観れば観るほどハマりそう! 宝塚歌劇月組『ゴールデン・リバティ』を深読みしてみた
宝塚歌劇月組『ゴールデン・リバティ』は一見、はちゃめちゃな西部劇であり、タカラヅカらしいラブロマンスでもある。だが、実は密かにさりげなく示唆に富んでいる。観れば観るほどハマりそうな作品である。
(※以下、ネタばれがあるのでご注意ください)
時は19世紀後半のアメリカ、南北戦争も終わり今こそ一つの国としてまとまっていこうという勢いに溢れた時代。西へ西へと開拓が進み、ついに太平洋側にまでその国土を広げたアメリカは、大陸横断鉄道によって東西が結ばれることになる。
力さえあればのし上がっていけるという期待がまだ許されていた、そんな時代の愛すべき雑駁さをはらみながら物語は進んでいく。
だが、時代の勝者の陰で犠牲を強いられたマイノリティへの眼差しも、この作品には存在する。主人公ジェシー(鳳月杏)はアメリカ合衆国に征服された先住民の血を引いている。幼い頃に両親を亡くし、列車強盗団に拾われて育つが、彼を育ててくれた恩人も失うという不遇な過去を背負っている。
列車強盗団からは足を洗っていたジェシーだが、ライマン(風間柚乃)と名乗る男により不本意ながら大陸横断鉄道襲撃計画に再び引き入れられてしまう。そのドタバタの中で出会った少年アナレア(天紫珠李)の正体は、合衆国に植民地化されんとしていた小さな島国の王女(実在のハワイ王国の王女をモデルにしているらしい)であった。
二人が惹かれあっていく過程が少しわかりづらいが、互いに相手の中に自分に近いものを見たのかもしれないとも思う。
序盤は列車強盗がうまくいかなかったり、何故かサーカス団(これも実在のサーカス団をモデルにしているそう)の公演に巻き込まれたりと、さまざまな事件が錯綜するが、やがてそれらがひとつの物語にまとまっていき、登場人物たちの秘密も次々と明かされていく。結末は民主主義を理想として掲げる自由の国アメリカらしく清々しい。その象徴として登場するのが「自由の女神」なのだろう。その民主主義が世界中でほころびを見せている今、古き良き時代へのノスタルジーを感じさせる結末でもある。
本作で月組の新トップスターとなった鳳月杏が演じるジェシーは、自由気ままに生きる無頼漢のようでありながらも、じつは心優しく繊細で、少し陰のあるところが何とも魅力的。西部劇独特の衣装も着こなして見せる。鳳月の元で出演者たちが伸び伸びと演じているさまを見ながら、自分も輝きつつ周りも輝かせる懐の深いトップスターの誕生を感じた。
少年から誇り高きプリンセスへと大変身していくアナレア役は、かつて男役から娘役へと転向し、トップ娘役となった天紫珠李のキャリアが活きる役どころだ。大人っぽさの中に少女のような可憐さをのぞかせる持ち味が、鳳月と組むことでどんなふうに開花していくのだろう。新トップコンビのこれからも楽しみになった。
風間柚乃演じるライマンも、じつは複雑な事情を抱えている。だが彼は、自分を縛る組織のルールの異常さに気付き、しがらみを自身の力で断ち切って新たな道を歩み始める。「組織内の常識は世の中の非常識」になりがちなのは今も同じだけに、ライマンの選択には考えさせられるところが大きい。
ジェシー、アナレア、ライマンは三者三様に抱えているものがある。本作は、三人がそこから解き放たれていく成長の物語でもある。
そんな中で抱えているものが全くなさそうに見えるのが、ディーン(礼華はる)とリッキー(彩海せら)の無法者コンビだ。この時代のアメリカの光の部分を真っ直ぐに信じて生きる二人でもある。新生月組を担うスターとして期待も大きい二人が、底抜けに明るくあっけらかんと弾ける姿が気持ちいい。
いっぽう、光に対する影の部分を一手に担う存在として、実業家フランク・モートンを演じる夢奈瑠音と陸軍の将軍ハワード・ケインを演じる英かおとが健闘している。
最後にはクリーブランド大統領(春海ゆう)やフランスの外交官レセップス(朝陽つばさ)といった実在の人物まで登場し、タイトルの「ゴールデン・リバティ」の意味するところが明らかになっていく。この重要な役どころを、今回で退団となる二人が任されているのも嬉しい見どころだ。
また、昔は列車強盗団の首領の妻、今はレストランの支配人という経歴を持ち、誰よりも男前なモンタナ(白雪さち花)、モンタナの娘で周囲を振り回し続けるパール(彩みちる)、神出鬼没な新聞記者のエリザベス(白河りり)など、娘役がパンチの効いた役で活躍するのも頼もしい。
作・演出は大野拓史。大野作品のプログラムはいつも文字量がとても多いが、今回もそうだった。キャスト一人ひとりの人物像から関連ネタに至るまで、事細かに解説されている(つまり、お買い得なプログラムである)。そんなところからも作者のこだわりが伝わってくる。作り手の思いが忖度なく反映されている舞台は観ていて気持ちが良いと、私は思う。
いろいろと深読みし過ぎだろうか?…いや、そういう深読みもまた、タカラヅカ作品のお楽しみではないだろうか。