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24歳まで身長伸びたグラント・ハッティング、サンウルブズの空中戦どう変えた?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
足も速い。(写真:アフロ)

 サンウルブズのグラント・ハッティングは、キックチャージを連発した。相手の蹴ったボールを身体で跳ね返すプレーだ。

 接点上のボールを拾い上げてキックしようとする相手をやや間合いを持って見定め、いよいよ足にボールがつくタイミングで迫る。

 

「集中力があったということです。背が高いので、(相手の動きは)よく見えます」

 5月12日、東京・秩父宮ラグビー場。国際リーグであるスーパーラグビーの第13節でレッズとぶつかり、63―28で制した。開幕から10戦目での今季初勝利である。

 殊勲者の1人はロックで先発のハッティングだ。南アフリカはヨハネスブルグ出身の27歳で、身長201センチ、体重112キロのボディに機動力を搭載させる。ちなみに2メートル越えの時期は、「タブン、ニジュウヨンサイ(日本語で)」とのことだ。

 やや単調だったレッズの攻めにキックチャージ、相手を掴み上げるチョークタックルなどで対抗。向こうの球出しを遅らせ、チームの課題とされていた防御に安定感をもたらした。

「サポーターの方に、いままで応援してきてよかったと思ってもらえるようなプレーができてよかったです。勝ちを嬉しく思っています」

 攻めては前半30分に、勝ち越しトライを決めた。敵陣10メートル線付近左中間で球を受けると、相手を引き付けながら右隣に立つプロップのクレイグ・ミラーへパス。抜け出したミラーをサポートした結果、自らインゴールを割った。直後のゴールも決まったことで、スコアを19―14と広げたのだった。

 一時はテレビジョン・マッチオフィシャル(ビデオ判定)でハッティングのパスが調査されていて、弾道が前方に流れたと見られればフォワードパス(スローフォワード)という反則のためトライが無効となっていた。だから試合後に一連のシーンの感想を聞かれると、ハッティングはこう笑うのみだ。

「フォワードパスじゃないといいんですけど!」

 何よりこの人の存在感が際立ったのは、ラインアウトだ。

 ラインアウトとは、タッチラインの外へボールが出た後の試合再開のためのプレー。最後に球を触ったのとは逆側のチームの選手が線の外からボールを投げ入れ、縦長の列をなした両軍の選手が空中で捕り合う。攻撃側にとっては投入位置決定までの判断、跳躍する選手とそれを支える選手の技術などが問われる。

 サンウルブズはシーズン序盤、この領域で苦戦を強いられていた。一時は自軍ボール獲得率が7割台に落ち込み、おもにラインアウトを指導してきたジェイミー・ジョセフヘッドコーチは「(けがなどで)本職でない選手をロック(ラインアウトで中心となる長身選手の位置)に起用しなければならなかった」ことを苦戦の理由に挙げた。

 もっとも、一時故障などで離脱していたハッティングの復帰後はラインアウトが安定してきた。特にレッズ戦では前方、後方と捕球位置にバリエーションをつけながら12本中11本成功。試合後、変化の背景を本人が語った。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――ラインアウトの改善。あなたが効果的なサインを出しているように感じますが。

「これは、チームの努力によってです。きょうはレッズのセットプレー(スクラム、ラインアウトなどの攻防の起点)がよかったので、そこへの対策をしました。来週のストーマーズ戦(19日に香港でおこなわれる。相手はセットプレーが強み)も大きな挑戦です」

――ラインアウトの改善に、あなたが貢献したことは。

「ビジョンという言い方をします(捕球位置の見極めのことか)。日本人と外国人のコミュニケーションの問題も解消されました」

 4月中旬、多国籍軍のサンウルブズがラインアウトで連携を図る難しさを「(言葉の壁の影響が)あるかないかで言えば、あります」と話していた。しかし今回は、「コミュニケーションの問題も解消されました」と言うのである。ちなみにハッティングに限らず、サンウルブズのラインアウトのサインは日本語で出される。

――あなたが欠場中のラインアウトは、どう見ていましたか。

「自分が出ていなかったというより、それぞれがそれぞれのすべきことをわかっていなかったです。いまはそれぞれのリレーションがわかっています。(笑いながら)飛べる奴、飛べない奴が誰かもわかってきました! どこでどのようにコールして、飛ぶかも改善されました」

 例えば、防御時のラインアウトに徳永祥尭が入ったのも「リレーション」の理解の一環かもしれない。徳永は身長185センチと世界的に小柄もジャンプがうまく、相手の動きを察知する感度にも定評があった。数値に現れぬ各選手の資質が、ようやくチーム内で共有されているのだろう。

 ハッティングはこう締める。

――勝ちきれなかった試合が多かったが、きょうは勝ちきった。

「気持ちの問題だと思います。今回は80分やり切るということを意識しました。次は、あと6試合残っているということがフォーカスポイントになります。ひとつひとつのゲームで今回のようなパフォーマンスをすることが大事です」

 

 レッズ戦前から入閣してラインアウトをチェックする大久保直弥・新アシスタントコーチは、「これまで選手が反省、レビューを繰り返してきている。いますぐ僕が新しいことをするわけではない。いまはグラント、(サム・)ワイクスら選手が責任を持って動いている。それを助ける」。身長に頼らぬ枠組みが確立されたい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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