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抗がん剤の吐き気を緩和する新治療法が開発とのニュース 吐き気を止めるオランザピンは5mgか10mgか

大津秀一緩和ケア医師
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

抗がん剤の吐き気 一般の認識とのギャップ

かつてのドラマ等においては、抗がん剤治療を受けた人が吐き続けるシーンが含まれることがありました。

そのため、今も抗がん剤治療には強い吐き気を伴うのではないかと心配される方は少なくありません。

しかし、吐き気の対策はかつてと比べると大きく進歩しました。

制吐薬適正使用ガイドラインという抗がん剤治療に伴う吐き気への対策薬のガイドラインも出来ています。適正に吐き気止めの薬を使えばかなり症状は緩和されます。

実際「先生、拍子抜けするほど何もありませんでした!」と、内心ドキドキしていたのに全く吐き気がなかったと驚かれる患者さんも少なくありません。

世間の認識と実際が大きく違う事柄の一つだと感じています。

吐き気の新治療開発される?!

さて2019年12月12日、抗がん剤の吐き気を緩和する新治療法を国立がん研究センターなどのグループが開発したと朝日新聞が報じました。

抗がん剤の吐き気抑える新治療法 国立がん研などが開発

抗がん剤治療に伴う吐き気や嘔吐(おうと)を抑える新たな治療法を、国立がん研究センターなどのグループが開発した。抗精神病薬を使うと、これまで難しかった治療後2~5日目の嘔吐を持続的に抑える効果が認められたという。成果は12日付の英専門誌ランセット・オンコロジーに掲載される。

出典:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191212-00000018-asahi-soci

下記が論文です。

Olanzapine 5 mg plus standard antiemetic therapy for the prevention of chemotherapy-induced nausea and vomiting (J-FORCE)

標準的な制吐療法にプラスして抗精神病薬「オランザピン」を用いて、シスプラチンという抗がん剤による治療を受ける患者さんの吐き気への効果を見たものです。

このオランザピン、実は既に2017年12月に「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)」に対して承認されています。

ただ、この際の承認は「公知申請(こうちしんせい)」というものでした。

公知申請とは、海外では認可されているのに日本では未承認で使用できない医薬品に関して、有効性や安全性などの科学的根拠が十分と認められた場合、臨床試験の一部あるいは全部を行わなくとも承認が可能となる制度です。この制度を通して、特に吐き気が強いタイプの抗がん剤の悪心・嘔吐に対して使用可能となっていたのでした。

すなわち、記事では「新しい治療法」とありますが治療自体は真新しいものではなく、すでに行われているものなのです。

オランザピンの吐き気止めに適した作用

オランザピンはもともと抗精神病薬ですから、統合失調症等への薬剤です。

一方でうまいことに、吐き気に関する脳内の複数の受容体に働き、それを抑制します。吐き気止めとして大変好ましい薬効を持っているのです。

実は抗がん剤に限らず、がんによる吐き気にも効果があると示されています。

さて、2017年の公知申請時にオランザピンは5mg1日1回として承認されました。

一般の皆さんはしばしば薬の種類を気にされますが、先日医療用麻薬の記事でも触れたように、「量」というのもとても大切なものです。

海外ではオランザピン10mgを使用した研究やガイドラインも存在し、いずれの量が妥当なのかは議論がありました。

オランザピンは鎮静作用があるので、多い量だと眠気などの副作用が強く出る可能性があるのです。一方で、少ないと吐き気を抑えられるかはわかりません。

科学的な検証方法を経て医学の諸問題について今わかっていることをまとめているコクランライブラリーでも、2018年にオランザピンの5mgと10mgどちらが良いかは結論できないとしています。

もっとも、筆者も制吐薬として処方したことは数多くありますが、5mgでも鎮静作用が問題になるほどなので、臨床の現場の感覚では一般的な日本人においては明らかに10mgでは多すぎで、5mgが妥当と言えました。

今回の研究(J-FORCE)で、シスプラチンという吐き気が出やすい抗がん剤を使用した患者さんに対し、遅発性の吐き気が出る24〜120時間後においてオランザピンの5mgでも十分な制吐作用があることが示されました(オランザピン群79% vs プラセボ群66%)。やはり5mgでも良いとわかったのです。

海外でも「これは新しい標準的な制吐療法と見なすことができる」等と評価されています。

抗がん剤の副作用も緩和ケアで対処できる

吐き気と嘔吐には違いがあります。

嘔吐は、外から見ていてもわかります。

一方で吐き気は、外から見ていてはわかりづらいことがあります。

そのため、存在する場合はしっかりと訴える必要があります。

述べてきたように、抗がん剤治療の吐き気対策は進歩していますから、よく担当の医師や医療者と相談することが大切です。

そしてまた、がん治療病院等においては緩和ケア医も抗がん剤治療の副作用対策にも携わります。緩和ケアチームや緩和ケア外来を利用することもできます。筆者もこれまで、吐き気がどうしても良くならないという方の緩和に数多く携わってきました。

抗がん剤治療による心身への影響や副作用の緩和に関しても、緩和ケア医に相談できるということは知っておかれると良い情報でしょう。

抗がん剤治療は副作用を可能な限り抑えるなどして負担少なく受けて継続性を保ち、最大限の効果を得られるようにしてゆく時代となっているのです。

緩和ケア医師

岐阜大学医学部卒業。緩和医療専門医。日本初の早期緩和ケア外来専業クリニック院長。早期からの緩和ケア全国相談『どこでも緩和』運営。2003年緩和ケアを開始し、2005年日本最年少の緩和ケア医となる。緩和ケアの普及を目指し2006年から執筆活動開始、著書累計65万部(『死ぬときに後悔すること25』他)。同年笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。ホスピス医、在宅医を経て2010年から東邦大学大森病院緩和ケアセンターに所属し緩和ケアセンター長を務め、2018年より現職。内科専門医、老年病専門医、消化器病専門医。YouTubeでも情報発信を行い、正しい医療情報の普及に努めている。

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