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千日手魔神・永瀬拓矢二冠(27)公式戦40回目の千日手を経て深夜の順位戦で木村一基王位(47)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月30日。東京・将棋会館においてB級1組3回戦・永瀬拓矢二冠(叡王・王座)-木村一基王位戦がおこなわれました。

 B級1組順位戦の持ち時間は各6時間(ストップウォッチ方式、一分未満切り捨て)です。

 10時に始まった対局は永瀬二冠先手。戦型は角換わりから早繰り銀となりました。永瀬二冠の攻めを木村王位が受け止め、中盤では形勢は木村王位がリードしたようです。

 木村王位の銀は永瀬陣まで進んで成り込み、桂を取る戦果をあげます。

 93手目。永瀬二冠は自陣三段目の飛車を二段目に引きました。この手は木村王位の成銀取りになっています。

 木村王位は成銀を三段目に引きます。

 永瀬二冠は飛車を三段目に上がって、また成銀取りとします。

 木村王位は成銀を二段目にもぐる。

 永瀬二冠が飛車を二段目に引く。

 同じ手順が繰り返され、104手目、同一局面が4回生じて千日手となりました。千日手成立時刻は22時9分。残り時間は永瀬1時間9分、木村54分。

 永瀬二冠にとっては、これが公式戦40回目の千日手となりました。

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 将棋会館でおこなわれる通常の対局では、千日手は先後を入れ替え、30分後に指し直し局がおこなわれます。

 2014年9月19日のC級2組4回戦・永瀬拓矢六段-西川和宏五段戦(肩書は当時)は千日手指し直し2回のあとに永瀬六段が勝利。終局時刻は日付が変わり、20日明け方の4時40分でした。

 指し直し局の持ち時間は、基本的に千日手局の残り時間から引き継ぎます。ただしどちらかが1時間に満たない場合には、少ない方が1時間になるように同じだけの時間を足します。

 千日手指し直し局の▲木村-△永瀬戦、持ち時間は木村1時間、永瀬1時間5分で22時39分に開始されました。

 先手番となった木村王位は相掛かりの作戦。後手番の永瀬二冠は横歩を取ります。

 角交換のあと、互いに中段に角を打ち、互いの飛車を圧迫。難解な中盤戦となりました。

 永瀬二冠は飛車角交換をして、手にした角を木村陣に打ち込みます。そして香を取り、その香を打って木村王位の飛車まで取りました。

 瞬間的に飛車損となった木村王位は、すぐに角取りで3筋に香を打ち返して反撃。そして木村王位の方がリードを奪ったようです。

 64手目。永瀬二冠は香取りに馬を一つ引きました。残り時間は木村15分、永瀬21分。

 木村王位は1分を使って、自陣に桂を打ち、香取りを受けます。この受けが疑問だったか、形勢はこのあたりで難しくなりました。進んで今度は永瀬二冠が優勢となったようです。

 74手目。永瀬二冠が中央5筋に据えた香が木村玉を射すくめる鮮やかな決め手でした。中段好位置に配された馬と、木村陣一段目に打ち込まれた飛車とのコンビネーションで受けが難しい。

 さすがの木村王位も粘ることができず、深夜1時31分、78手での投了となりました。

 永瀬二冠は40回目の千日手を経て、指し直し局を勝利で飾りました。これで指し直し局の成績は30勝8敗となります。(決着までに千日手指し直し2回は2度あり、いずれも勝利)

 B級1組の成績は、永瀬二冠は3連勝、木村王位は1勝1敗となりました。

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 一夜明けて、7月31日は永瀬二冠にとって、叡王戦七番勝負第6局(対局場=大阪・関西将棋会館)の移動日となります。現在防衛戦を戦っている叡王戦は、千日手1回、持将棋2回と歴史的な死闘となっています。

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 ハードスケジュールが続く中、ずっと変わらず、持将棋、千日手大歓迎の姿勢を見せられるのが、永瀬二冠の強さの一端を表しているのでしょう。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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