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バスケ界はそこまで人材不足なのか? サッカーの名将・岡田武史がBリーグ理事に就任した理由

大島和人スポーツライター
島田慎二チェアマン(前列中央)と岡田武史新理事(前列右) 写真=B.LEAGUE

Bリーグ新理事に岡田武史氏

Bリーグ(公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ)は9月29日、最高意思決定機関である理事会の新メンバーを発表している。理事は14名で、新任は計7名。“目玉”となる新理事が岡田武史氏(65歳)だった。

岡田新理事はサッカー日本代表の監督としてワールドカップ(W杯)へ2度出場し、今はJ3「FC今治」の代表取締役を務めている。そもそもBリーグの初代チェアマンは元日本サッカー協会会長、Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎氏で、バスケ界とサッカー界の関係は深い。(※川淵氏がチェアマンの時期はまだBリーグの略称がなく、JPBLと呼ばれていた)

とはいえ岡田氏はサッカー界でもバリバリの“現役”で、多忙な日常を送っている。理事就任は大きなサプライズで、メディアでも大きく取り扱われていた。一方で「バスケ界に人材はいないのか?」「まだサッカー頼りなのか?」という、ややネガティブな反応も目に入ってきた。

理事の構成に工夫

2期目を迎える島田慎二チェアマンは、岡田氏を迎えた背景についてこう説明している。

「今治で経営者として様々なことにチャレンジをされていて、当然ながら日本代表(の監督)としてW杯出場を果たしているサッカー界の名将です。地方創生、クラブ経営、育成強化についてお力をいただきたいと考えて、直接私がオファーしました」

Bリーグの理事は合計14名だが、それぞれのバックグラウンドは「バスケ枠」「クラブ枠」「外部有識者枠」の3つに分けられる。

バスケ枠の理事は5名いる。島田チェアマン、日本バスケットボール協会の浜武恭生・専務理事、Bマーケティングの社長を務める鶴宏明氏はいわゆる執行部メンバーで、理事会の核となる3人だ。実務の執行に関わるメンバーは不可避的に大きな影響力を持つが、残る11理事は仮に独断専行があった場合に理事会の議論や議決を通してストップをかけられる。

今回は日本協会・審判委員長の宇田川貴生氏、技術委員長の東野智弥氏もリーグの理事に入っている。この他にクラブ経営者、オーナー企業のトップが「クラブ枠」として4名加わった。

「物言う理事」への期待

岡田武史・新理事は「外部有識者」の枠に入る。企業に例えれば社外取締役に相当する立ち位置で、Bリーグに対して外からのチェックを果たす役割だ。もちろん極端にバスケとの距離が遠い人間を理事に入れても、浮いてしまうだろう。しかし岡田氏はスポーツ、クラブ経営に対する知見が豊富で、Bリーグの置かれた現状を程よく「ずれた目線」で解釈できる人材でもある。

島田チェアマンは29日の発表会見で述べている。

「色んなご意見を活発にいただける理事会、皆様の知見をきっちり吸収できる理事会にして(議論を)前に進めていきたい。“物言う株主”という言葉がありますけど、物言う理事であってほしい」

岡田新理事は、オファーを受けた背景をこう振り返る。

「島田さんから直接『Bリーグの理事に』と電話をいただいて、自分が役に立てるかなと思いましたが、理事会をシャンシャンではなく議論の場にしたいと仰っていました。それなら少しは役に立てるかもしれないという考えとともに、私もBリーグ、バスケ界から色々と学ぶものもあるのではないか、成長できるのではないかと考えました。サッカー協会の会長、Jリーグのチェアマンに相談したら、『サッカー界も曲がり角に来ているので、色んな新しい情報がほしい』とのことで、引き受けました」

岡田武史新理事 写真=B.LEAGUE
岡田武史新理事 写真=B.LEAGUE

スポーツ庁も「外部」「女性」の理事を重視

Jリーグも過去に女子マラソンの有森裕子さん、元プロ野球選手の小宮山悟さんといった他競技出身の理事を起用している。形式的に他競技経験者を呼べばいいという意味ではないが、そういう人選は「アリ」だろう。

スポーツ庁が2019年に示した「スポーツ団体ガバナンスコード」では全理事に占める外部理事の割合を25%以上、女性理事は40%以上と定めている。日本の組織はスポーツ団体に限らず「似たようなキャリアを積んできた中高年男性」が主導権を持つ傾向が強く、その同質性ゆえに意思決定のブレーキがかかりにくい。

全員が“与党”の理事会は議論が深まらない。プロバスケの発展、定着という目的を共有する中で、少し毛色の違う人が混ざったほうがコミュニケーションは活発になる。

Bリーグは今回、女性理事が4人から2人と減っていて、残念ながら女性理事の割合はガバナンスコードの基準を満たせていない。ただ外部理事については、岡田氏も含めて5人を起用している。仮にリーグとクラブが対立したとき、キャスティングボートを持つのは5名の外部有識者で、その潜在的な役割は大きい。

サッカー界は田嶋幸三・日本サッカー協会会長、原博実・Jリーグ副理事長のような往年のトップ選手が、マネジメントでも要職を占めている。バスケはFIBAの介入、2015年の改革で人事のリセットが行われた。その流れから選手や指導者としてトップレベルの実績を持つ人材が協会とリーグに「いなさすぎる」という問題はある。ただ、それと岡田理事の登用は別の問題だ。

お互いが「学び合う」関係

岡田新理事はBリーグで自らが果たす役割について、こう説明する。

「僕が今治でやっていることは、プロサッカーチームの運営を超えているつもりです。地方創生というよりも、新しいコミュニティーを作っていくことをやっている。コロナ禍でスポーツの価値はある意味で上がりました。今までと違う露出ではない価値、みんなを元気にするといったところに、多くの人が気づいている。それをいかにマネタイズしたり、経営に生かしたりしていくか。そういうチャレンジ(の経験)で少しお役に立てるのかなと思っています」

何より岡田氏自身がバスケットボールに関心を持ち、そこから学ぼうとしている。

「バスケの戦術は、サッカーにものすごく役に立つんです。僕も昔、アメリカの有名な監督さんの本を何冊も読んだことがあります。今治でやっている岡田メソッドを、バスケ界の方が勉強に来られて、そういう意味でも交流があります。それとともにBリーグが始まって、サッカーにはできないファンサービス、マーケティングがあるというので、僕も広島ドラゴンフライズの試合に何試合か行って勉強しました。一時Bリーグみたいに試合中にアナウンサー(MC)に、ずっと解説をしてほしいとやらせたら『うるさい』といわれて、サッカーでは全然合わなかったんですけど(苦笑)そういう面白いことをしているのを勉強させてもらいました」

岡田新理事はバスケ界が人材不足だから起用されたわけではない。これからこの競技のインサイダーに加わることもないだろう。ただその知見、発信力はBリーグの発展に役立つし、バスケ界にとって“最強のアウトサイダー”となり得る。そしてバスケ、サッカーに限らず隣接分野から学ぶ姿勢は非常に大切だ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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