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「えっ?酸素を吸っているように見えなかった」 国内18万人超の在宅酸素療法患者の悩みとメーカーの工夫

倉原優呼吸器内科医
酸素吸入用メガネ(『メガネの大宝堂』ホームページより許諾を得て使用)

このサムネイル画像の女性、鼻から酸素を吸っていることに気づかなかった人のほうが多いのではないでしょうか。肺や心臓に病気がある人の一部は、大気中の酸素を吸っても、体の酸素が不足します。そのため、在宅酸素療法を受けていただく必要があります。しかし、鼻にチューブを通すことに抵抗感がある人は多いです。そういった「見た目の悩み」を解決する方法が、日々考えられています。

在宅酸素療法の使用者は過去最多水準

最近はマスクを着用する人が増えたので分かりにくいかもしれませんが、鼻に酸素のチューブを通して歩いている人を見たことはないでしょうか(図1)。

図1. 在宅酸素療法(イラストは看護roo!より使用)
図1. 在宅酸素療法(イラストは看護roo!より使用)

実は、酸素ボンベにつながった酸素を流すチューブを鼻に通すことで、酸素を吸う「在宅酸素療法」を利用している患者さんです。

病院外で酸素療法をおこなう場合、酸素業者との契約が必要で、患者さんは酸素ボンベなどを毎月有料でレンタルしています。在宅酸素療法を受けている患者さんは、全国で18万人を超えています(図2)。

図2. 在宅酸素療法を受けている患者数(参考資料1をもとに筆者作図)
図2. 在宅酸素療法を受けている患者数(参考資料1をもとに筆者作図)

在宅酸素療法を受けている患者さんの約半数が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)です。COPDは、たばこを長期間吸うことで中高年になって発病する病気です。その他、循環器の病気でも酸素療法を適用されている人がいます。

酸素を吸っているように見えない工夫

ある患者さんにこんなことを言われました。「先生なら、酸素を鼻につけて外を歩きたいと思いますか?」と。正直、答えに窮してしまいました。

私たち医療従事者は、毎日のように目にしていますので、患者さんが酸素を吸っていても何も気になりません。しかし、患者さんには「酸素を吸っているのを見られたくない」「酸素ボンベを持って外出するのが恥ずかしい」という意見が多いのも事実です(2)。

そんな当事者の声を受けて、業者やメーカーは、近年さまざまな工夫を凝らしてくれます。

たとえば、ショルダーバッグやリュックサックタイプの酸素濃縮器を持ち運ぶことが可能な場合があります(写真1, 帝人ファーマ株式会社)。確かに、ボンベを引っ張って歩くのとは、少し違って見えます。

写真1. 帝人ファーマ株式会社より許諾を得て使用
写真1. 帝人ファーマ株式会社より許諾を得て使用

コロナ禍になってマスクを着用される方が増えたものの、鼻から酸素を吸っているのを見られたくないという人も少なくありません。そんな場合、酸素吸入用メガネといって、眼鏡フレームの裏に酸素のチューブを通す技術があります。チューブが目立たないので、一見して普通のメガネにしか見えません(写真2, メガネの大宝堂)。

写真2. 酸素吸入用メガネ(フレームの後ろに酸素のチューブが通っている:『メガネの大宝堂』ホームページより許諾を得て使用)
写真2. 酸素吸入用メガネ(フレームの後ろに酸素のチューブが通っている:『メガネの大宝堂』ホームページより許諾を得て使用)

このタイプの製品を使用している患者さんが外来におられますが、「外出が億劫ではなくなった」「人の目線があまり気にならなくなった」「酸素を吸っていると気づかなかったと言われた」という声も耳にしています。

また水筒くらいの感覚で、カバンに入れて持ち運べるくらい小さな酸素ボンベもあります(写真3)。すぐに酸素の残量がなくなってしまうのが玉にきずですが、外出時間が短い場合にはもってこいです。

写真3. 水筒くらいの大きさの小さな酸素ボンベ(筆者作成)
写真3. 水筒くらいの大きさの小さな酸素ボンベ(筆者作成)

まとめ

高齢化がすすむと、今後在宅酸素療法を利用する患者さんは増加していくと予想されます。

ただでさえコロナ禍で外出頻度が減ったのに、在宅酸素療法が必要になりさらに外出が億劫になってしまうと、ますます虚弱状態に陥ってしまいます。

酸素業者やメーカーは、少しでも目立たないような工夫を凝らしてくれています。今後も色々なアイディアが出てくることに期待しています。

(参考)

(1) ガスレビュー社. ガスメディキーナ. 2021; 26: 44.

(2) 大西みさ, 他. 日本看護研究学会雑誌. 2004; 27(5): 5_39-5_48.

※酸素チューブのことを専門用語で「カニュラ」と呼びますが、本記事では一般向けに分かりやすく「チューブ」と書かせていただいております。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、オーサーが執筆したものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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