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サントリー、トップリーグ全勝優勝。沢木敬介監督、「喜んでいるつもり」の背景。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
前年度9位から大きくジャンプアップ。

サントリーが1月14日、日本最高峰であるラグビートップリーグの優勝を決めた。兵庫・ノエビアスタジアム神戸での神戸製鋼戦を27―15で制し、15戦全勝した唯一のチームとして4季ぶりに頂点に立った。

この日は前半13分までに0―8とリードされるなど、序盤は神戸製鋼の用意された攻撃と個々の強いフィジカリティに後手を踏んだ。しかし中盤以降は、本来のペースを取り戻す。立ち上がりから仕掛けた速攻などのボディーブローも効いてか、運動量と連携で徐々に相手を凌駕。後半4分にスコアを21―8とし、以後は主導権を握りながら逃げ切った。

チームは21日から、日本選手権(トップリーグ上位3チームと大学王者の計4チームによるトーナメント戦)に参戦する。

試合後、沢木敬介新監督と流大新キャプテンが共同会見に出席。思いを語った。

以下、会見中の一問一答(編集箇所あり)。

沢木監督

「きょうは神戸さんのプレッシャーに苦労しまして、試合内容的にはあんまりよくない展開だったんですけども、1試合1試合、大事に戦いながら全勝してトップリーグのチャンピオンになれた。それはチームが成長しているということだと思う。ただ、自分たちのターゲットは日本選手権に向いています。また、しっかりと準備したいと思います」

流キャプテン

「きょうのサントリーは、ハングリーであり続けるというテーマで臨みました。ただきょうの前半は、神戸さんの方が明らかにハングリーでした。監督が言われた通り、目指すべき内容ではないです。ただ、1試合、1試合成長して15勝できたことには喜びが大きく…。本当の喜びを掴むため、日本選手権にいい準備で臨みたいです」

――前半は相手反則時、しばし速攻を仕掛けていた。

流キャプテン

「神戸さんには身体の大きいメンバーが揃っている。その選手を動かしていく、というゲームプランのもとおこないました。そうした意思統一はできていたのですが、クイックで行ったこと(選手)へのリアクションが遅くて、(持っている球を相手に掴まれ)ノット・リリース(・ザ・ボール、反則)を取られたり…。もっと、皆がリアクションを速くして、やるべきことをもっと理解しないといけないと思いました」

――反省が多かったという前半を受け、ハーフタイムにどんな指示、確認を。

沢木監督

「若い選手も多くなっている。(そこで問題になったのは)こういうファイナルのゲームへの緊張、ですね。ウォーミングアップから明らかに緊張して、コミュニケーションが取れず、パフォーマンスにそれが表れていた。きょうは、凄くいい経験になったと思います。ハーフタイムは、自分たちが何をしなきゃいけないかをただシンプルに伝えただけです」

流キャプテン

「(ハーフタイムには)ラグビーについては、リアクションのことを言っただけです。あとはメンタル的なところで、ハングリーになり、神戸さんをリスペクトして、と、自分たちが何をすべきかを確認しただけです。

前半の最初の10分、コンタクトスピードが神戸の方がよかった。そこで後ろへ下げられて、下げられて…。フォワードも前半の方が疲れていたと聞きました。僕らがもっと仕掛けて、動いて、神戸にダメージを与えるような前半にしないといけなかった。僕らがやらないといけなかった前半のスタートを、やられたな、と」

――後半12分以降の10分間はウイングの江見翔太選手がシンビン(一時退場処分)を受け、14人でプレーしていた。

流キャプテン

「シンビンになった時はしっかりと我慢強くやることが大事。セットプレーを使いながら時間を使おうと思いました。その点、ディフェンスは凌げたし、時間はかけられた。上手い時間の使い方ができたと思います。ただ、シンビンまでの間、相手につけ入るスキを与えずにコントロールできた部分はあった。チームとしての未熟さが出たのかな、と思います」

――後半18、32、28分と、敵陣でペナルティーゴールを選択。うち2本を小野晃征選手が成功させました。トライを狙う選択肢は。

流キャプテン

「なかなかラインブレイク、アタックの継続が難しくなっていた。ですので、ああいう判断をしました。グラウンド内の神戸の選手も、たぶんここでショットを決められた方がショックは大きかったと思う。トライを取りに行って成功しなかったら、まだゲームはわからなくなる…」

――選手、大久保直弥元監督のもとでのヘッドコーチ、監督としてサントリーの優勝を経験。立場による思いの違いは。

沢木監督

「チャンピオンになる時は、皆が同じベクトルを向いている。そこは同じ。違うところは、前のラグビーよりも進化しているところだと思います。自分たちのラグビーはアグレッシブ・アタッキングラグビーだと言われますけど、前回(ジョーンズ監督時代)はずっとボールキープ。ただ(世界全体の)ラグビーが進化するなか、どうスペースを作り、どうボールを動かすか(を熟考してきた)。アグレッシブ・アタッキングラグビーをするための進化、ラグビー(そのものの)進化はできていると思います」

――スタンドオフの小野晃征選手について。

沢木監督

「晃征だけでなく、全員のラグビーのナレッジ(理解力)が挙がっている。ウチの目指すラグビーをやるにはナレッジが大事。中つる(隆彰・今季最多トライ)がなぜあんなにトライを取れるのか。それはナレッジが上がっているから。流もスペースを見極めている…。毎回、ディシジョンメーキング(状況判断)を入れるというラグビーになっている」

流キャプテン

「晃征さんとは9番、10番(パス交換の多いスクラムハーフとスタンドオフ)ということで、日ごろから喋ることが多い。チームが勝っていくために必要なことを一番厳しく言ってくれた選手です。いつもスタンダードが高く、僕も学ぶべきことが多かった1年でした」

――流キャプテンについて評価を。

沢木監督

「へへへ…(場内笑)。流をキャプテンにしたのは、僕の基準のなかでの勝手な判断です。こう見えて結構、図々しいというか、ぶれずにタフなチョイスができる選手です。パフォーマンスは皆さんが見た通りです。ただ、うちには(同じスクラムハーフに)日和佐(篤)がいます。日和佐、流にそれぞれ持ち味があります。2人がいないとウチのラグビーができない。ウチのラグビーは、それぞれが持ち味を発揮できる戦術になっています」

沢木監督は日本代表のコーチングコーディネーターとして、2015年秋のワールドカップイングランド大会にも参戦。競技に関する見解を率直かつ端的に示すことでも知られる。

例えば11月19日、スポーツ中継チャンネルの「J SPORTS」で日本代表対ウェールズ代表戦を解説。その際のシャープな語り口は、SNS上のラグビーファンの間で話題となった。

流キャプテンは、このほど大学選手権8連覇を達成した帝京大学でも6連覇時のキャプテンを全う。専門的なメディアトレーニングで磨いた受け答えで、ゲームの実相などを具体的かつ紳士的に話す。

前年まであったプレーオフトーナメントが存在しないなか、今季のサントリーはリーグ戦を全勝してトップリーグを制覇。いまは日本選手権を間近に控えている。日ごろからクールさをたたえる指揮官は、喜びを内に秘めているようだった。

――優勝を決めたなか、かなり緊張感を保っているように映りますが。

沢木監督

「それは…(場内笑)。少し、微妙なところで。まだ次(日本選手権)があるんで、僕が『イエーイ』と言っていてもしょうがない。でも、そんな嬉しくないようにしているわけでもなく。僕は、喜んでいるつもりですけども。はい」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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