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「金正恩危篤」は本当?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
党政治局員会議(4月11日)に出席した金正恩委員長(出展:労働新聞)

 またぞろ、金正恩委員長に関する「異変説」が流れている。韓国のメディアだけでなく、米CNNやNBCまでが「危篤」「脳死状態」と伝えているだけに内外の関心が集まるのも無理もない。

 金委員長が4月11日に平壌で開催された党政治局委員会議を最後に10日間、動静が伝えられてないこと、12日の最高人民会議を欠席したこと、さらには祖父・金日成主席の誕生日である15日に錦繍山太陽宮殿を「参拝」しなかったことが事の発端となったようだ。

 金委員長はこれまで一度も4月15日の参拝を欠かしたことはない、まして父・金正日総書記の誕生日(2月16日)には参拝し、祖父の誕生日はパスするのはあり得ない等が「異変説」の客観的な根拠となっているようだ。

 振り返れば、今から12年前の2008年、時の最高指導者・故金正日総書記が9月9日の建国60周年の式典を欠席したことから「金総書記に何かあったのでは?」と大騒ぎになったことがあった。軍部隊を視察した8月13日を最後に金総書記の動静は途絶えていた。その後、脳卒中で倒れ、手術していたことがフランス滞在中の長男・金正男氏が有名な脳外科医を平壌に急派していたことで確認が取れた。

 また、金正恩委員長の場合も2014年の時には9月3日以来、ほぼ40日にわたって公式の場に姿を現さなかったことから「健康不安説」が流れたことがあった。この時も9月9日の建国記念日の式典も、25日に召集された最高人民会議も、10月10日の党創建日の参拝も欠席したことから騒がれたが、10月13日に人工衛星の開発に関わる科学者用の住宅建設現場を視察したことで健在が確認された。

 当時、長期不在の理由は明らかにされなかったが、最高人民会議の翌日に朝鮮中央テレビが放映した金正恩活動記録映画の中に金委員長が足を引きずっているシーンが流れ、ナレーターが「不便な体で」精力的に視察していると語っていたことから、痛風を患い、その治療のため療養していたことが判明した。

 今回はどうか?

 北朝鮮当局の「感染者ゼロ」の発表とは裏腹に北朝鮮でも新型コロナウイルスが蔓延しているならば「もしかしたらコロナにかかったのでは?」と思われたとしても不思議ではない。仮に疾患があれば、命に差し障る。

 金委員長は2016年12月にも6日から12日までの約一週間、左足が不自由のまま視察を続けていたことから当時韓国では「高尿酸血症や高脂血症、肥満、糖尿、高血圧などを伴う痛風に苦しんでいるようだ」と報道されていた。

 それと、金委員長は名立たるヘビースモーカーである。金正日総書記の料理人で知られる藤本健二氏によれば、今年37歳の金委員長は未成年の頃から喫煙していた。喫煙が肥満のためか、ストレス解消のためか、定かではないが、金委員長は2016年に「革命をやろうとするな、体も健康でなければならない」と言って、一度だけ禁煙を試みたことがあった。しかし、禁煙は3か月も続かなかった。

 金委員長は2018年3月5日に文在寅大統領が派遣した韓国特使団と会食した際、特使団団長の鄭義溶大統領府国家安保室長から禁煙を勧められる一幕があった。74歳の鄭氏が息子ほど歳の離れた37歳の正恩氏に「たばこは体に悪いので、お止めになったらどうですか」と勧めたところ、同席していた李雪主夫人が「いつもたばこを止めて欲しいと頼んでいるが、言うことを聞いてくれない」と手を叩いて喜び、正恩氏は笑っていたとのことだ。

 そう言えば、祖父の金日成主席も父の金正日総書記も共に愛煙家だった。金主席は還暦過ぎたあたりからはキューバのカストロ議長に勧められたのか、時たま葉巻のようなものを吸っていた。金総書記は外国製のダンヒルにマルコポーロを好んで吸っていた。そして二人とも心筋梗塞で亡くなっている。

 韓国政府は金委員長の肥満が進み、体形や足取りから、過去5年間で体重が約30キロ増えて現在は約130キロと分析している。心臓に負担があるのかわからないが、金委員長の肉声を聞くと、「ぜいぜい」と呼吸が荒々しい。

 こうした健康不安から「病気説」が説得力を持って報じられているが、金委員長が2012年に執権してからほぼ毎年この種の「異変説」が流れ、その結果はすべて推測、憶測、ガセであったことから今回も「大山鳴動して鼠一匹」かもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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