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メンタル面のミスが致命傷になることと、1ポゼッションの重要さを痛感させられたバスケットボール日本代表

青木崇Basketball Writer
宇都の起用は成功。敗因をシュート成功率と話したラマスコーチ(写真/三上太)

“One possession at a time.”

 これはアメリカのバスケットボールでよく出てくるフレーズで、意訳すれば“目の前にあるポゼッション”を全力で戦うという感じだろうか。

 ワールドカップ予選という重要な国際試合となれば、どのポゼッションも気を抜くことなどできない。人間である以上、選手のミスはどうしても起きてしまうものだが、一瞬でも集中力を欠くようなことがあると、試合の流れを大きく変えるだけでなく、勝敗を大きく左右してしまうのがバスケットボールというスポーツ。横浜国際ブールで行われたFIBAバスケットボール・ワールドカップ2019アジア地区1次予選の日本対チャイニーズ・タイペイ戦は、1プレーがすべてを変えてしまったと言ってもいい試合だった。

 それは、3Q残り7分58秒にフー・ロンマオがフリースローをミスした直後のプレー。リムをかすめるように当たったボールに対し、レーンにいた日本の選手たちはだれも反応せず、みずからリバウンドを奪ったフーにあっさりレイアップを献上してしまったのである。この時点で日本は3点をリードしていたが、辻直人が大当たりした2Qからのいい流れに歯止めをかけた致命的なミスであると同時に、チャイニーズ・タイペイに自信を与えてしまった。

 次のディフェンスではアイラ・ブラウンがフーの3Pシュートをブロックしたものの、そのルースボールにもチームメイトがまったく反応しない。ボールを再び手にしたフーは、あっさりとレイアップでフィニッシュする。この一戦に臨んだ日本の選手たちは、「負けられない試合」という強い意識を全員で共有して試合に臨んだはずだ。しかし、3Q序盤のルースボールにまったく反応できないシーンの連続は、集中が一瞬途切れたメンタル面のミスと言われても仕方ない。逆に、チャイニーズ・タイペイは肝心な局面でのハッスルプレーで、明らかに日本を上回っていた。

「頑張りが十分じゃなかったから、1点差で負けたのかもしれない。3Qでいいディフェンスをしていたら、我々が勝っていたかもしれない。3Q序盤に10番(フー)と20番(チョー・ポーシュイン)にオフェンス・リバウンドを取られすぎた。我々が3、4本多くリバウンドを奪い、数本シュートを決めていれば勝っていただろう。でも、37%では勝てない」

 フリオ・ラマスコーチは3Q序盤における一連のミスよりも、試合を通じてFG成功率が低かったことを敗因にした。しかし、目の前の1ポゼッションがとても重要であることの理解度という点では、残念ながらチャイニーズ・タイペイより劣っていたと言わざるをえない。昨年のアジアカップで韓国に敗れた試合では、軽率なターンオーバーとなったポゼッション後から流れが一気に変わったことを覚えているファンも多いはずだ。それでも、日本は会場や映像で見ているファンのために、代表のプライドをかけてハードに戦った。しかし、終盤で追いかける局面でのマネージメントでは、疑問符をつけたくなる。

 第1の理由は、4Q残り1分57秒に宇都直輝がコールされるまで、チームファウルが1つしかなかった点。チャイニーズ・タイペイが残り16.6秒でタイムアウトをとった際、日本は3度ファウルしなければ、基本的にオフェンスの機会を得られず、かなりの時間を失ってもおかしくない。そんな状況下でもアンスポーツマンライク・ファウルを取られることなく、失った時間がわずか3秒弱という見事なファウルゲームを遂行できたのはほぼ奇跡的。チェン・イーチュインが2本目のフリースローをミスした後のリバウンド争いに勝ったプレーで、篠山竜青はファウルをもらった。

 残り8秒、スコアは66対69。篠山が1本目のフリースローを外してしまうと、2本目をわざとミスする。しかし、オフェンス・リバウンドを奪えなかったため、アイラ・ブラウンがファウルで時計を止めるしかない。「オフェンス・リバウンドからの3Pで延長にしたいと思った」と話したラマスコーチは、篠山にミスするよう指示していた。しかし、2本目を決めさせれば2点差になるだけでなく、ゲームクロックは8秒で止まったままとなる。2点差でチャイニーズ・タイペイに最後のタイムアウトを取らせ、直後にファウルをもらってフリースローとなった場合、2点差と3点差ではプレッシャーの度合いがあまりにも違う。

 3点差の場合は1本決めていれば、オフェンスを2回しなければ追いつけない4点差にできる。残り10秒を切った局面だと、1ポゼッションで追いつける3点差と2ポゼッションが必要な4点差とでは、天と地の差があるに等しい。この状況を考慮すれば、篠山に2本目を故意に外させるというラマスの指示は誤りだったのでは? というのが、疑問符をつけたい第2の理由である。

 44.7秒にブラウンが2本ともフリースローをミスしたのは非常に痛かったが、ディフェンスで止めた後に次のオフェンスで2点差に詰めた。“たられば”の結果論というのは承知のうえだが、指揮官が正しいマネージメントをしていれば、残り2.5秒で辻が決めた3Pシュートは起死回生の同点弾だったかもしれない。仮に1点ビハインドだったとしても、チャイニーズ・タイペイがタイムアウトを使ってフロントコートからインバウンドできるのと、決められた直後に自陣のエンドラインからインバウンドするのとでは、ターンオーバーを誘発させた後に得点できる確率で大きな違いが出る。「あくまでもそれは可能性」と話したラマスコーチだが、残り8秒からのプレーは正直なところ、ターンオーバー以上に無駄なポゼッションに終わった感が否めない。

 メンタル面のミスと1ポゼッションの大事さを痛感させられての黒星は、ワールドカップと東京五輪に開催国として出場するというミッション達成に危険信号が点灯した。しかし、7月2日に行われるチャイニーズ・タイペイとのアウェイ戦を1ゲーム差の状態で臨むことができれば、2点差以上の勝利で2次予選に進める。そのチャンスを失わないためにも、日本は25日のフィリピン戦でチームとして少しでも進化したゲームをしなければならない。約2万人のファンで埋まる敵地で心身両面でタフに戦って勝つことができれば、日本は自信を取り戻せる。そのきっかけをつかむには、目の前にある1ポゼッションを全身全霊でプレーするしかない。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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