小田和正 『自己ベスト-3』が好調。<埋もれてしまうような>曲にもこだわり、選んだ16曲が放つ輝き
17年振りの『自己ベストー3』。
17年ぶり3回目の自己記録更新――小田和正のベストアルバム『自己ベスト-3』をニュースの見出し風に表現するとこういう感じだろうか。
前作の『自己ベスト-2』から約17年、待望の『自己ベスト-3』が11月27日にリリースされ、12月3日付のオリコン週間アルバムランキングの2位に初登場し、好調に推移している。ここ数年、小田が“動く”と様々な“歴代最年長記録”を更新することになるが、今回も77歳3か月でのTOP3入りとなり「アルバムTOP3入り最年長アーティスト」記録で歴代1位となった。ちなみに2位は吉田拓郎、3位はポール・マッカートニーだ。
瑞々しく、新しい息吹を吹き込まれた曲達が、生き生きと耳と心に届く
『自己ベスト-3』には、2023年の配信限定シングルや2024年の最新タイアップ曲なども含む、小田自身が納得がいくまで練って選んだ、こだわりの16曲が収録されている。どの曲も小田のボーカルはどこまでも自然体で、まるで柔らかな風に包まれながらその世界に没入できる、そんな作品になっている。歴代最年長記録を打ち立てた作品だが、その内容はどこまでも瑞々しく、新しい息吹を吹き込まれた曲達が生き生きと耳と心に届き、歌に込められた想いが広がっていく。
2002年に発売した『自己ベスト』は「YES-NO」「さよなら」「言葉にできない」等オフコース時代の名曲たちをセルフカヴァーした他、「ラブ・ストーリーは突然に」「キラキラ」などソロになってからのヒットシングルを含む15曲が収録され、300万枚を超える大ヒットを記録。2007年発売の『自己ベスト-2』は、「こころ」(フジテレビ系ドラマ『ファースト・キス』主題歌)「たしかなこと」(明治安田企業CM曲)、「ダイジョウブ」(NHK連続テレビ小説『どんど晴れ』等、タイアップ曲満載+「生まれ来る子供達のために」や「愛の中へ」等のオフコースの楽曲のセルフカヴァーを含む15曲が収録されている。
あれから17年。『自己ベスト-3』の初回生産限定盤は、リマスタリングされ、新しく生まれ変わった『自己ベスト』『自己ベスト-2』との3枚セットの限定BOXになっている。『自己ベスト-3』の収録曲も発売当初の音源が一部リミックスされている。他にも配信限定シングルとしてリリースされた「what’s your message ?」(2023年/フジテレビ系木曜ドラマ『この素晴らしき世界』主題歌)、6年ぶりに再タッグを組んだ、二宮和也主演のドラマ『ブラックペアン シーズン2』(TBS系)主題歌「その先にあるもの」(2024年)、そして約4年ぶりに明治安田企業CMとして書き下ろした「すべて去りがたき日々」(2024年)の3曲が新曲として初収録されている。このように小田のベストアルバムはいつもフレッシュだ。聴き手に過去を振り返る時間を楽しんでもらうだけではなく、現在の小田の歌、新鮮な空気を毎回届けてくれる。
その時のベストを尽くすのが『自己ベスト』シリーズ。オフコース時代の名曲のセルフカヴァーにも注目
今回もそうだ。“普通の”ベストアルバムではなく過去の作品をセルフカヴァーしたり、アレンジはもちろん例えば楽器を差し替えたり、改めてミックスダウンを施したり、常に“更新”している。まさにその時のベストを尽くしたベストアルバムだ。そして『自己ベスト』シリーズでは毎回、オフコース時代の名曲の数々を、創作し、歌った本人が、今の空気を纏わせたアレンジと歌で、セルフカヴァーしている。『自己ベスト-3』にも、オフコースの名盤『OVER』(1981年)に収録され、2007年のシングル「ダイジョウブ」のカップリングとしてセルフカヴァーした「哀しいくらい」と、2002年のシングル「キラキラ」のカップリングに収録された「I LOVE YOU」が収録されている。
過去に二度英語詞で発売された、オフコースの人気曲「哀しいくらい」のカヴァーも収録
「哀しいくらい」は、オフコースの1981年のアルバム『OVER』に収録されている、ファンの中では人気が高い曲で、2度英語詞で発売されている。「緑の日々」(1984年)のカップリング曲「CITY NIGHTS」として、そして2度目は全曲英語詞のアルバム『Back Streets of Tokyo』(1985年)に「MELODY」として収録されている。ちなみに「Sporty」の『OVER』の中では「言葉にできない」の次に再生回数が多いナンバーだ。オリジナルはタイトなリズムが印象的な、間奏ではサックスがフィーチャーされたAORサウンドに、美しいメロディとシンプルで深い歌詞が胸を打つ名曲だ。カバーでは、ピアノとアコギ、トランペットがクールな佇まいのアレンジを作り上げ、小田の柔らかで芯が強い歌と松たか子と光田健一のコーラスが絡んで、美しい世界観ができあがっている。
「哀しいくらい」の次に収録されている「I LOVE YOU」も、小田のピアノと佐橋佳幸のギターが交差し、ネイザン・イーストのベースがうねる、オリジナルとは全く違う表情を見せてくれている。しかし曲の隅々にまで漂う切なさは原曲もこのカバーも同じだ。
「自分には残しておきたい楽曲が、まだまだある」
『自己ベスト-3』について、音楽評論家/ライター・小貫信昭氏が書いたオフィシャルの文章の中に、小田のこんな言葉がある。
「再びこうしたアルバムを出そうと思ったのは、自分には残しておきたい楽曲が、まだまだあったからなんだよ。もちろんベストとなると、〈この曲は入れておきましょう〉みたいな周囲の意見もあるわけで、そこに従いつつ、でも自分としては、そういう機会に入れておかないと〈埋もれてしまうような曲〉にもこだわってね。全体としては少ないものの、そういう作品も選びましたね」。
<埋もれてしまうような曲>とはどの曲のことなんだろうと考えてしまう。例えば「哀しいくらい」も、オフコースの楽曲のセルカバーアルバム『LOOKING BACK』シリーズ2作に収録されていないだけでなく、『自己ベスト』シリーズやベストアルバム『あの日 あの時』にも収録されなかった。今回“ようやく”スポットライトが当てられた…そんな思いを持つファンも多いのではないだろうか。
そして『自己ベスト』シリーズ前2作の時にはなかった配信シングルは、<埋もれてしまうような>そういう存在なのかもしれない。時代の気分はデジタルシングルなのかもしれない。でもアナログ、CD時代を駆け抜けてきた小田とファンにとっては、形として残すことで、大げさかもしれないが“在るべき形”を感じ、改めて楽しめことができるのかもしれない。アルバムの中に並ぶことで、その前後の曲の物語の余韻などの影響も相まって、その曲の佇まいがまた違って見える、聴こえることもある。
<埋もれてしまうような>曲とは?
小貫氏によると小田が<埋もれてしまうような曲>と感じているのは、「遠い海辺」「とくべつなこと」「mata-ne」がそれに当たるとのことで、「とくべつなこと」はアルバム『個人主義』(2000年)のラストに収録されている、別れた恋人達の再会を描いた“揺れる心”を映し出す歌詞を、小田の繊細かつ力強い歌が伝える、どこかモノトーンの世界を感じる一曲だ。「遠い海辺」(1997年)は小田の第2回監督作品の映画『緑の街』の劇中歌だ。恋の始まりを描いたAORバラードで、恋人たちが海辺を歩く姿が鮮やかに映し出される。佐藤竹善の優しく伸びやかなコーラスが曲全体の差し色になっている。キラキラした海を想起させるアレンジ、アウトロのキーボードソロ、聴きどころ満載の、小田が言う<旋律の原風景>(小貫氏)的存在の曲だ。
「mata-ne」(2014年)は小田の多くのソロ作品に参加しているベーシスト、ネイザン・イースト楽曲提供(作曲)した「Finally Home」のカバーだ。同曲に小田が日本語詞をつけ、小田とネイザンがメールのやりとりをする際使用する最後の言葉「mata-ne」をタイトルにした。ストリングスとホーンが大切な友、人とのつながりを大事に思う小田の歌詞と歌を彩る、胸に迫ってくる一曲だ。ちなみに原曲とはガラッと変わっている「mata-ne」のベースを弾いているのも、もちろんネイザン・イーストだ。
味わい深いメロディと真摯な眼差しから生まれる歌詞、言葉を改めて感じ、見えてくるもの
人気曲「Little Tokyo」は、『Far East Café』(1990年)からではなく、『伝えたいことがあるんだ』(1997年)に収録された、再録音バージョンが今回は採用されている。そしてやはり注目すべきは「what’s your message ?」(2023年)「その先にあるもの」(2024年)「すべて去りがたき日々」(2024年)という直近の作品がこのアルバム中で放つ輝きだろう。
その歌から伝わってくるのは温かさ、美しさ、力強さ全てが“増幅”し醸成された“豊潤”さだ。それが冒頭に書いた、“どこまでも自然体で、まるで柔らかな風に包まれながらその世界に没入できる”ことに繋がっているのかもしれない。そして誰もが口ずさめ、歌える曲という、ポップスとしての最高の武器にさらに磨きがかかっている。味わい深いメロディと真摯な眼差しから生まれる歌詞、言葉はまさに“見えてくる”ようだ。これまでと最新の“小田節”を素直に楽しむことができるアルバムだ。
最後の『クリ約』では何を語り、歌うのか。2025年5月から31万人を動員する全国ツアー開催
12月24日には小田のライフワークのひとつになっている『クリスマスの約束2024』が3年振りにオンエアされる(TBS系 12月24日22時より二部に分けてOA)。今年で最後の『クリ約』、どんな想いで収録に臨み、どんな歌い、メッセージを語るのか、楽しみにしているファンが多い。そして先日、2025年5月から全国ツアー「明治安田 Presents Kazumasa Oda Tour 2025 みんなで自己ベスト!!」を開催することが発表され、ファンを狂喜乱舞させた。5月1日静岡エコパアリーナを皮切りに全国13か所28公演、31万人を動員する。小田が再び全国のファンに想いを伝えに行く。