Yahoo!ニュース

松村沙友理がアイドルオタクのピュアな想いに涙。「乃木坂46時代に自分の殻は捨てました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『推しが武道館いってくれたら死ぬ』より。(C)A/T,O・A

昨年7月に乃木坂46を卒業した松村沙友理の地上波連ドラ初主演となる『推しが武道館いってくれたら死ぬ』が本日スタートする。地下アイドルのメンバーに人生のすべてを捧げる熱狂的なオタク役。自身のアイドル時代にアニメ版を観ていたという。女優活動にずっと悩んでいたそうだが、この作品で「やっと手応えを感じました」と語る。

ずっと女優に向いてないと思ってました

――乃木坂46に入った時点では、女優展開まで考えていなかったそうですね。

松村 そもそも人前に出るタイプでなかったんです。性格も暗くて、芸能界に憧れていたわけでもなくて。タイミングが合って乃木坂46のオーディションを受けたのですが、自分が芸能界に入れる人間だとは思っていませんでした。

――ドラマや映画も観ていなかったんですか?

松村 私はずーっとアニメが好きで、実写はあまり観ていませんでした。でも、洋画や海外ドラマは好きだったんです。『ER』や『ウォーキング・デッド』を観ていました。

――初期の『16人のプリンシパル』公演では、どんな心境でした?

松村 『プリンシパル』もですけど、乃木坂46では個人PVやアイドルっぽい台詞を言うコンテンツもあって。当時は恥ずかしかったです(笑)。テレがぬぐえませんでした。

――何かの作品で意欲が高まった感じ?

松村 実は乃木坂46時代の最後のほうまで、卒業したら女優に挑戦しようとは、あまり考えてなくて。今回の『推しが武道館いってくれたら死ぬ』も撮影の直前まで悩んでいました。バラエティやモデルと共に女優も頑張りたい気持ちはあっても、「向いてないかもしれない」といつも思っていて。

――そうですか? 『アンナチュラル』の2話から個人でドラマ、映画に相次ぎ声が掛かって、自信になりませんでした?

松村 全然ないです。でも、向いてないかもと思いながらも、やりたい気持ちだけは常にありました。

意地悪な人が出てくる作品を片っ端から観たり

――女優をやりたい気持ちはずっとあったんですね。

松村 はい。演技は難しいからこそ、楽しいというか。正解は全然見つからないし、自分ができているのかどうかもわからない。演技レッスンを受けてきたわけでもなくて。ずっと手探りでやってきて、だからこそ楽しい実感もあったのかなと思います。

――『愛しい嘘~優しい闇~』で波瑠さん演じる主人公に嫌がらせを繰り返す役のときも、だいぶ手探りしたんですか?

松村 あのときは意地悪な人が出てくる作品を観まくって、自分なりに研究しました。“いじめ”とかで検索して、出てきたのを昔の作品から最近のまで、片っ端から観たんです。うまく取り入れられたかはわかりませんけど、いろいろな女優さんを参考にさせていただきました。

――すごくイヤな感じが出ていました。

松村 面白かったのは、ある現場で年上の俳優さんにお会いして、意地悪な役のイメージが強かったのが、ご本人は穏やかでイヤな感じが一切しなかったんです。思わず「どうしたら、あんなに意地悪に見せられるんですか?」と聞いたら、「怖い役はテクニックを使えて面白いんだよ」と言われたんです。私は言い方や目つきを何となくイメージするくらいですけど、その方のようにテクニックを身に付けられたらと思いました。

調和を大事に世界観にウソがないように

――演技で自分の殻は難なく破れるようですね。

松村 そうかもしれません。もともとこういう人間ではなかったので、乃木坂46時代に仕事をするに当たって、殻は捨てました。

――泣いたり怒ったりするシーンで苦労することもなく?

松村 意外とあまりないような気がします。でも、それは脚本家の方がすごいんだと思います。私自身は気持ちが乗らないと、まったく泣けない人間なので。それでも今まで何とかやってこられたのは、脚本に共感できて気持ちを乗せられる作品ばかりだったからかなと。

――気持ちを乗せられること自体、女優の資質があるからだと思います。『プロミス・シンデレラ』では「二階堂ふみさんに影響を受けた」と発言されていましたが、どんな影響ですか?

松村 二階堂さんは衣装や周りの美術とか、すごく細かいところまでご覧になっていたんです。旅館のお話で、ご自身のことだけでなく周りの役者さんの作法に至るまで気になさっていて。「座長というのはここまでするんだ」と驚きました。

――二階堂さんのような生粋の女優さんには、アイドル出身との感覚の違いもありますか?

松村 私たちはグループ内で、他のメンバーと同じことをしないといけないわけではなくて、むしろ個性を売りにすることが良かったと思うんですね。でも、ドラマではひとつの作品を作っているので、調和をすごく大事にされていて。世界観にウソがないようにしないといけないことは、二階堂さんの姿を見て気づかされました。

本当に言われたことのある台詞が出てきて

――今は女優業へのモチベーションがより高まっていますか?

松村 『推し武道』の撮影に入って、やっと自分の中でひとつの手応えを感じています。今までは現場で発する台詞に不安があって、演技に苦手意識もあったのが、えりぴよ役をやらせていただいていると、あまりそういう気持ちになりません。明確に自分が上達したとは思いませんけど、不安なくやれていると思います。

――アイドルオタクの役に共感を持てるから?

松村 それはどうか、わからないです。ただ、現場で監督さんたちとすごく話せていて。撮影していて私が「あれ?」と思ったら、監督さんも「あれ?」となる感じで、「もう1回やりたい」と思っていると、「もう1回やりましょう」と言ってくれたり。満足いかないまま、撮り終わることがないんです。時間もタイトだし、自分のわがままで何回もやり直しはできない……といろいろ考えてしまうことがなくて。初めての主演がそういう現場だったことが、とてもありがたいです。

――松村さんから意見を出すこともありますか?

松村 自分がアイドルをやってきた分、ファンの立場は大切に演じたくて。握手会のシーンとかリアルですけど、違和感があれば相談するようにしています。本当にファンの方に言われたことがある台詞が出てきて、台本では冗談っぽく書かれていたんですけど、実際のときは、ファンの人が泣きながら言ってくれていて。軽い雰囲気の台詞にしたくなかったので、話し合いをさせていただきました。

気持ちはピュアでもアイドルとの距離感は難しいので

累計発行部数100万部を超える人気コミックをドラマ化した『推しが武道館いってくれたら死ぬ』。フリーターのえりぴよ(松村)は、地元・岡山の地下アイドルChamJamのメンバー・市井舞菜(伊礼姫奈)に収入のすべてを貢ぐアイドルオタク。内気な舞菜は、えりぴよに緊張から塩対応してしまい、互いを大切に思いながらすれ違いを続ける。

――『推し武道』は原作やアニメも観ていたそうですが、どんなところを魅力に感じていました?

松村 えりぴよを始め、オタクたちがとてもピュアじゃないですか。純粋な気持ちで自分の推しが幸せになることだけを考えて、一生懸命応援している。その熱さが観ていて気持ちいいし、感情移入をすごくできる。悪いことを考えている人がいない、平和な世界観も魅力的ですね。

――泣けるところもありません?

松村 すごくあります。アニメを観ているときもそうでしたけど、泣くようなシーンでなくて、台本にも「泣きながら言う」とか書いてなくても、涙が出てくることが多くて。気持ちはピュアでも、アイドルは恋人とも家族とも違う。その距離感の難しさが作り出す、感情の起伏はありますね。

私は推すならガチ恋系です(笑)

――えりぴよは舞菜を熱狂的に単推ししていますが、松村さんがオタクの立場だったら、どんな推し方をしそう?

松村 私はガチ恋系だと思います(笑)。ずっと2次元が好きで、1クールごとにアニメで推すキャラクターが変わりますけど、その3ヵ月間はリアルに恋をしているくらい好きでした。乃木坂46の頃は、アニメを観てないメンバーにも「○○くんがね」と話したりしていて(笑)。

――特に忘れられないキャラクターもいますか?

松村 『コードギアス』のルルーシュは人生でずっと好きです。フィギュアも買っていましたし、10周年記念の映画は何回も観に行きました。

――アイドルとしては推される側でしたが、配信番組『生のアイドルが好き』では毎回アイドルをゲストに迎えていて。推したくなる人もいました?

松村 皆さん魅力的でしたけど、私はやっぱりガチ恋系なので、あざとく釣りをしてくれる子は、すぐ好きになっていましたね。チョロいオタクでした(笑)。

――舞菜のように、地味でも一生懸命なアイドルに惹かれる部分もありますか?

松村 そうですね。恥ずかしがり屋でダンスもあまりうまくないけど、逆に目を引かれるのはわかります。彼女なりの一生懸命さがすごく伝わる子なので、めっちゃ推せるなと。

――アニメを観ていたときは、ChamJamで誰推しだったんですか?

松村 眞妃ですね。ちょっと大人っぽいキャラクターで、リーダーのれおが引っ張るのとは違う形でグループを支えていて。みんなをおばあちゃんのような目で見守っているのが好きでした(笑)。何を言っても受け止めてくれる、天性の包容力がありますよね。

コスプレにはしたくなくて内面を寄せています

――赤ジャージ姿の松村さんのえりぴよの再現度が評判になっています。

松村 自分では、原作のえりぴよに性格や考え方は寄せるようにしていますけど、実はヴィジュアルはそこまで似せることにこだわっていません。私はもともと2次元派の人間なので、実写化されても同じ世界線にないんです。見た目がえりぴよに似ていると誉めていただくのは純粋に嬉しくても、コスプレにはしたくなくて。内面を近づけて、えりぴよという人間に寄り添いたいと思っています。

――なるほど。アニオタ的には、アイドルオタは推しと同じ次元にいるだけで幸せ、とも思いますか?

松村 私は2次元は2次元だから好きなのかもしれません。推しキャラは2次元にいてほしい。3次元に出てきてほしいというより、自分が2次元に行きたいです(笑)。

――では、えりぴよを演じるうえで、他に意識していることはありますか?

松村 声は低めにしようと心掛けています。普段話しているトーンで声を作らず、リアルな人間っぽさが出たらいいなと思って。

――アニメではいかにも2次元っぽかった鼻血を出すシーンは、どんな感じで?

松村 アニメやマンガと同じ熱量は表現できたらと、CGを使わずにやっています。私が本当に鼻血を出すわけではないですけど(笑)。他の作品の鼻血のシーンより撮るのに苦労して、スタッフさんがめっちゃ頑張ったので、リアルに感じてもらえたら嬉しいです。

ずっとアニメを観てきて妄想力が付きました

――演技力向上のために、日ごろからしていることもありますか?

松村 3次元の実写をよく観るようになりました。昔のドラマもだいぶ遡って観ています。有名な『ビーチボーイズ』とか『ロングバケーション』とか。私は2次元の世界の人間でしたけど、ドラマもめっちゃ面白いと改めて思いました。

――25年前に放送された『ビーチボーイズ』は、今観るとどう感じました?

松村 タバコをいっぱい吸っていたり、今と違うところもいっぱいありましたけど、時が経っても同じように憧れるものはあるなと。海のキラキラ感だったり、いいなと思いました。

――アニメをずっと観てきたことが、女優業に役立っている部分もないですか?

松村 めっちゃあると思います。自分的にはアニメやマンガを観ていたおかげで、妄想する力が付いたかなと(笑)。アニメでハマった推しは、そこで描かれた2次元の世界にしかいないので、そのもっと先まで、自分でいろいろ妄想をしますから。

――たとえば映画『ずっと独身でいるつもり?』では、パパ活について妄想したり?

松村 パパ活は自分の勝手な想像とリアルな現実が違いすぎて、大変でした(笑)。本読みで何度台詞を言っても、ふくだ(ももこ)監督に「そんなんじゃない」と毎回ダメ出しをいただいて。たくさんお勉強させてもらいました。

難しいからこそ、ときめきを感じます

――えりぴよはステージの舞菜を見て、「人生で初めて胸がときめいた」と言ってました。松村さんも何かで、それくらいときめいたことはありますか?

松村 めっちゃあったと思います。私、ときめきマシーンなので(笑)。初めは興味のなかったこのお仕事を今しているのも、芸能界にときめきを感じたからだし、乃木坂46を卒業しても辞めなかったのは、女優業にもときめいたからかなと、すごく思います。

――どんなときめきを感じたんですか?

松村 やっぱり難しいからこそ……というのはありますね。アイドルになれたからって、必ず売れるわけではなくて、応援してもらうことはすごく難しいんだと、今回『推し武道』をやって改めて思いました。私はそんな人間でないからこそ、握手会で「応援してます」と言ってもらったときの喜びが大きくて。今もこの現場で演じることが難しいゆえに、手応えにときめきをすごく感じています。

――演技が「楽しいけど向いてない」と思っていたのが、「楽しくて向いている」になりそうですね。

松村 そう近づけたらいいですけど、今は本当に気持ちだけでやっています。

――今後、女優として磨いていきたいことはありますか?

松村 もっといろいろな人を見られたらと思います。今回、自分が経験してきたアイドルの世界が舞台でも、パパ活が想像と全然違っていたくらい、頭だけでは追い付けないこともあって。だから、たくさんの人の生きざまに興味を持って、もっと触れていきたいです。

*写真は『推しが武道館いってくれたら死ぬ』より。

松村沙友理(まつむら・さゆり)

1992年8月27日生まれ、大阪府出身。

2011年に乃木坂46の1期生オーディションに合格。2021年に卒業。主な出演作はドラマ『プロミス・シンデレラ』、『農家のミカタ』、『愛しい嘘~優しい闇~』、『花嫁未満エスケープ』、映画『賭ケグルイ』、『東京ワイン会ピープル』、『ずっと独身でいるつもり?』など。『BAILA』レギュラーモデル。

(C)乃木坂46LLC
(C)乃木坂46LLC

ドラマL『推しが武道館いってくれたら死ぬ』

テレビ朝日/土曜26:30~(10月8日スタート)

ABCテレビ/日曜23:55~(10月9日スタート)

ABCテレビで放送後、TVer、GYAO!にて見逃し配信。Huluで見放題独占配信

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事