闇バイトに電話をかけてみた。「たたきは捕まらない」と話すわけ。「ルフィ」強盗Gに抱いた強烈な違和感!
昨年2月、あるテレビ番組で闇バイトの募集に連絡をして、その実態をルポしました。
「やれるのは、受け出しか、”たたき”になるんですよね」
闇バイトの募集を行う、リクルーターの男は話します。
「受け出し」とは隠語で「UD」とも呼ばれ、受け子(被害者宅からカードや現金を騙しとる)、出し子(ATMから不正にお金を引き出す)のことで、詐欺の実行犯を示します。”たたき”とは「T」ともいわれて、強盗のことを指します。
今回、30数件の犯行をした強盗グループの存在が明らかになり、20代~30代までの数多くの若者が逮捕されました。闇バイトはどのように行われているのでしょうか。その実態をお伝えします。
なぜ、詐欺から強盗という手段に変えたのか?
特殊詐欺から強盗という手口に変えたことに対して「警察の詐欺グループへのマークが厳しくなり、強盗にシフトし始めた」と、考える人もいるかもしれません。しかし長年、組織的犯罪グループの犯行を見てきて、今回の「ルフィ」を名乗る強盗グループに関しては、ちょっと違うのではないかと考えていました。
そして最後に、被害を防げなかった、もっとも大きな理由にも迫ります。
今年最高500万円の闇バイト
今も、TwitterやInstagramには、様々な闇バイト情報が書き込まれていますが、昨年2月頃に、次のような書き込みがありました。
「急募 高収入、裏バイト、闇バイト、即金、即日、日払いのバイト、未経験者歓迎、リスク対策徹底。1日5万~今年最高500万」「本気で人生を変えたい方、困っている方からのDMお持ちしています」とありました。
調べるために、DM(ダイレクトメール)を送ると返信があり、話をすることになりました。その時に使ったのは、テレグラム(通話アプリ)です。
今は、これで連絡を取るのが主です。他にも数件の応募にも連絡をしてみましたが、やはり皆、テレグラムに私を誘導してきます。この通信アプリは、時間がたってからでも通話内容を消すことができて、犯罪隠滅のために使っていると考えられています。
「縛ってもらって、家のお金をとる」と説明
若い男の声で、まず私の名前、住所と年齢を聞いてきます。そこで、架空の住所を話して、40代の年齢を告げると、男は「やれるのは、受け出しか、”たたき”になるんですよね」といいます。
そこで、あえて「“たたき”って?」と聞くと「強盗です」とはっきりと答えます。
さらに男は「歳を取っていたら、(たたきは)厳しいかもしれない」といいます。
「強盗って、家に入ってくことだもんね」と聞き返すと「そうです。縛ってもらって、家のお金をとるみたいな感じなので」と説明します。
それに「9割くらいは、パクられますね。(捕まる)」ともいいます。
男は私が若くないので、”たたき”ではなく、「受け出し」をすることを勧めてきました。
さらに「受け出しに関しては、1日20人位を必要としている」「うちは、毎日、全国で(詐欺の)稼働をしていて、2年くらい事故はない(捕まっていいない)。こちらに関しては50歳位までは、案内しています」とも話します。
「報酬はどの位もらえるのか?」を尋ねると「抜ける(盗める)金額によって変わってきます。他の(詐欺)業者は5%程度ですが、うちは10%を渡します。100万とか200万とか抜けたら(詐欺ができたら)10万、20万を持って帰ってもらいます」と答えます。
自分たちは海外のグループ
「自分たちは海外のグループで、全国の(資産家などの)リストを買っている。今も中国とフィリピンに電話番をわけて、事務所を作ってやっています」
そこで「今も海外なの?」と尋ねると「はい。そうです」と答えます。
海外に、複数の詐欺グループが置かれていることがわかります。
男に「(高齢者を騙して)良心は痛んだりしない?」と聞くと、悪びれることもなく「しないっす」と即答します。
しかしさらに突っ込んで尋ねていくと「ただ、これが正しいことだとは、自分自身も思っていないので『う~ん』という感じですね」という本音も、もらします。組織のなかにいると、良心というものは、麻痺してしまうこともわかります。
今回、指示役「ルフィ」を中心とする強盗グループは「フィリピン」にいるとの報道で、この時の詐欺グループと場所が重なっています。ただし。この種の犯罪組織は多くありますので、同一グループかは判然としていません。
私が感じた、今回の強盗Gへの違和感
強盗グループによる犯行を耳にするたびに、ある強い違和感を覚えていました。
警察のマークが厳しくなって、詐欺の実行が厳しくなったから、強盗手段に出たという指摘もあるようですが、それだけの事情で、詐欺から強盗に手口を変えるとはとても思えません。もっと、根本的な理由があるのではないのか。
その後、指示役がフィリピンの収容所にいるという報道があり、「だから、詐欺ではなく、強盗を指示したのか」と合点がいきました。
「”たたき”をしても、捕まらない」とは?
過去に闇バイトの募集で“たたき”を斡旋する人物から次のような話も聞いています。
「“たたき”をしても、捕まらないよ」
「捕まる」と話すリクルーターがいる一方で、「捕まらない」という者もいます。これはどういうことなのでしょうか?
「うちのしている“たたき”は、ブラックなお金(違法な手段で稼いだお金)を持っている人たちを狙う。だから、彼らは警察にも被害届を出せない。だから、捕まることもない」というのです。
組織的な犯罪グループでは「逮捕のリスクを減らす」ことを第一に考えます。もちろん、実行犯は捕まる存在ではありますが、できるだけそのリスクを下げて、繰り返して犯行をさせて、お金をとり続けることを考えるはずなのです。
本来、こうした「ブラック”たたき”」がメインのはずなのですが、今回の強盗グループでは、資産を持つ一般家庭や高齢者宅を数多く狙っています。ここに強烈な違和感を覚えたわけです。
確かに、19年にアポ電強盗や、点検強盗、タワーマンションを狙う強盗もありましたが、いずれも実行犯は逮捕されています。一部、指示役も捕まっています。
正直なところ、「お金をとり続ける」という長い目の視点でみれば、この強盗という手法はずっと続けれられるものではなく、通常の詐欺に比べて効率がよくないのは、わかりきっていることです。それなのに、再び、昨年から起こり始めた。そこには何か、理由があるはずと思っていました。
振り込め詐欺の被害は、増えているのに「なぜ?」の違和感も
もっといえば、昨年上半期の振り込め詐欺などの特殊詐欺の被害は、一昨年度より被害が増加しています。つまり、詐欺グループにとってお金を騙しとることは順調に進んでいるはずなのです。そんな中で、なぜ、わざわざ強盗という手段に出るグループが現れるのか?
特殊詐欺が減っているのなら、わかります。しかしその被害は増えているのです。ですので、詐欺をするのが厳しくなったから、強盗にシフトしたとは、どうにも思えなかったのです。
しかも、1月に次々に犯行を行います。そこには、犯罪グループの焦りさえ感じられました。
これまでの報道から、もともと詐欺をしていたグループの指示役だったけれども、収容所に入ってしまうことで、それが自由にできなくなった。だから、強盗という手段に出たと考えています。
詐欺ではスマホを大量に用意して、多くの架け子(詐欺の電話をする人)たちに、次々に電話をかけさせて、お金を騙しとります。しかし収容所のなかにいて、架け子の数が足りなくなると、それが上手くいきません。
となれば、資産家名簿などを持つ道具屋から情報を買い取り、ターゲットを絞り、国内にいる実行犯らに、ターゲットにした人たちの家を下見をさせるなどして襲わせる。つまり、海外の指示役の側ではなく、犯罪の現場で手間をかけさせることで、手っ取り早くお金をとれることを考えたのではないかと思っています。
収容所に、詐欺の容疑者らを長くいさせたことで被害が広がった可能性も
知人から聞いた話として、19年にフィリピンで数十人規模の詐欺グループが摘発されて、収容所に入ったことがありました。大きく報道されたので、知っている方もいると思います。
しかしこの収容所ではスマホが簡単に入手できる上に、たくさんの架け子が同時に収容所に入ってきたことで、これまでと変わらずに、収容所から特殊詐欺の電話がかけられていたといいます。
国内にいる知人のもとには、収容所にいる一人から次のようなメッセージが届いたそうです。
「収容所に入って、詐欺をやめられると思ったのに、まだ電話をかけさせられている。早く日本に帰りたい」
当時はコロナ禍でもあり、なかなか日本に戻れない事情もありました。
その後、コロナも収まり、徐々に容疑者らは日本に戻されて、彼らは逮捕されていきます。
今回、スマホを自由に使える収容所から、強盗の実行の指示がなされたことが事実とすれば、収容所にいた、詐欺行為の疑いのある人物らをすみやかに出国させなかったことが、今回の強盗被害につながってしまった面もあると感じています。
組織的犯罪グループのメンバーと疑われる人物に対しては、一刻も早い強制送還の手続きをしてもらうことが、今回のような被害を防ぐことになります。
今、国境を越えて犯罪組織が暗躍しています。
いかに海外政府と連携して、容疑者をすみやかに引き渡してもらうのか。それが、国内の詐欺や強盗事件を防ぐための重要な課題です。今後、他の国にも犯罪グループは動く恐れは十分にあります。国をあげての対応が必要です。
今回の「ルフィ」を名乗る指示役とて、組織の駒の一つとみています。何かしらの理由で、一般家庭を狙うような強盗グループがいつ生まれるかわかりません。それに、闇バイトを通じて応募する人たちも多くいます。そうしたなかで、私たちも身を守るための警戒はこれからも必要になります。