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相模原事件・植松聖被告が犠牲者遺族から賠償請求の民事訴訟を起こされていた

篠田博之月刊『創』編集長
横浜拘置支所(筆者撮影)

 2019年8月1日に横浜拘置支所に相模原障害者殺傷事件の植松聖被告の接見に行った。ものすごく暑い日だった。この拘置所は居房に冷房がないので、面会の冒頭はその暑さ対策の話になった。それは後述することにして、事件に関わる新たな動きを書いておこう。まだマスコミが報じていないので、植松被告が知ったのもごく最近なのかもしれない。

 殺害された19人の犠牲者遺族の一人が、植松被告を相手取り、賠償請求の民事訴訟を起こしたというのだ。刑事裁判が来年1月から始まるので、恐らくそちらが優先され、民事訴訟の進行はその後になるのだろうが、遺族からのこういう具体的動きはこれが初めてだと思う。

 植松被告が接見の時にそう語ったもので、提訴した側にも裁判所にも確認は取っていないが、話が具体的だし、間違いはないと思う。本人の説明によると、請求額は4400万円。内訳は犠牲者への賠償が3000万円、家族に1000万円、そして残りは裁判や弁護の費用だという。

 1月に始まる刑事裁判をめぐっても、被害者参加制度を利用して被害者家族などが証言を行う方向で調整がされているようだが、一貫して匿名を貫いてきた犠牲者19人の遺族については、そうした動きに具体的にどのように関わることになるのか。出廷して衝立で証言する遺族がいるのかどうかなど、関心を持たれている。

 この7月、事件から3年ということで新聞各社が取材・報道を行ったが、この民事訴訟の件もぜひ取材して報道してほしいと思う。

事件直後に自らの写真をツイッターにあげた
事件直後に自らの写真をツイッターにあげた

 さてもうひとつの話題だが、今年は梅雨の間、涼しい日々が続き、7月末から一気に猛暑となったため、悲鳴を上げている人が多い。熱中症に注意するよう、テレビなどでも盛んに呼びかけがなされている。

 接見した8月1日も朝から猛暑だったが、昨年も植松被告と話題になったが、横浜拘置支所には居房に冷房がついていない。冬の寒さは衣類を着込むとかして何とかしのげるのだが、夏の暑い日々に冷房のない独居房で過ごすというのは、まさに灼熱地獄らしい。植松被告も、夜も暑くて眠れず、既にかなり参っているようだ。

 犠牲になった人たちの苦しみを思えば何ということはない、と非難する人もいるだろう。ただ植松被告に限らず収容されている人たちにとってはこの暑さは相当こたえているらしい。

 拘置所として何か対応策が講じられているのか。植松被告は面会室でこう語った。

「週2回、氷の茶が出されるようになりました。水分補給を怠らないようにということのようです。房の外の廊下には扇風機はあるのですが、どうやら受刑者が廊下で作業を行うためにあるようで、独居房にはその風はほとんど入ってきません。居房にうちわはあるのですが、それだけです。急に暑くなったので、何も手につかない状態です」

 ちなみに外部の人が入る面会室には一応冷房が効いている。外から面会に来る人には冷房が必要という判断のようだ。でもこの猛暑に建物全体として冷房なしというのは、拘置所の職員も参っているらしい。

 横浜拘置支所は施設が老朽化しており、待合室のロッカーも扉がうまく閉まらなかったりする。東京拘置所は、建て替えによって近代化し、冷暖房完備だが、横浜はそれと大変な違いなのだ。

 植松被告も含めて拘置所にいる人たちは、基本的に未決だ。だから刑務所のように労役に服することはない。しかし、この猛暑に冷房なしという生活は、刑罰を受けているようなものだ。どう考えても高齢者など熱中症にかかる恐れがあることは明らかだろう。猛暑が続いて熱中症が多発するようになったら、拘置所としては深刻な問題になるのではないだろうか。冷房のある部屋でも熱中症になる人がいるくらいだから、もしかすると体調を崩す被収容者が続発しているのではないだろうか。

京アニ事件直後の手紙でも「恐ろしい放火事件でした」と
京アニ事件直後の手紙でも「恐ろしい放火事件でした」と

 その日の植松被告との接見では、そのほか京都アニメーションの悲惨な事件などについて話が及んだ。

 「恐ろしい事件ですよね。ああいう犯人を世に出しておいてはいけない」

 植松被告はそう言った。京アニ事件直後の手紙でも彼は同じ感想を書いていた。

 相模原事件も相当凄惨な事件だったと思うが、彼は他の凄惨な事件、例えば外国で起こる大量殺傷事件などについても「恐ろしい事件だと思います」と感想を述べる。他の事件についてはごく常識的な感想で、それと自分自身の事件がどういう違いとして彼の頭の中で整理されているのか。本人に聞くと自分の事件は全く違う、というのだが、世間はそう考えていないわけで、私はいつも不思議に思っている。

植松被告が獄中で描いたイラスト
植松被告が獄中で描いたイラスト

 なお相模原事件についての『創」8月号の特集のうち、反響の大きい座談会を全文、ヤフーニュース雑誌に公開している。ぜひご覧抱きたい。

 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190729-00010000-tsukuru-soci

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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