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教員不足の窮状を、校長が保護者に訴えた!教員不足の深刻な現実!

前屋毅フリージャーナリスト
教員不足の窮状を校長から保護者に訴えた学校だより   撮影:筆者

 校長から保護者に向けた連絡文書、いわゆる「学校だより」の内容が注目を集めた。東京都調布市のある公立小学校の校長が保護者に発信したものである。

|ヒシヒシと伝わってくる危機感

 その「学校だより」は今年1月9日付で、「3つの学級で教員の休職があり、副校長が担任という状況です」と書かれている。さらに「3人の休職は大きく、ギリギリの状況です」とあり、「3学期はここ数年来での最も大きな『学校のピンチ』だと捉え、今まで以上に教職員でスクラムを組み頑張ってまいります」と述べられている。

 副校長が担任になっているとはいえ、ただでさえ忙しすぎる副校長が、フルタイムで担任の仕事をこなせるわけがない。文面からは、危機感がヒシヒシと伝わってくる。

 同校では昨年の10月、11月、そして今年1月に相次いで教員が休職にはいっている。2人は病休で、1人は家族の介護のためだという。病休は、突然にやってくる。3人の場合も、休職の意向が校長に伝えられたのは、休職にはいる1週間足らず前のことでしかなかった。

 ただでさえ教員不足が叫ばれているなかで、そうそう簡単に補充できるものではない。相次ぐ病休の連絡を受けて、この学校でも校長と副校長がいろいろと手を尽くしてみたものの代替の教員をみつけることができず、校長に取材した2月半ばでも3人のクラス担任が足りないままの状況が続いていた。

|保護者に理解してもらうしかない事態

 なぜ、校長は「学校だより」で保護者に現状を報告したのか。その理由を、校長に訊いた。

「迷いましたが、全保護者に伝えて理解をえることが必要だとおもったからです。3クラスで担任のいない状況になると、影響はすべての教職員に及ぶので、保護者の理解が必要だと考えました」

 担任のいないクラスは授業をしない、というわけにはいかない。残っている教員が時間をやり繰りしながら授業を実施している。音楽の時間など専科の教員が担当する時間は、クラス担任は授業をしない「空き時間」となる。

 といっても、「休憩時間」ではない。授業準備をしたり採点をしたり、授業を円滑に行うためにやらなければならない仕事をする、必要不可欠な時間である。この「空き時間」の教員が、クラス担任が休職しているクラスの授業を交代でやることになる。「空き時間」にやっていた仕事をやらないわけにはいかないので、当然ながら、教員の労働時間は増えてしまう。

「教職員は全員ががんばっています。それでも手が足りないのが現状です。この状況を『学校だより』で保護者に知っていただくことで、たとえば欠席連絡を電話ではなくてメールでしていただければ、教職員の時間は節約でき、負担を少しでも減らすことになります。そういう協力をお願いしたかった」

 そんなわずかの時間も惜しいほど、教員不足の影響は大きい。どうしても、保護者の協力が必要だった。

 さらに、高学年の算数では少人数指導を実施するために教員が増やされている。これを、「加配」という。担任がいないクラスの授業を実施するために、この加配の教員を充てる必要があった。そのため、少人数指導を3学期には停止してしまっている。

 事情を知らない保護者からは、クレームがでかねない。学校のおかれている状況を知ってもらい、理解してもらう必要があった。

 そこまでしても全部の授業時間を埋めることは難しく、本来なら授業をしない校長も授業を担当している状態だ。校長の仕事がなくなるわけでもないので、校長の負担も増えるばかりだ。

|保護者の反応は早かった

「学校だより」からの保護者の反応は早かった。教員の負担を減らすために、欠席連絡をはじめ、提出物や集金の締め切りを守るなど保護者が率先して協力してくれるようになった。

 さらに、休み時間などの「見守り」にも保護者がはいるようになったという。教員がやり繰りすることで授業はやっているものの、休み時間や給食時間などでは、子どもに目が届かなくなる場面もでてくる。そこを、保護者がサポートしているのだ。「学校だより」で教員不足を報告した意義は大きかったといえる。

「保護者の協力には、ほんとうに感謝しています。学校に保護者に関わってもらえることが大事なことも、あらためて実感できました」と、反応の大きさに校長も驚いている。

 そうなると、「教員不足は保護者の協力で補えばいい」という短絡的な意見がでてくるかもしれない。そうした見方に、校長は反対する。

「保護者に頼ってばかりでは、教員不足問題の根本的な解決にはつながりません」と、校長は言う。非常事態だからこそ保護者も協力してくれてはいるが、保護者も忙しいのだから、ボランティアで「いつまでも」というわけにはいかない。

「新年度が始まる4月には、休職している3人のうち2人は職場復帰する予定です。なので、見守りなどの保護者の協力は3月いっぱいまで、と考えています」と、校長。

|必要なのは根本的な解決

 とはいえ、休職している教員の体調が、4月には完全に回復しているという保証はない。再び体調を崩して休職という可能性も否定できない。

 さらには、ほかの教員が病気で休職する可能性すらある。常に担任のいないクラスがでてしまうリスクと背中合わせの状態だといえる。それは、この学校にかぎらず、日本全国の学校にもいえることである。

 文科省が2023年6月20日に全国の都道府県・政令市の教育委員会にアンケートを行った結果をまとめているが、小中高と特別支援学校を合わせた全体で、23年度始業日時点の教員不足は、22年度当初と比べて「悪化した」との回答が全体の42.6%(29団体)で最も多く、「同程度」が41.2%(28団体)と続いていた。両方を合わせると、83.8%にもなる。これだけみても、全国での教員不足の深刻さがわかる。

 しかも、これは年度始業日時点の数字である。年度始業時は、どこも頭数を必死にそろえてくる。それでも、この数字である。教員不足が本格化するのは、この年度始業時以降である。今回取材した学校でも、3名もの教員不足になったのは、年末年始である。文科省の調査も調査時点を変えれば、もっと深刻な教員不足が浮かび上がってくるはずだ。

 ともかく、教員不足は学校の抱える大きな悩みであることはまちがいない。今回取材した調布市の小学校のように、保護者の協力で一時しのぎはできるかもしれないが、それで解決される問題ではない。どうすれば根本的な解決になるのか、今回取材した校長はきっぱりと言う。

「教員の数を増やさないことには根本的な解決にはなりません。いつ教員が病欠してしまうかわからない状況にも対応できるだけの教員の数を確保することが必要だとおもいます」

 そのためには、教員が「働きたい」とおもえる環境を整えることが先決である。そこへの対応を疎かにしておいて、「教員を確保しろ」と叫んでいるだけの文科省の姿勢では、教員不足は解消しないだろう。今回取材した調布市の小学校も、保護者の協力でなんとか乗り切っているとはいえ、かなり難しい状況にあることはまちがいない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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