり、日本にとって国民食である。そしてコロナ禍から購入先が広がり、いかなる年齢層にも対応でき、価格も安定しているのでまだまだ伸びしろがある。
今後、外食、中食、玉石混交の時代に突入していくだろう。