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福岡市内に「元祖長浜ラーメン」が濫立している異常事態

山路力也フードジャーナリスト
元祖ラーメンの中の元祖である「元祖長浜屋」。

長浜ラーメンの元祖である「元祖長浜屋」

1953(昭和28年)創業の「元祖長浜屋」が長浜ラーメンの元祖だ。
1953(昭和28年)創業の「元祖長浜屋」が長浜ラーメンの元祖だ。

 福岡のご当地ラーメンである「長浜ラーメン」。長浜ラーメンとは博多漁港に面する長浜で生まれたラーメンのこと。1953(昭和28年)に開業した屋台「元祖長浜屋」がその発祥と言われている。

 全国的には「博多ラーメン」の名前を耳にすることが多いだろうが、博多ラーメンと長浜ラーメンは厳密に言えば違うものだ。しかしながらその違いを区別するのは難しく、実際、福岡でも博多ラーメンと長浜ラーメンの明確な差異はなくなっているのが現状だ。

 長浜ラーメンの現状と基礎知識に関しては、以前別の記事を書いているのでここでは割愛するが、福岡には長浜ラーメンというご当地ラーメンがあり、その元祖が元祖長浜屋という店であるということをまずは押さえておいて頂きたい(参考記事:正しく理解しておきたい「長浜ラーメン」の基礎知識)。

「元祖」濫立元年は2009年

元祖長浜屋の目の前にオープンした「元祖ラーメン長浜家(家2)」。現在は上川端に移転している。
元祖長浜屋の目の前にオープンした「元祖ラーメン長浜家(家2)」。現在は上川端に移転している。

 長浜エリアをはじめ福岡市内には長浜ラーメンを名乗る店が少なくないが、元祖である元祖長浜屋はやはり特別な存在だ。地元の人たちには「ガンソ」「ガンナガ」などと呼ばれて親しまれている、ソウルフードのような存在の店なのだ。

 そんな「ガンソ」の周辺が騒がしくなったのが2009年のこと。2008年に道路拡張工事に伴い元祖長浜屋は移転のため閉店する。翌2009年、元祖長浜屋にいた従業員が独立し、これまでいた店の目と鼻の先で「元祖ラーメン 長浜家(通称:家1)」という屋号の店を開業する。

 さらに2010年4月には長浜家にいた従業員が独立し、これもまた至近距離で「元祖ラーメン 長浜家(通称:家2)」というまったく同じ屋号の店を開業。そして5月には元祖長浜屋が移転し営業再開し、8月には長浜屋出身者による「元祖ラーメン 長浜屋台」という店もオープン。元祖長浜屋が移転するタイミングの一年半で、半径100mほどのあいだに4軒もの「ガンソ」が濫立する状況になったのだ。

 右を見ても左を見ても、白い看板に「元祖」「長浜」の文字。店名の違いもほとんどなく、ラーメンはもちろん丼のデザインや店内の雰囲気やシステムまで「元祖長浜屋」に酷似した「ガンソ」の登場。「長浜屋」と「長浜家」や「長浜屋」と「長浜屋台」の違いはまだしも、「元祖ラーメン 長浜家」に至っては二軒とも全く同じ屋号という掟破り。こちらは家1が家2を屋号使用差し止めと損害賠償を訴える騒ぎにもなった(参考資料:日本経済新聞 2013年3月4日)。

 2016年、家2が長浜エリアから中洲川端エリアへ移転したことにより、多少その混乱は落ち着いた感があったが、2018年に入ってまたもや新たなガンソが次々とオープンし、今福岡の人々は再び混乱に見舞われている。

新たな「ガンソ」が相次いでオープン

異なる4つの「ガンソ」。すべて別の店で別の経営によるものだ。
異なる4つの「ガンソ」。すべて別の店で別の経営によるものだ。

 2018年2月、博多駅の東側にあたる東比恵に「元祖ラーメン 長浜男」がオープン。ラーメンだけではなく長浜市場の鮮魚も出すラーメン居酒屋として注目を集めた。さらに翌3月には、天神エリアの南端にあたる今泉に「元祖ラーメン 元長屋」がオープン。こちらは「元祖長浜屋」や「元祖ラーメン 長浜家」にいた人が立ち上げた店だ。さらに7月、西新に近い早良区昭代にオープンしたのが「元祖ラーメン 元長家」。こちらはマー油を浮かべたラーメンや、ラーソーメンのようなつけ麺までメニューに揃えている。

異なる4つのガンソのラーメン。丼の文字以外で区別するのは至難の業だ。
異なる4つのガンソのラーメン。丼の文字以外で区別するのは至難の業だ。

 これらのガンソはすべて経営が異なり、暖簾分けなどでもないまったく別の関係のないラーメン店である。しかしラーメンの味や具材、丼のデザインや替玉のみならず替肉があるシステムなど、屋号以外でその違いを区別することは困難だ。

 もちろん麺の太さやスープの濃さ、肉の形状など細かな部分での差異は感じなくもないが、概ね同じラーメンと言い切ってしまっても問題はないと思う。逆に言えば、これらのガンソたちと他の長浜ラーメン店とは明確に違いがある。同じ長浜ラーメンというカテゴリにありながら、ガンソのラーメンはまったくの別物なのだ。

「元祖ラーメン」はもはやジャンルだ

 つまり、元祖長浜屋をはじめとするこれらの元祖ラーメンは、もはや福岡のご当地ラーメンの「一ジャンル」になっているということだ。一般的に元祖という言葉の意味は「物事を最初に始めた人/始祖」などの意味であり、当たり前だが元祖は一つしかない。本来の意味で元祖を名乗っているのは元祖長浜屋であり、他の店に関しては「札幌ラーメン」や「喜多方ラーメン」と同じく「元祖ラーメン」というラーメンの一ジャンルとして捉えることが一番理解しやすい。

 さらにその関係性は定かではないが、2018年4月にはついに県外の兵庫県姫路にも「元祖ラーメン 長浜元長屋」という店がオープンして注目を集めている。長浜の地から市内に広がりついに県外へ。元祖ラーメンが全国区になる日ももしかしたら近いのかもしれない。

【関連記事:正しく理解しておきたい「長浜ラーメン」の基礎知識

※写真は筆者の撮影によるものです。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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